2002年に、和歌山県で実際に起きた「出会い系サイト殺人事件」を基に映画化された本作。自分に惚れた男性を金づるにしたあげく、殺人の手伝いまでさせたという驚愕のストーリーですが、吉田監督は「この作品は、女性に観てほしいと思っているんです。濡れ場とかに目が行きがちですけど、そうはしたくないというのがすごくあって」とおっしゃっていました。そんな監督は、実際の事件の映画化や、映画における性描写について、どんなスタンスなのか、お話を伺いました。
PROFILE
1978年8月28日生まれ。東京都出身。シャイカー所属。2006年に『お姉ちゃん、弟といく』で、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭審査員特別賞を受賞。2010年、江口のりこ主演、染谷将太出演の『ユリ子のアロマ』で劇映画デビューを果たす。2011年公開の『ソーローなんてくだらない』は、イギリスのレインダンス映画祭のベストインターナショナル部門でコンペ作品に選出。代表作は『うそつきパラドクス』(2013)、『女の穴』(2014)、『スキマスキ』(2015)、『好きでもないくせに』(2016)など。
マイソン:
実際に起きた事件がベースになっているということですが、こんな事件だったとはびっくりしました。基になった事件自体があまり記憶になかったので「こんなにすごいことをする人がいるんだな」と思いつつ、 “魔性の女”とはまさにこういう感じだろうなと納得してしまう部分もありました。監督ご自身はこの事件のことを元々ご存知だったのでしょうか?
吉田浩太監督:
プロデューサーが『冷たい熱帯魚』などを手掛けた方(木村俊樹さん)で、こういう事件に敏感なので、僕は提案されてから調べていって、こういう女性がいると知りました。
マイソン:
事件のどういったところに、一番興味を持ちましたか?いろいろとキャラが立っている人が登場しますが、監督が感情移入できる人物はいましたか?
吉田浩太監督:
僕は男なので、女性のことはわからない部分があります。だから、すごく感情移入して映画を作っているというよりは、彼女(エミコ役の瀬戸さおりさん)に委託している部分がすごくあったかな。彼女と役に対して何が大事なのかをいろいろと話して作りましたが、男が観る目線と女性が観る目線は違いますよね。
マイソン:
どういったところで、女性目線と男性目線の違いを感じましたか?
吉田浩太監督:
男は真之助やアキラの立場で、何でこんなにズブズブいっちゃうんだろうという目線で観ますけど、女性だとエミコの目線に寄り添っていくと思うんです。ある種、人格的にすごい人ですが(笑)、完全に彼女を理解できないにしても、わかる部分もあるというか。すごく共感するというのはなくても、「こういう部分は誰にでもあるよね」という風に突き放さないんじゃないかなと思います。
マイソン:
エミコは、生きるためにあんな風になってしまった部分と、元々持っている“うまく生きていく術”みたいなものが両方あったように思いました。とはいえ、なぜ男性があんな状況に陥るのか不思議に思ってしまうのですが、男性はわかって騙されているんですかね?キャラクター設定的なことはあると思いますが、監督ご自身は、エミコのような裏表のある女性をどう思いますか?
吉田浩太監督:
これはこの映画に限らずってことですよね(笑)?
マイソン:
あははは(笑)。そうですね。
吉田浩太監督:
男としては、というか僕個人のことになってしまうかも知れませんが、どっちでも良いんですよね。騙されても構わないし、わかっていながらその状況に乗っかっちゃっても良いし。男は女のそういう部分が見えたからといって好き嫌いに影響することはないんじゃないかな。逆にしたたかに生きている人を見ると、力強くてちょっと好きなっちゃったりするけど(笑)。
マイソン:
逆に言うと、男性がどれだけダメ男でも、好きになる女性がいるのと同じことですよね(笑)。
吉田浩太監督:
はははは(笑)。たしかに。
マイソン:
そういった男女の話題では身近に感じる要素もあったのですが、本作は実際にあった事件を基にしていて、被害者もいらっしゃるので、デリケートな部分が多かったと思います。映画化する上で、どんな事に気を付けましたか?
