『青いパパイヤの香り』『ノルウェイの森』などで、日本にも多くのファンを持つトラン・アン・ユン監督が6年ぶりとなる最新作『エタニティ 永遠の花たちへ』を携えて来日し、トーキョー女子映画部のインタビューに応じてくれました。オドレイ・トトゥ、メラニー・ロラン、ベレニス・ベジョという豪華3大女優を主演に迎えた本作は、19世紀末フランスの上流階級を舞台に、溢れんばかりの愛で命を繋いでいく3世代の女性達をトラン監督ならではの映像美で描き出す人生讃歌。12歳の時に戦火を逃れ、故郷ベトナムからフランスへ渡ったトラン監督が、フランスの人気作家のアリス・フェルネの小説を基に、脈々と続く家系や親族同士のつながりに心を揺さぶられて映画化を決意したという本作への思いや、撮影の裏話などを伺いました。
PROFILE
1962年、ベトナム生まれ。1975年にベトナム戦争の戦火を逃れるため、両親と弟とフランスに亡命し、のちにフランス国籍を取得。エコール・ルイ・リュミエールで映画製作を学び、2本の短編を経て1993年に『青いパパイヤの香り』で長編映画監督デビュー。同作が第46回カンヌ国際映画祭のカメラ・ドール(最優秀新人監督賞)とユース賞を受賞し、2作目の『シクロ』(1995)では、第52回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞した最年少の監督の一人となる。ほか監督作品は、『夏至』(2000)、木村拓哉を主演に迎えた『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』(2009)、村上春樹の世界的ベストセラー小説を映画化した『ノルウェイの森』(2010)など。
ミン:
スローモーションで映し出されるシーンがとても美しく印象的でした。儚い人生の一瞬一瞬のきらめきと、その瞬間の連なりのなかに人生や命が脈々と受け継がれていくことを感じて、胸が震えるような感動を覚えました。
トラン・アン・ユン監督:
ありがとうございます。思い出という概念を幻想的に描くために、スローモーションを使いました。本作では一世紀以上の時の流れを描いていますが、スローの映像では登場人物達が、美しい人生の時間を留めたいと思っている気持ちを反映しています。
ミン:
今作は、撮影が『夏至』と『ノルウェイの森』のマーク・リー・ピンビンさん、プロデューサーは『青いパパイヤの香り』『夏至』のクリストフ・ロシニョンさんと、旧知のスタッフとのコラボレーションになりますね。
トラン・アン・ユン監督:
はい。ロシニョンと久しぶりに一緒に映画を作ろうという話をして、そこから本作の企画が始まりました。マークは才能溢れる撮影監督であると同時に、人間的にも素晴らしく、兄のような存在です。言葉を尽くさなくても通じ合えるので、私は大まかなお願いをするだけで、後は彼に任せていました。
ミン:
フランスを舞台にした作品は初めてだと思いますが、フランスという土地にこだわって作品を選ばれたのでしょうか。
トラン・アン・ユン監督:
いいえ。最初に原作との出会いがあって、その舞台がフランスだったということです。知り合いに優秀な映画のリサーチャーがいて、こういう作品を撮りたいという希望を出すと、いくつかテーマを提案してくれるのですが、はじめは、“悲劇的な結末の愛”というテーマでリサーチを進めていました。その候補として差し出しされた本の中に、アリス・フェルネの小説があって、その本自体は違うと思ったけど文体が気に入ったので、他の作品も読んでみたんです。そして出会ったのがこの映画の原作となる物語でした。本を読み終えて、この感動を再現するために、どうすべきかを考えた結果、静かでセリフの少ない作品にしようと思ったんです。
ミン:
トラン監督の作品に欠かせない存在といえば、奥様のトラン・ヌー・イエン・ケーさんですが、今作ではナレーションと美術を担当されていますね。どのように作業を進められたのでしょうか。
トラン・アン・ユン監督:
室内装飾や色彩、衣装、ヘアスタイル、など、ビジュアル面のすべてを彼女の責任のもとに進めました。私が撮影しているときは隣で一緒にモニターを見ていて、彼女が気付いたところがあれば、すぐに調整するという感じです。ナレーションは、有名なフランス人女優に頼むこともできましたが、現実とのギャップを打ち出したいと思って何人かをテストしたときに、妻のナレーションが一番フレッシュに聞こえて作品に合っていると思ったんです。これは、私だけの視点ではなくプロデューサーや関係者も同意見でした。
ミン:
奥様は監督の映画にとっても人生にとっても、本当にかけがえのないパートナーなんですね。
トラン・アン・ユン監督:
はい、その通りです!
