哲学的な映画が好きなので、テレンス・マリック監督の作品は好きなのですが、とっつきやすいとは言えない難解な面があります。もちろん、そこがおもしろさでもあるのですが、今回プロデューサーのソフォクレス・タシオリスさんが来日されるとのことで、本作について、いろいろな疑問をぶつけてきました!テレンス・マリック監督がどんな方なのかも聞いてみましたよ。
PROFILE
ドイツ、ベルリンを拠点に活動する、国際映画のプロデューサー。ベルリン工科大学(TU Berlin)で宇宙工学を専攻する傍ら、BILDO Academy Berlinでメディアデザインとメディアアートを学び、修了後、Arte誌、BBC社、CanaPlus社、ZFD社など、さまざまな放送局、映画作成会社に勤務。その後1991年に、THE SA Film社およびFernseh produktion社を立ち上げ、1998年には、Hope & Glory社を創設した。2005年、自らのプロダクション会社であるSophisticated Films社を創設し、ここを拠点に活動している。『ボヤージュ・オブ・タイム』ではメインプロデューサーの一人となり、IMAXやWild Bunchといった国際パートナーとの関係構築に努めた。多くのドキュメンタリー作品にプロデューサーまたは共同プロデューサーとして携わってきたが、代表作は『チアリーダー・ストーリー』『ディープ・ブルー』『アース』等。ちなみに彼が手掛けた作品は、上映向けドキュメンタリー映画作品における興行収入売上トップ10のうち、常にその1位と2位を守り抜いている。
マイソン:
テレンス・マリック監督が40年練っていた構想を今映像化されたとのことですが、本作を観てあまりに壮大なストーリーに、テレンス・マリック監督の頭のなかはどんなことになっているのだろうと思いました。実際に監督はどんな方ですか?
ソフォクレス・タシオリスさん:
テリーは最も心優しい、昔ながらの紳士です。とても謙虚で、妻のためにドアを開けるようなタイプ。とても博学で「そんなことまでいろいろと知っているんだ!」と、時にこちらの方が動揺してしまうほどです。私はギリシャ系なのですが、お会いしたときにギリシャの古代の詩編を突然読み上げて「発音はどう?」って聞かれたりするんです。それで「すみません、僕、古代のギリシャ語はしゃべれないんです」と言うと、「なんでしゃべれないんだ!」って言われたり(笑)。だって、(古代ギリシャ語なんて)誰もしゃべっていませんよね(笑)。彼は74歳ですが、そのエネルギーたるやすごいものがあります。僕も同じ年齢になったときに、半分のエネルギーでも持っていたいと望むくらいです。
マイソン:
壮大過ぎるストーリーは、映像化されたものを観る私達には伝わっても、スタッフの方々が監督の頭のなかを理解することは、とても難しいのではと思いました。皆さんはすぐに理解できたのでしょうか?
ソフォクレス・タシオリスさん:
興味深い質問ですね。映画作りというのはプロセスですから、お互いに信頼しなければいけません。プロデューサーと監督の間には強い絆が必要ですから、プロジェクトを始める前に“共通したビジョンは何なのか”ということを、きちんと確認し合わなければなりません。もちろん、この作品は綴れるストーリーのなかでも最も壮大なストーリーですので、事前にポイントを押さえなければいけないところがありました。参加したとき、僕が一番聞かなければいけないと思った質問の一つが、“これは宗教的な映画なのか”ということでした。こういうことについて話せば、神とか創造についての質問が当然生まれるわけで、だから僕らは事前にスピリチュアルな映画にしようと監督と確認しました。スピリチュアルではあるけれども、例えば、仏教、イスラム教、キリスト教など、一つに限定したものではない、すべての人に通じるものにしようと思いました。僕はもともと工学を勉強していて科学者的な論理的思考を持っているタイプですが、同時にこの作品を手掛けたことはインスピレーションによるものが大きかったです。この作品は、ハードファクト(変えようのない事実)、生物学、科学が基礎となっていますが、それをさらにスピリチュアルなレベルにするという作業が非常におもしろかったです。時には、プロデューサーと監督で意見が合わないこともありますが、テリーはすごくオープンな人なので、ちゃんと僕らの意見に耳を傾けてくれるんです。もちろん異論は確固として持っていますが、きちんとロジカルに彼を説得することができれば、彼もまた理解を示してくれます。僕にとっては素晴らしいコラボレーションであり、良い経験でした。
マイソン:
実際の生物なのだろうと思う映像と、再現か想像かで作られたと思われる映像がありましたが、その境界線が良い意味で感じられずに全部リアルでした。現在はいないと思われる恐竜などを含む生物については何かの情報をもとに作られているのでしょうか?またその点でこだわった点はありますか?