吉田浩太監督:
もちろん被害者の方の問題もありますね。ただ、残虐な事件って、世の中にいっぱいあって、ひとつ視点を変えていくと、誰にでも起こりうるというか。実際にあった事件ということは起こりうるということなので、リアリティがあります。リアルな人物たちの複雑な感情には非常に興味があるので、そこは遠慮せず、「いくならとことんいこう!」という感じでした。
マイソン:
社会的、衝撃的な事件が基になりつつ、濡れ場やヌードが多いと推測される映画は、内容よりもそういうシーンに注目が集まることが多いように思います。そういうタイプの映画は、作る側はどういったスタンスで作られているのでしょうか?好きで濡れ場を入れているのではなくて、必要だから入れているということもあるとは思うのですが、どうでしょう?
吉田浩太監督:
男性的な目線は多分にあると思いますけど、僕は映画的なリビドー(性衝動)が日活ロマンポルノだったんですよね。単なる濡れ場ではなくて、“なくてはいけないもの”だと思った初期体験があって。僕は所謂“エロ作品”と呼ばれるものもやっているんですけど、どの場面においてもただの濡れ場にするつもりはないんです。そういうシーンを入れてくれという制約があって、やらなきゃいけない部分もありますが、自分の中で消化して必然的なものに変えていくとう気持ちでやっています。逆に濡れ場があって当然のところで、ただ電気が消えて(濡れ場を見せずにそのシーンが)終わっちゃうと、「なんで、そこないの?」って思っちゃうんですよね。僕の中で、濡れ場の表現にこだわる部分はあります。
マイソン:
事件を基にした映画だとエンタメ性をどこまで入れて良いか、難しい部分はありませんでしたか?
吉田浩太監督:
僕はこの映画を真面目に作っています。でも不謹慎かも知れませんが、最初に事件を知ったときは、一人の女性に対して全く疑わずに盲目的になって、あんなことまでやってしまう人間の在り方が滑稽だなと思ったんですよね。だから、このストーリーはどこかで自分では映画としてコメディになりうると思っていて、そういった部分が本作に出ていると思います。あとシリアス一辺倒でいくのが、あまりできないんですよ。多分、どこかで人間という存在を笑いたいというのがあるのかな。
マイソン:
監督は本作を女性に観てほしいとおっしゃっていましたが、最後に、女性に一番観てほしいポイントやなぜ観て欲しいのかを教えてください。
吉田浩太監督:
僕も女性に観てほしいと言いながら、わかっていなかったりするんですけど(笑)。これはいろいろな人の話ではあるけど、やはりエミコの話だと思うんですよね。エミコは、本能に従って生きる。誰かを騙したりするのは、もちろん計算していると思うんですけど、真之助との愛情とか、アキラに対する愛情は打算じゃなくて、あれは本能に従っているだけなんです。その辺は、女の人ならわかるんじゃないかと。僕は一応この映画を作った人間なんで理解しているつもりなんですけど、男だとわからない部分がたくさんあると思うんですよ(笑)。そこがわかるのとわからないのとでは、すごく大きいと思います。
マイソン:
たしかに女性のほうが、他人事に感じずに観るような気がします。本日はありがとうございました!
2017年12月12日取材&TEXT by Myson
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2018年1月6日より全国公開
監督:吉田浩太
出演:瀬戸さおり/岡山天音/八木将康/山田真歩/佐々木心音/黒石高大/藤田朋子
配給:AMGエンタテインメント
幼い娘を連れ、実家に戻ったエミコは、生活費を稼ぐために出会い系サイトのサクラとして働き始めた。そのお客の一人で工員の真之助を虜にしたエミコは、彼に金を貢がせることを思いつき、あらゆる嘘を並べ、彼を操っていく。そんなある日、エミコは、解体作業員のアキラに出会い、一目惚れ。彼との関係を深めようとするが、障がいを抱えたアキラの姉が邪魔になり…。
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