世界最高峰の豪華絢爛なガーデニング大会“チェルシー・フラワーショー”に、雑草とサンザシの木だけという斬新な作品で挑んだアイルランドの田舎娘、メアリー。その奮闘を描いた映画『フラワーショウ!』で、主人公のモデルとなったランドスケープ・デザイナーのメアリー・レイノルズさんを取材しました!権威主義がはびこる同大会に新風を巻き起こした彼女。その型破りなサクセス・ストーリーの裏には、どんな秘密があったのでしょうか?
PROFILE
1974年生まれ、アイルランド出身。ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンにてランドスケープ・デザインの優等学位を取得し、同年にランドスケープ・デザインの会社を設立。その後、アイルランドの個人宅の庭園デザインやテレビ局(RTE)で、デザインのアドバイスを行う。2002年に“チェルシー・フラワーショー”のショー・ガーデン部門に初エントリーで金賞を受賞。アイルランド人として初受賞であり、当時の歴代最年少記録を樹立。翌年、英国政府より依頼を受け、ロンドンのキュー王立植物園(世界遺産)の野生庭園の設計を手掛ける。当初はサマーフェスティバル用の数ヶ月の展示予定であったが、人気を博し5年間も維持された。2011年には、ガーデニング番組(BBC)の司会を務める。絶大な人気を博すランドスケープ・デザイナーのダーマッド・ギャビンが選出する「世界で最も偉大なランドスケープ・デザイナー10人」にも選出された。
ミン:
夢を追う人たちに薦めたくなる、力強いメッセージに溢れた映画でした。困難に出会っても、それを上回る強い意志と好奇心があなたを突き動かしていましたが、新しいことに挑戦する際に、怖いと思ったり気弱になることはないのですか?
メアリー・レイノルズさん:
もちろん、あります。ですが、何かを成し遂げる時に、困難は避けて通れないものだと思うのです。アメリカの神話学者であるジョセフ・キャンベル*の著書の中に、“すべての人の物語は円環を描く”という言葉があるのですが、彼は、“己の進むべき道を知り、その道を行く時は洞穴に入ってドラゴンと対決し、それを乗り越えなければいけない”と語っています。もちろん、恐怖心とも対峙しなければなりません。また、それを乗り越えてもなお“もう無理だ!”と思うような瞬間に必ずぶつかると言っています。しかし、この一連のプロセスを通過することで初めて物語が帰結し、円環を描くことができるのです。
注釈* ジョセフ・キャンベル(Joseph Campbell)はアメリカの神話学者で思想家。1904年生まれ、1987年没。多くの英雄神話を研究した末に辿り着いたパターン・モデル「英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー)」が有名。人類の無意識の中に普遍的に存在するとされるこの法則は『スター・ウォーズ』をはじめとする多くの映画作品にも影響をもたらしている。
ミン:
キャンベル氏の影響は、かなり昔から受けていたのですか?
メアリー・レイノルズさん:
いえ、実は彼の著書を読んだのは1年ほど前なのです。でも、私自身がずっと感じ続けていたことを、言葉として明確に示されたような気がしました。自分のやるべき道を進んでいる人なら、誰もが「なるほど、そういうことだったんだ!」と、合点がいくのではないでしょうか?
ミン:
たしかに、私自身にも思い当たる節があります。ところで、本作には、あなたが出会ったスピリチュアルなエピソードもたくさん出てきますよね。このような神聖な体験やインスピレーションがあなたを導いているようにも思えるのですが、いかがですか?
メアリー・レイノルズさん:
その通りです。最初にスピリチュアルな体験をしたのは、5、6歳の頃だったでしょうか。私はアイルランドのウェックスフォード州出身で、両親は農家を営みながらフルタイムの仕事にも出ていました。6人兄弟の末っ子でしたが、兄弟とは歳も離れていて、自然を相手に一人で遊ぶことが多かったんですね。ある日、低木の茂みに入って出られなくなったことがあって。最初は恐怖を感じましたが、しばらくそこに佇んでいると、木々の間から見える日差しは美しく、その中を蝶や蜂たちが飛び回り、まるで自然が私の気を引こうとしているような感覚に襲われました。自然と自分との大いなる繋がりに気づき、私にとってここが一番安全な場所だと感じたのです。以来、スピリチュアルな世界の扉が開き、私の人生に大きな影響をもたらしています。エチオピアで見たビジョンは、さすがに映画で描かれていたほどドラマティックなものではなかったですけどね(笑)。
ミン:
そのような特別な体験は、誰もができるものだと思いますか?
メアリー・レイノルズさん:
もちろん特別なことではなく、誰もが体験できることです。映画の中で描かれているように、突然に物事が動き出したり、ダメだと思った時に扉が開くような経験を私は今までに何度もしています。眠る前には理解できなかったことが、夢を見たおかげで理解できたとことも数多くありました。自然との繋りに心を開き、進むべき道に勇気をもって挑むことで、誰もがこうした体験に巡りあえるはずです。
ミン:
大変興味深いお話をありがとうございました。最後に、ご自身が主人公のモデルとなった映画を観た率直な感想をどうぞ!
メアリー・レイノルズさん:
では、ひと言だけ。“とっても奇妙!”です。短すぎたかしら(笑)?
2016年6月10日取材&TEXT by min
2016年7月2日より全国公開
監督・脚本:ヴィヴィアン・デ・コルシィ
出演:エマ・グリーンウェル/トム・ヒューズ/クリスティン・マルツァーノ
配給:クロックワークス
世界最古にして最高峰のガーデニング大会、“チェルシー・フラワーショー”。エリザベス女王が総裁を務め、英国王立園芸協会主催するという豪華絢爛たる舞台に、雑草とサンザシの木だけという型破りなアプローチで挑んだ一人の女性がいた。コネもお金も経験もない、アイルランドの田舎娘メアリー・レイノルズが、権威主義がはびこる保守的なフラワーショーに新風を呼び込み、ショーの歴史を塗り変えた爽快サクセス・ストーリー。次々と立ちはだかる困難に “雑草魂” で立ち向かう彼女が完成させた、本当に美しい庭とは…?