ケータイを見せ合うという究極の信頼ゲームをきっかけに、親密だったはずの家族や友人の間にさまざまな問題が起こる姿を描くブラックコメディ、『おとなの事情』。イタリアのアカデミー賞こと、ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で作品賞と脚本賞をW受賞し、本国では驚異的な28週間ロングランを記録した本作のパオロ・ジェノヴェーゼ監督にインタビューしました。撮影の裏話や、監督のプライベートなケータイ事情にも迫っちゃいました!
PROFILE
1966年、ローマ生まれ。大学卒業後は広告業界に進み、300以上のCMを監督して多くの賞を受賞。その後、映画製作も手掛けるようになり、ルカ・ミニエロと共同監督した短編『Neapolitan Spell』(1998)がロカルノ映画祭で注目を浴びる。同コンビで監督を務めた『Neapolitan Spell』(2002)で長編デビューし、ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞を受賞。単独では『La banda dei Babbi Natale』(2010)で監督デビューし、イタリアで大ヒットを記録。『Immaturi<未熟者たち>』(2011)のヒットにより、コメディのヒットメーカーとして人気を博す。本作は、世界中からリメイクのオファーが殺到している。
ミン:
ゲームが始まってすぐにコジモのケータイが鳴りますが、その着メロが「I will survive」で(笑)。彼の心境を表しているようで、思わず吹き出してしまいました。
パオロ・ジェノヴェーゼ監督:
あの時点では、コジモだけでなく、全員が自分の秘密を賭けたサヴァイヴァル・ゲームに勝ち残ろうという気持ちでいるわけですから、シンボリックな曲として選んだのです。
ミン:
まさに、ゲームに参加した全員の心境を言い当てた着メロだったのですね(笑)。音楽の部分で言えば、終盤のギター曲がすごくエモーショナルで、作品をよりドラマティックに印象付けていたと思います。音楽に対するこだわりをお聞かせいただけますか。
パオロ・ジェノヴェーゼ監督:
映画のなかで音楽を活用することが好きですし、こだわる部分でもあります。本作も「I will survive」以外は、オリジナル楽曲なんですよ。もちろん楽曲制作は、専門家に頼んでいますが、「このシーンでは、こんな曲が流れていてほしい」というイメージを既存の曲を使って伝えたりしています。
ミン:
日本でも特に恋人や夫婦間で相手のケータイを見るかということが、よく論争になります。監督ご自身はパートナーのケータイを見るという行為をどう思われますか。
パオロ・ジェノヴェーゼ監督:
少なくとも、僕は見ないですよ(笑)。
ミン:
これまでに、一度くらいは見たいと思ったことはありませんか?
パオロ・ジェノヴェーゼ監督:
まあ、好奇心は誰でもあると思うけど(笑)、絶対見ないほうがいいと思う。
ミン:
しつこく食い下がりますが(笑)。逆にこれまでにご自分のケータイを恋人やパートナーに見られたご経験は?
パオロ・ジェノヴェーゼ監督:
ケータイ電話が原因と思えるような悲劇的な論争をした記憶がないので、多分ないと思います。もしくは、知らないところで見られてはいたけど、何もあやしいところがなかったのかな(笑)。
ミン:
本作は、スペインやギリシャでリメイク版の製作が決定しているほか、世界中からリメイクのオファーがきているそうですが、今後、各国でリメイク版が作られるとしたら、どの国の作品を観てみたいですか。
パオロ・ジェノヴェーゼ監督:
個人的に観てみたいのは、アメリカ版かな。どんなキャスティングになるのかに、興味が沸きますね。
ミン:
もし、監督がアメリカ版をキャスティングするとしたら、誰にどの役をやってもらいますか?
パオロ・ジェノヴェーゼ監督:
今パッと思い付いたのは、エヴァがアン・ハサウェイで、ペッペはスティーブ・ブシェミが演じたらおもしろいと思う。2人ともすごく好きな俳優なので。ただ、同じ作品を2度作ろうとは思わないので、現実になったとしても自分が関わることはないと思います。
ミン:
本作はジェノヴェーゼ監督を含め5人で脚本を執筆されたそうですね。複数名で脚本を描くことには、どのようなメリットがありますか?
パオロ・ジェノヴェーゼ監督:
どんなタイプの映画なのかにもよるけど、この作品に関して言えば、大人数で脚本を描いたことで多様性が生まれたと思う。本作では、5人がそれぞれに実経験や友人のエピソードなどを持ち寄って、そこからストーリーを発展させていきました。
ミン:
おっしゃるとおり、1つのシチュエーションのなかで、いくつものエピソードが重なり、さまざまな人間関係や心理描写が浮き彫りになっていくところが、本当におもしろかったです。演出で一番苦労されたのはどういった点ですか?また、キャスト陣にはどういったリクエストをしましたか?
パオロ・ジェノヴェーゼ監督:
この作品は、映画全体が長回しのワンシーンのような構成なので、間延びをしないようにリズムには気を付けました。きちんとリズムを付けていかないと、後でいくら編集してもおもしろくならないんです。キャストにお願いしたのは「とにかく食べてくれ」ということです。ずっと夕食のシーンなので、俳優達は常に食べ続けなければならなかったのですが、食事シーンで食べていないと不自然になりますよね。リアルに見えるように「口に食べ物が残っていても、セリフを言ってほしい」とお願いをしました。
ミン:
1つ疑問に思ったのは、誰もがやりたがらないゲームのはずなのに、エヴァだけはなぜか積極的でしたよね。それを観て、エヴァはどこかで自分の秘密が明らかになることを望んでいるようにも思えたんです。“シリアルキラー”は彼女で、その理由として、彼女が“ある人”から愛されているという女性特有の優越感を誇示したかったのかな…と。
パオロ・ジェノヴェーゼ監督:
そこは少し違っていますね。彼女は「私だけが、秘密をもっているの?皆もやましいことがあるわよね?」という気持ちでゲームを進めていったんです。しかも、彼女が秘密を共有している相手は、その時間には絶対に連絡をしてこないとわかっている。その確信があったからこそ、彼女はゲームを積極的に進めたのです。
ミン:
なるほど!エヴァは確信犯だったのですね。本日は、いろいろな裏話や撮影の様子を伺えて、良かったです。貴重なお話をありがとうございました!
2017年1月20日取材&TEXT by min
2017年3月18日より全国順次公開
監督・脚本:パオロ・ジェノヴェーゼ
出演:ジュゼッペ・バッティストン/アンナ・フォッリエッタ/マルコ・ジャリーニ/エドアルド・レオ/ヴァレリオ・マスタンドレア/アルバ・ロルヴァケル/カシア・スムトゥニアク
配給:アンプラグド
ある月食の夜。幼なじみ達がそれぞれのパートナーを連れて集まる食事会で、ひょんなことからケータイ電話を巡るゲームが始まる。そのルールとは、「メールが来たら全員の目の前で開くこと」と「かかってきた電話はスピーカーに切り替えて話すこと」。ゲームが進むにつれ、親密だったはずの家族や友人の秘密が明らかになっていき…。
©Medusa Film 2015