ソフォクレス・タシオリスさん:
それもプロセスで、まず歴史のなかで重要なポイントは何になるのかを決めました。一部では過去の画(え)を実際に撮ることもできたんです。というのは、ハッブル宇宙望遠鏡で撮る映像は過去の画でもあるので、そういう意味で過去を実際に撮ることもできた。もう一つ、テリーは、プリンストン大学の教授で宇宙学の専門家に手紙を書き、「こういう映画を作りたい」と相談したそうなんです。ビッグバンからビッグバンまでの時間の旅の映画を作りたいと手紙に綴り、いろいろな対話がそこから始まったそうです。テリーはすごく好奇心旺盛で、科学者にたくさんの質問をぶつけていました。「宇宙がどういう風に生まれてきたか、イメージはありますか?」「どんな理論が実際にあって、それをどういう風に頭に思い浮かべますか?」という質問にフィードバックをもらって、記録していったんですね。また、そういう理論に関する本を読んだり、それをどう視覚化するかという方法を模索していました。そのプロセスのなかで、スタンリー・キューブリック監督の映画『2001年宇宙の旅』(1968)のSFXを手掛けたダグラス・トランブルさんにもお会いして、「こういう科学的根拠がある」とか、「こういう風に宇宙が生まれた」とか、「これをどういう風に表現すればいいかな」ということを相談していました。色彩、液体、煙、炎などといった物理的でアナログなエフェクトを使っての映像化を試みたり、いろいろな方のアイデアを集めていきました。そしてもちろん、宇宙や過去についてわれわれはいろいろなことを発見しています。テリーは、科学のシンポジウムに足を運んだり、大学の講義に行ったり、いろいろな人に話をして、結果的には40人くらいの科学者や教授達がコンサルタントとしてこの作品を手伝ってくれました。ブラックホールの専門家、太陽系の専門家、太陽の専門家、生物学者、2億年前の木がどんな姿をしていたのかを聞いたり、それぞれの分野のスペシャリストに相談しました。例えば、全く一緒ではないですが、現存する似た木があればそれが生えているところに行って撮影して、そこからデジタル・エフェクトで昔のものにする作業をしたり、なるべく正確に、なるべくリアルに撮りました。だから、この映画はSFではないんです。
マイソン:
では、劇中で出てくる変わった動物も実際にいたということですか?
ソフォクレス・タシオリスさん:
はい、そうです。爬虫類はほとんど変わっていないんですよね。何百万年前と同じ姿をしています。アイスランドやカムチャッカのような場所に行けば、この映画の中と同じように20億年前そのままの姿の土地もあるんですよ。これも製作過程、プロセスの一環で、映画的観点からいうと、映画的言語が使われている。僕からすると、『ボヤージュ・オブ・タイム』に到達するまでの何か進化を感じます。だから僕にとって、この作品はテレンス・マリック監督が求める“意識下で気持ちに訴えかける映画的言語をもった映画”なのです。
マイソン:
テレンス・マリック監督の作品にはすごく抽象的な、概念的なストーリーが多いなと思っていたので、“映画的言語”という概念に今合点がいきました。
ソフォクレス・タシオリスさん:
そうなんですよね。僕も時々、観客としてなかなかアクセスしづらいなと思うことがあるんですが、今はテリーにそのことはハッキリ言っています。『アース』や『ディープ・ブルー』のような動物が出てくる作品が、観客にすごくエモーショナルに訴えかけるのは簡単かも知れませんが、惑星や宇宙をエモーショナルにどう見せればいいのか、これはかなり話し合いました。
マイソン:
そういう面もありながら、本作を日本の広い層に観てもらうために、どういう姿勢で観ればいいのか、観るコツを教えてください。
ソフォクレス・タシオリスさん:
ははは(笑)。これは“時”の旅でもあるけれど、自分の内への旅でもあると思うんです。すべてのものに宿る美しさを発見して頂きたい。そして美しさだけではなく、今のわれわれの生きる世界に存在する貧困なども描かれていますが、インスピレーションを受け、心を動かされていて欲しい、「ああ、こんなに皆、繋がっているんだな」ということに。優しさ、親切な心、これはテレンス・マリック監督の作品すべてに共通するものではないでしょうか。本当に小さなものにも、本当に壮大なものにも、それを見出すことができるのだと感じて頂きたいですね。
マイソン:
なるほど!では最後に、ブラッド・ピットやケイト・ブランシェットについてお聞かせください。テレンス・マリック監督が、彼らを含め多くの俳優達を魅了し、彼らに関わりたいと思わせるのは何故だと思いますか?ブラッド・ピットは今回製作としてどんな関わりをしているのでしょうか?
ソフォクレス・タシオリスさん:
テリーとブラッドは長い関係を持っています。ブラッドは『ツリー・オブ・ライフ』(2011)で友情が生まれ、それ以降、この作品に限らず、テリーのためにいろいろなきっかけを作ったり、人と人を繋げたり、尽力しているそうです。監督に会えば、とにかく『ボヤージュ・オブ・タイム』の話をするんですよ。僕らが求めた声は、この作品、ストーリーの重みを、エモーショナルな形で綴れる人だったんです。力、強さ、想像力をすべて持っているのがケイトだったんですね。この作品には45分のIMAXバージョンもあって、そちらはブラッドが声をあてていて、内容が違うんです。女性はよりエモーショナルであり同時に想像力が豊かで、男性はわりと理性的なところがあって、それぞれは同じ物語の違うバージョンなのだけれど、IMAXバージョンではいろいろなものがより説明されています。90分のほうは、もっと詩的な旅なのです。マイソンさんには両方観ていただかなくてはならないですね(笑)。
マイソン:
IMAXバージョンも観てみます!本日はありがとうございました。
2017年2月2日取材&TEXT by Myson
2017年3月10日(金)より全国順次公開
監督:テレンス・マリック
ナレーション:ケイト・ブランシェット /日本語版語り:中谷美紀
配給:ギャガ
爆発により宇宙は生まれ、惑星は変化を遂げてきた。そのなかで命が宿り、育まれていく…。過去、現在、未来へと生命の歩みの本質を問う、詩的なナレーションとともに、自然科学から見た年代記を映像で辿っていく。
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