今回は、『リメンバー・ミー』を手掛けたアニメーター、原島さんにお話をお伺いしました。これまで、ピクサーに入りたいと願う学生にたくさん会ったので、そういう方々に参考になりそうなお話を聞いてみました。
PROFILE
原島 朋幸 (ハラシマトモユキ)
ピクサー・アニメーション・スタジオの アニメーター 。
神奈川県出身。電気通信大学を卒業後エンジニアとして勤務している時にデジタルハリウッドを知る。デジタルハリウッド在籍中に作成したショートフィルムが1999年にロスアンゼルスで開催されたシーグラフのエレクトロニックシアターで上映される。2001年に渡米しサンフランシスコの美大、アカデミー・オブ・アートでピクサーのアニメーターが教える通称ピクサークラスを履修 。アカデミー・オブ・アート在籍時にロサンゼルスの老舗VFX Studioのリズム・アンド・ヒューズでアニメーション・インターンとして『ガーフィールド2』の制作に携わる。その後DreamWorks AnimationとPDI/DreamWorksにてアニメーターとして『ヒックとドラゴン』 (1、2作) や『マダガスカル』(2、3作) などの制作に携わる。ピクサーでは『アーロと少年』、『ファインディング・ドリー』、『カーズ/クロスロード』、『リメンバー・ミー』、最新作『インクレディブル・ファミリー』 の制作に携わる。
※以下、“ピクサー”とある箇所は正式には“ディズニー/ピクサー”ですが、略して記載しております。
マイソン:
毎回 ピクサーの作品を観ていて思うんですが、今回のガイコツのように、本当だったらちょっと怖いものや、可愛くないものでも、すごく可愛く描かれていますよね。普段物事を観察する時に、職業的に特殊な見方をしていらっしゃるのかなと思ったんですが(笑)。
原島朋幸さん:
可愛くするためとかそういうわけではないですが、職業柄、人がどうやって動いているのかとか、やっぱり観察しますね。子どもならどういう仕草をしているのか、立ち方とか、バッグの持ち方とか。リュックを前に背負う方とかもいますが、物を持つ時の仕草とか…。あと、私は昔左利きだったので、左利きの人を見るとすぐわかるんです。箸の持ち方とかでも、ちょっと違和感があるんですよね。それか仲間意識があるからかわからないんですけど(笑)、普通の人はあまり気が付かないところだと思います。だから映像を作る時にも「このキャラクターは右利きなんですか?左利きなんですか?」って聞いて、自然に見えるように描きます。そういう部分はよく観察していますね。
マイソン:
可愛らしいキャラもいれば、威嚇してくるキャラもいて、骨格とか体格とかの特徴で、出てきた瞬間にある程度のキャラクター性がわかるように描写しているのもすごいと思いました。そういう点もやっぱり通常観察していらっしゃるんですか?
原島朋幸さん:
実は表だっては言っていない設定なんですけど、この死者の世界では、デラクルスみたいに皆が知っていて現実世界でも覚えられている人は、固くてカチッとしているんです。一方ヘクターみたいに忘れ去られていく人は、どんどん骨がルースになってきて、足を引きずったり、骨がすごく揺れたりするんです。あとは、建物でも忘れられている人は下のほうに住んでいるとか、実はそういった感じでこの世界のルールが存在しているんです。実際にそれはアニメーションを付ける上で、監督からのノートもあったし、アニメーター全体で共有していたルールでもあります。
マイソン:
なるほど〜。おもしろい! そういうところも含めて、アニメーションでできることは無限だなと思いつつ、実写と比較して、デメリットもあると思うんですが?
原島朋幸さん:
(アニメーションでできることは)無限ですよね(笑)。正確にデメリットなのかはわかりませんが、実写って、ハッピー・アクシデントがあるじゃないですか。例えば、物が映り込んでいて、そのことがすごく良い方向に作用したりとか。でも3DCGって、画面に映る物はすべて誰かが作っているんですよ。ゴミ一つにしても。偶然そこにあったってことがないので、誰かがモデルを作って、色を付けているんです。だからある意味デメリットっていうのは、アニメーションはリアルに自然なものを作るのが大変ってことですね。モーションキャプチャーはすごく良いんですけど、それにプラスαをしないといけないし、実写なら1分くらいで撮れるテイクにすごく時間がかかったりします。逆に言うと、実写ならお金も時間もかかる不可能な映像とかでも、CGなら作れるというのがメリットですね。
マイソン:
アニメーターさんが描いている時に、何かアイデアが浮かんで、遊び心で意図的にハッピー・アクシデントに近いものを入れるということはあるんですか?
