コリン・ファースが製作に名を連ねる本作。彼は脚本、キャスティングにも携わったそうですが、アーロン・ポール、アラン・リックマンの配役もコリンのアイデアとのこと。またオーディションに彼が出席できないときは、オーディション時の映像をすべて観て配役したそうです。今回、そんなコリン・ファースとともに英国の映画製作会社“レインドッグ・フィルムズ”を立ち上げ、本作を製作した、ジェド・ドハティさんが来日。音楽業界の重鎮といってもよい彼が、今度は映画でどんなメッセージを世に伝えようとしているのか、お話を伺いました。
PROFILE
ソニー・ミュージックUKの元会長兼CEOで、現在、英国レコード産業協会の会長も務めている。2012年、オスカー俳優コリン・ファースと英国の映画製作会社“レインドッグ・フィルムズ”をロンドンに設立。同社製作2作目の長編となる、ジェフ・ニコルズ脚本・監督、ジョエル・エドガートンとルース・ネッガ主演作『ラビング 愛という名前のふたり』は2017年3月に日本で公開される。
音楽業界での経歴としては、アーティストのマネージメントの仕事を始め、担当歌手達のレコードを2000万枚売り、1992年にエピック・レコードの国際マーケティング部門のトップに。マイケル・ジャクソンなどスーパースターの世界規模の販売キャンペーンを取り仕切り、1996年、コロンビア・レコードUKの取締役社長に就任。1999年、BMGレーベル・グループに移り、サイモン・コーウェルと出会い、長きに渡り良好なビジネス関係を持つ。2004年のBMGとソニー・ミュージックの買収に必要不可欠な存在だったことから、2006年に会長職を引き継ぎ、キング・オブ・レオン、カルヴィン・ハリス、ビヨンセ、フーファイターズなどのアーティストと仕事をした。ソニー・ミュージック在籍中の2009年には、ソニーとサイモン・コーウェルが経営する音楽エンターテインメント会社“サイコ”との国際ジョイント・ベンチャー設立に関与。
マイソン:
今回、重要な判断を下す立場のキャラクターとして、キャサリン・パウエル大佐や会議室にいる政治家アンジェラ・ノース、無人機操縦士のキャリー・ガーションなどが、女性となっていますが、何か特別な意図はありますか?
ジェド・ドハティさん:
コリン・ファースもギャヴィン・フッド監督も私もフェミニストで、女性にもっと大切な役を与えていくべきだと思っているんですね。ヘレン・ミレンが演じた役は脚本ではもともと男性だったんですが、ギャヴィンのアイデアで女性にしました。これは素晴らしいアイデアです。今までの戦争映画で重要な立場に女性が配役されることがなかったので、それによってこの作品は今までと違う見方、違う意味合いのある作品に仕上がっていると思います。また、アメリカの政治家として女性も出てきますが、それも現実に今あることなので、そういう描き方をしました。それに、男性より女性が世の中を仕切ったほうが、より安心できる場所になると思います。
マイソン:
今回、少女を救うか大勢を救うかというところが物語の鍵となっていました。女性は本能的に母性が働くと思うので、そういった部分でも女性キャラクターの役割は物語の流れに大きく関わってくると思いました。重要な判断を下す各ポイントに、3人の女性がいましたが、今まで他国で公開されて、女性からはどんな反応がありましたか?
ジェド・ドハティさん:
まず、ヘレン・ミレンが演じている役を男性から女性に変えたとき、私達が願っていたことは、観客が、あの役が女性であることによって、少女がいる場所にはミサイルを発射しないであろうと推測してもらいたかったんです。実際はその逆で、女性だからといって容赦するということはなく、テロリストを捕らえるために、彼女は発射するほうを推していく役柄です。そのギャップを観客に楽しんでもらいたかったというのはあります。他国で上映した際の女性の反応は、やはりすごくポジティブなもので、一つは女性が重要な役を演じている点。そして、女性キャラクターのバックグラウンド、つまり家族についてや、家でどうこうしているかなどを描かずに、ただ軍の高い地位にいる女性を描いているという意味でいろいろな人が賞賛しています。上映後に女性はもちろん男性も泣いている方が多いので、両方の性に訴えていく作品なのだろうと思います。
マイソン:
戦争が身近に感じられない日本のような国で、こういったテーマの映画をヒットさせるには何が必要だと思いますか?
ジェド・ドハティさん:
道徳的な議論が沸き起これば、この映画はもっと広まっていくのではないかと思います。ただ、これは戦争を描いているだけではなくて、テレビとか衛星とかで世の中は繋がっていますが、結局、戦争でドローンを操作するにおいても、個人的な判断、人間一人ひとりの判断が必要だということを伝えたかったんです。日本が平和な国であることは嬉しいことですが、そういうことを感じ取って、道徳的な議論が沸き起これば、そしてあなたならどうするかを考えてくれれば、この映画はもっと多くの人に観てもらえるのではないかと思います。
マイソン:
ドハティさんは、これまで音楽業界でご活躍されていましたが、音楽を扱う、映画を扱う上での共通点とおもしろさをお聞かせください。
ジェド・ドハティさん:
音楽は3〜4分、映画は90分でストーリーを伝えるという意味で似ていると思うんです。ともに、この世の中でとても重要なメディアだし、何か変革をもたらす、人々に考えさせるという意味で、この2つは似ていて、そこがとてもおもしろいと感じています。
マイソン
ありがとうございました!
業界の超大物であるジェド・ドハティさんですが、すごく気さくな方でとてもフレンドリーに接してくださいました。エンターテインメントを知り尽くしている人物が手掛ける作品として、こういった社会派映画を、新しい会社が手掛ける1作目に選んだのは何故なんだろうと思っていましたが、ジェド・ドハティさんは音楽業界で成功していて、コリン・ファースも映画業界で成功していたので、どんな作品を作るか選ぶ余地があり、世の中のためになる作品にしようと同意し、本作を作るに至ったそうです。そんな本作については、できるだけ現実に忠実に描くようにするため、調査を重ね、英国軍、元英国軍にいた人、アメリカでドローンのパイロットをやっていた人、そういうアドバイザーを呼んで、一緒に確認しながら脚本を書いていったそうです。難しいイメージを持たれてしまうジャンルではありますが、インタビューにもあった通り、女性が観ても感情移入でき、考えさせられるテーマで描かれた作品です。ぜひご覧ください。
2016年11月15日取材&TEXT by Myson
2016年12月23日(金)より全国公開
製作:ジェド・ドハティ/コリン・ファース/デヴィッド・ランカスター
監督:ギャヴィン・フッド
出演:ヘレン・ミレン/アーロン・ポール/アラン・リックマン/イアン・グレン/フィービー・フォックス/バーカット・アブディ/ジェレミー・ノーサム
配給:ファントム・フィルム
イギリス軍諜報機関の大佐キャサリン・パウエルは、国防相のフランク・ベンソン中将や、アメリカ軍と協力し、英米合同テロリスト捕獲作戦を遂行。“空の目”であるリーパー無人航空機は、上空6000mから、ケニアのナイロビにある隠れ家で密会するテロリスト達を突き止めるが、イギリス、アメリカ、ケニアの司令官達がいる会議室では、お互いの立場や利害関係などが絡み、作戦実行までに時間を要していた。そんな時、一人の幼い少女がターゲットとなる隠れ家の近くでパンを売り始めたことから、思わぬ事態に発展していく。
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