今回は、今世界中で大注目の監督、ショーン・ベイカーさんにお話をお伺いしました。才能溢れるばかりでなく、イケメン(笑)!今回も、社会問題を感じさせる作品を撮られましたが、どんな思いが込められているのでしょうか?
PROFILE
1971年2月26日生まれ、アメリカ、ニュージャージー州出身。ニューヨーク大学映画学科を卒業後、“Four Letter Words”(2000)でデビュー。“Take Out”(2004)と、“Prince of Broadway”(2008)の両作で、インディペンデント・スピリット賞のジョン・カサヴェテス賞にノミネートされた。4つ目の監督作『チワワは見ていた ポルノ女優と未亡人の秘密』(2012)では、同賞にノミネートされた他、ロバート・アルトマン賞を受賞した。全編iPhoneで撮影した『タンジェリン』(2015)は、サンダンス映画祭でプレミア上映され、サンフランシスコ映画批評家協会賞の脚本賞受賞をはじめ、22受賞33ノミネート。『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』は、2018年3月5日の段階で、世界中の映画賞、計57受賞、107のノミネートを受けている。
マイソン: 本作には、悪役という悪役がいなかったので、ちょっと切ない展開もありつつ、観ていて心地良い映画に感じました。キャラクターのなかには、ヘイリー達に大人のアドバイスというか厳しい言葉を投げかける人もいれば、優しく接する人達もいたという印象でしたが、その中で、ウィレム・デフォーさんが演じたボビーのキャラクターに、監督はどんな思いを込められましたか?
監督:この物語の中で、主人公に対する敵役、ヴィランや悪人っていうよりも敵対者という意味で、それは誰なんだろうと考えて、敢えているとすれば、それは人ではなく2008年のリーマン・ショックに始まる不況、その直後にアメリカで起きた住宅危機、そして貧困のサイクルと、今も続く適正な価格の住宅の供給が間に合っていないという危機だと思うんです。ボビーはどうかというと、よく「道徳的なコンパスの役割だ」と言われるんだけど、僕の意見は必ずしもそれにぴったりハマっていないんです。たぶんある意味で、自分も含めた観客を反映しているキャラクターだとも言うことができる。助けたいのにそれができないという意味でね。リサーチをするなかで、いろいろなモーテルのマネージャーさんに会うと、多くの方がまさにボビーのように、自ら望んではいないけれど、結果的に親的な存在にならざるを得なくなってしまっているんです。そして実際に、その子ども達や家族に対して愛と思いやり、共感みたいなものをすごく持っていながらも、彼らもビジネスなので、当然お金が払われなければ、出て行ってもらわなければいけないという、まさにストリートに送り出さなければいけないという瞬間が、いつやって来るかわからない。なので、気持ちの上で、ある意味自分を守るために、ある程度の距離を持って接してらっしゃいます。それが見ていてとても切なくて、ボビーという役は、そういう出会った方々にインスパイアされてでき上がったキャラクターなんです。
−ウィレム・デフォーさんは、この役柄についてどんなことを思っていたのでしょうか?
監督:他の方が初めて演技をするという未経験者が多くて、そのなかで彼がたぶん1番顔を知られているだろうというのもわかっていたから、「僕は馴染みたいんだ。溶け込みたいんだ」と言っていて、それはすごく嬉しかったです。最初に撮影した、親子に怒るシーンは、僕もモニターのところにいたんですが、ボビーにしか見えませんでした。それがもう、すごく嬉しかったのを覚えています。あと、今回さまざまなモーテルのマネージャーさん達に、実際にウィレムさん自身が会って、時間を過ごすことができました。それがすごくインパクトが大きかったみたいで、皆ご自分の仕事を誇らしく思ってらっしゃるし、本当に苦労してらっしゃるので、その辺りが役を作っていくなかで、すごくヒントになったようです。僕と1週間くらい、密にキャラクター造形をやっていく間、ちょうど撮影も行なっていて、彼は現場に来る必要がない時もありましたが、僕に会いに来て、「時計、サングラスはこういうのが良いんだ。あとめっちゃでっかい無線機が欲しいんだ」と言って、ウィレムさんのこだわりはそんな部分にも表れています。
マイソン: 監督の作品は日常を切り取っているという感じで、そこがすごくおもしろいと思います。日本に来られて映画にしたいと思うような風景に出会いましたか?
監督: 今回は正直、あまりいろいろなところに行けていないんですよね。ただ昨晩、お寿司屋さんに連れて行ってもらって、たまたま日本のロック系のミュージシャンも来ていました。今まで話に聞いていたお寿司屋さんのご主人と、お客さんとのやり取りをこの目で見ることができて、それがとても興味深く、今回の限られたなかで言えば、おもしろい体験だったと言えるかもしれません。
マイソン:そうだったんですね。最後に、映画を撮っていて良かったなと思う瞬間はどんな時ですか?
監督: 皆その瞬間を謳歌できると良いと思って生きているけれど、なかなかね。振り返ってみて、あの瞬間が最高だったってことが多いですね。そうは言っても、やっぱりカンヌに行くことは夢だったから、この作品でカンヌ国際映画祭に参加できたってことは、最高の、人生が変わったような素晴らしい体験でした。プレミアや北米の公開も終わって、映画と共に世界中に行けるっていうのが、特にインディペンダントの作家としては一番報われる瞬間なのかもしれません。インディーズは、お金持ちになれるわけじゃない。ある意味、僕らの得られる代価は、「世界に触れることができる」ってことで、今回も香港に行ってから、東京に来て、次はソウルに行くんです。その前もブルガリア、リトアニア、他の国にも行って、いろんな文化に触れて、いろんな方に出会って…というのが、やっぱり自分にとって嬉しい瞬間ではあります。
2018年4月10日取材&TEXT by Myson
2018年5月12日(土)より全国公開
監督:ショーン・ベイカー
出演:ブルックリン・キンバリー・プリンス/ウィレム・デフォー/ブリア・ヴィネイト/ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ
配給:クロックワークス
定住する家をなくし、フロリダ・ディズニー・ワールドのすぐ外側にある安モーテルで暮らしているヘイリーと、6歳の娘ムーニーは、日々の生活もままならない状況に。それでもムーニーはモーテルに住む他の子ども達と遊び、楽しい日々を送っていた。だがある日、親子の生活を壊す出来事が起きてしまう。
公式サイト 映画批評&デート向き映画判定
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