原島朋幸さん:
ピクサーではあまりないですが、イースター・エッグがこっそり描かれていたり、ピザプラネットのトラック(『トイ・ストーリー』で初登場)がほぼすべての作品に描かれていたり、そういうことは ピクサーの伝統としてあります。あと、今もたぶん入っていると思うんですけど、次回作のキャラクターが劇中に入っているとかもあるんですよ。 ピクサー独特の“ ピクサー・ボール(星印のボール)”がどこかに入っているとか、そういうのは意図してやっていますね。ハッピー・アクシデントではないんだけど、わからないように、でも誰かが見つけられるように。だから映画が公開されると、SNSでピクサーのトリビアみたいな感じで、「イースター・エッグ何個見つけました!」とか書いてあったりしますよね。これは遊び心ですね。
マイソン:
そういうのを探すだけでも楽しいですね。では、アニメーションでリアリティを出すために気を付けていることってありますか?
原島朋幸さん:
重さですね。例えばコンピュータのキャラクターって、3Dのパペットなんです。例えばデラクルスとへクターがいたら、どう見てもデラクルスのほうが重いじゃないですか。その重さを出すのがアニメーターの役目です。観ている人が、こっちが重い、こっちが軽いってのがパッと見てわかる感覚と、動きとか重さがズレるとすごく違和感が出るんです。デラクルスをアニメーションするアニメーターはいっぱいいるので、それはある意味ショットごとでそれぞれ微妙に変わっていたりもします。それを統一するのは、スーパーバイジングアニメーターとか監督です。でもあるショットでは、演出上、もっと重く、もしくは軽く見せることもあります。ペピータにしても、あの巨体で空を飛ぶので、あまり早く動かし過ぎるのはダメなんですよね。羽の動きとかも、あの大きな羽で体を動かす時の推進力というか、重さを見せるのもアニメーターの役目なんです。
マイソン:
私達が観ていて気にしていない部分もすごく細かく作られているんですね!では、クリエイティブなお仕事で、特にアニメーターさんとかって狭き門というイメージなんですが、皆が皆入りたいところに入れるわけではないと思うんです。そういう場合に、作風の好みの違いは仕事にどのくらい影響しますか?
原島朋幸さん:
この業界を大きく分けると、ピクサーみたいなアニメーションを作る会社と、ビジュアルエフェクトのライブアクションの映画に登場するクリーチャーとかを作る会社もあるじゃないですか。リアルなクリーチャーをアニメーションするのが好きな人は、ピクサーのようなアニメーションを作る仕事は合わないんじゃないかなって気がするし、ピクサーの人間もクリーチャーだけを動かす仕事は合わないのではと思います。私個人は、自分の好みに合わないものは作りたくないっていう思いは特にないので、どっちもやってみたいなって思いますが、じゃあ今ピクサーで「ライブアクションの恐竜映画を作ります」と言われたら、たぶんカートゥーンのほうに行くんじゃないかな。今はもっとキャラクターに演技をさせたいなって思います。
マイソン:
じゃあやっぱり職業にしたかったら、そこはしっかり持っていたほうが良いんですね。
原島朋幸さん:
そうですね。例えば ピクサー、ディズニー、ILM(インダストリアル・ライト&マジック/ルーカスフィルムが所有)など、それぞれの作品って、やっぱり違うじゃないですか。会社側も求めているスキルセットが違ったりするので、例えばピクサーに応募するのにクリーチャーのアニメーションを入れて応募しても、絶対に採用されないです。逆も同じで、会社側が求めているものと一致しないと、なかなか採用されないと思います。
マイソン:
海外でそういう会社に入りたかったら、海外の学校に1回入るほうが良いと思われますか?
原島朋幸さん:
近道だとは思いますが、入らないといけないとは思わないです。ただ技術だけでは通用しない点でいうと、ビザの問題などがあります。そういう意味では海外の大学で勉強すると、向こうの大学で卒業した後に、正式な労働許可がもらえる前に間をブリッジする特殊な労働許可がもらえたりするんですよね。そういうメリットは多少ありますけど、だからといって海外の学校で勉強しないと海外で働けないとは思わないです。日本で仕事をして、実績を積んで技術があれば行けると思います。
マイソン:
ありがとうございました!
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