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ミン:
キャスティングについてもお聞かせください。オドレイ・トトゥさん、メラニー・ロランさん、ベレニス・ベジョさんは世代の異なる役を演じていますが、実年齢はあまり変わらないですよね。この年代の女優を選んだことに理由はありますか?
トラン・アン・ユン監督:
一人の女優が演じる年齢の幅が広いことが、この映画の特徴にもなっていますが、撮影当時、彼女達は35歳前後という年齢層で、演技的にも若返らせたり老けさせたりするのに幅が利くと思ったんです。さらに、外見に説得力を持たせるためには特殊効果も施しました。例えば、オドレイ演じるヴァランティーヌが80歳のシーンを撮るときは、オドレイは老けメイクはせずに、そのままの顔で白髪のかつらを被って演じてもらいます。次に、肌用の代役、つまり肌に皺のある人に同じシーンを演じてもらいます。ポスプロ*では、オドレイの肌に代役の肌を切り取って貼り付けるというような作業を8ヶ月かけて行いました。これはプロの技術者であっても、とても繊細な技術を要する作業でした。
*ポスプロ=ポストプロダクション。編集、音編集、色調整、納品形態への書き出しなどを、撮影完了後に発生するすべての作業のこと。
ミン:
そんな風に撮影されていたとは驚きです。最後に、次の作品の構想があれば、可能な範囲でお聞かせいただけますか?
トラン・アン・ユン監督:
次に考えているのはフランス料理についての映画です。調理する喜び、食べる喜び、それについて話す喜びを描きたいと思っています。現状では、プロデューサーと契約書にサインを押しかけている…というところでしょうか(笑)。
ミン:
わぁ、ぜひ拝見したいです!監督は、食べることがお好きなんですね?
トラン・アン・ユン監督:
はい、もちろん!もし、構想中のフランス料理の映画が成功したら、一生料理の映画しか撮らないかも知れませんよ(笑)。
ミン:
あははは。日本食で好きなものはありますか?
トラン・アン・ユン監督:
全部好きですよ。イナゴも食べたことがあります!でも、納豆だけはダメです。日本料理についての映画のプロジェクトが実現したら、私はとても夢中になるでしょうね。
ミン:
実現するのが待ち遠しいです。その作品で来日される際は、またぜひインタビューさせてください!
トラン・アン・ユン監督:
もちろんです!楽しみにしていてください。
2017年6月23日取材&TEXT by min
2017年9月30日シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
監督:トラン・アン・ユン
出演:オドレイ・トトゥ/メラニー・ロラン/ベレニス・ベジョ/ジェレミー・レニエ/ピエール・ドゥラドンシャン
配給:キノフィルムズ
19世紀末フランス。親が決めた婚約者ジュールとの結婚を一度は破棄したヴァランティーヌだったが、それでも諦めない彼に心が動き、ついに結婚を決める。夫婦の愛は日ごとに深まるが、病や戦争は無残にも子ども達の命を奪っていく。やがて、無事に成長した息子のアンリと幼なじみのマチルドが結婚。マチルドの従姉妹のガブリエルと夫のシャルルとも頻繁に交流するようになり、大家族のような賑やかな日々が訪れる。再び幸福に満ちた日々を送るヴァランティーヌだが、運命は意外な形で動き始める…。
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