今回は『きらきら眼鏡』で、主人公あかねの恋人役を演じた、安藤政信さんにお話を伺いました。これまで本当にいろいろなタイプの役柄をたくさん演じてこられた安藤さんは、普段どんな風に役や作品と向きあっているのか聞いてみました。
PROFILE
安藤政信
1975年5月19日生まれ、神奈川県出身。1996年、映画『キッズ・リターン』(監督・脚本:北野武)で俳優デビューし、同年の映画賞新人賞を総なめ。その後、多くのドラマ、映画に出演し、2009年には、チェン・カイコー監督作『花の生涯・梅蘭芳』で海外進出を果たした。俳優のみならずフォトグラファーとしても活躍。主な出演作は、『スペーストラベラーズ』『バトル・ロワイアル』『サトラレ』『亡国のイージス』『スキヤキ・ウエスタン・ジャンゴ』『GONINサーガ』など。2018年夏、『スティルライフオブメモリーズ』『劇場版 コード・ブルー ドクターヘリ救急救命』が公開中。
マイソン:
これまで、すごく多くの作品に出演されていらっしゃいますが、脚本を読む時は、始めからご自身の役柄の視点で読みますか?それとも一旦俯瞰して読むのですか?
安藤政信さん:
最初は役の視点というより、全体を見ていたりするのかなあ。
マイソン:
今回のように病気で弱っていく役と、身体を鍛えて役作りをする役でいうと、どっちが大変ですか?
安藤政信さん:
いやあ(笑)、極端だけど、『スマグラー おまえの未来を運べ』は、あれはあれで大変でしたし、これはこれでどんどんどんどん弱っていかなきゃいけないっていうところで、食を断たないといけなかったし、どっちも楽ではないですよね。寝てるだけで良いなら楽だけど(笑)。今回はかなり重症な患者の役で結構大変で、やっぱり辛かったですね。
マイソン:
そうですよね。変に元気ハツラツでもね(笑)。
安藤政信さん:
ね、やっぱりおかしいですからね(笑)。
マイソン:
本作を観た時に、余命宣告を受けた恋人から別れを告げられるってどんな感覚なんだろうって考えちゃったんですけど、安藤さんがもし池脇さんが演じたあかねの立場だったとしたら、亡くなる前に別れたほうが良いと思うか、最後まで一緒にいたいと思うか、どちらでしょうか?
安藤政信さん:
いや〜結構究極ですよね。やっぱりここまで深い、この2人の関係だったら看取ると思うんですよね。俺も「グダグダ言ってる場合か!」って、看取りますね。
マイソン:
そうですよね。裕二(あかねの恋人)があかねを新しい相手に委ねるほうが良いと思ってるのかなと見えるシーンもありましたが、そこは相手のためを思うと迷うところですよね。
安藤政信さん:
そうですね。自分が死ぬまで毎日ずっと複雑な気持ちで、彼女から自分を遠ざけるべきなんだけど、やっぱり今までの感情とかがあって離れられないし、ず〜っとその葛藤があったと思うんですよね。好きな人に対する気持ちって、そういうものなんじゃないかな。普段の些細なケンカもそうじゃないですか。例えば『エターナル・サンシャイン』のケンカのやり取りが聞こえてくるシーンにものすごく共感して涙が止まらなかったんですけど、何回記憶を消しても好きになるなんて、愛ってすげえなって思いました。
マイソン:
病気だからどうのっていう簡単な理屈じゃないですもんね。それで、今回の役は気持ちを持っていくのがすごく大変そうに思ったんですが、いつも役作りで心掛けていることはありますか?オン・オフを切り替えやすい役柄とそうでない役柄とかってあるんでしょうか?
安藤政信さん:
役作りっていうよりは、その役を通して監督とか共演者に対して、気持ちをちゃんとぶつけたり、受け入れたりっていうことがすごく大切だと思ってやっていますね。自分一人で作り込んでそれを現場で発信するっていうやり方は、今までやっていないですね。
マイソン:
これまでエキセントリックなキャラクターも演じてこられていますが、暴れまくるようなシーンは、それはそれで気持ちが良いものなんですか(笑)?
安藤政信さん:
フフフ(笑)。気持ちが良いっていうか、それはそれですごく大変なんですけど、今回の役では、ベッドの中でしか生きられない世界で、あかねや明海が海にいて、水の温度や潮の匂い、風とかを感じているシーンとかを観ていると、「体ってやっぱり本当に大切なものだな」って思いました。だから、いろいろな感情や景色や心の変化をベッド以外でも感じたいなって思って、演じていましたね。
マイソン:
今まで俳優をやってきて、人生観が変わったって思えることはありますか?
安藤政信さん:
最初に『キッズ・リターン』(俳優デビュー作)の北野武監督だったり、海外だったらチェン・カイコー監督(『花の生涯・梅蘭芳』)だったり、すごく素晴らしい監督や、いろんな価値観の方達と毎回会えるので、自分を良く変えてくれる環境にいるなと思います。
マイソン:
少し話が逸れますが、フォトグラファーとしても活躍されていらっしゃいますが、俳優としての経験が何か影響していることはありますか?
安藤政信さん:
カメラがずっと好きで20年間やってきて、自分が撮られる立場でもあるから、無駄にシャッターを押さないっていうこだわりがあるんですよね。本当に数枚撮って終わりっていうか、1枚だけの時もあるし、それでもう絶対決めるっていう気持ちで撮ってます。自分がずっと無駄に撮られるのがイヤだから、被写体には同じようにしてあげたいと思って、あとは自分がいろんな演出家の方に愛を持ってされたように、被写体にとってもきちっと向かい合って撮ってあげたいというか。僕はいろんなシチュエーションで、女の子を被写体にすることが多いんですけど、大切に色っぽく撮ってあげたいなって思ってるんです。
マイソン:
例えば街を歩いていたりする時に、気になる女性の仕草ってありますか?
安藤政信さん:
気になる仕草っていうのはあんまり無いんだけど、春の風を感じている女の人とか、すごく色っぽく感じるんですよね。そういう空気感や感情を撮りたいなって思うんです。
マイソン:
なるほど〜。男性目線はやはり違いますね(笑)。で、映画のお話に戻りますが、“きらきら眼鏡”の意味合いを、最初はポジティブなものとして認識していたんですけど、途中かけざるを得なかったんだという視点も出てきた時に、ドキッとしました。美しいものを見つけられる、些細なことでも幸せに思える“きらきら眼鏡”という概念は素敵だなと思いつつ、辛いことを乗り越えるために必要とされるものだとしたら、それはそれで辛いなと思いました。安藤さんは、この映画がどうという話かは別として、“きらきら眼鏡”はあったほうが良いと思われますか?
安藤政信さん:
「そんなもん、いらねーだろ!」なんて言ったらね、題名が『きらきら眼鏡』だから(笑)。でも、あってもなくても絶対人生は素敵だと思うんですよね。傷付くことを受け入れるっていう作業と、それを乗り越えていくっていう作業の繰り返しが、ずっと死ぬまで続くわけじゃないですか。その時に良い景色が見られたりするわけで。でも、“きらきら眼鏡”を持つくらいの感情っていうか、それくらい前向きにピュアに生きるってことが大事だと思うんですよね。人に対する思いとかもそうですけど、誰かが通ろうとするところで、足を引っかけるんじゃなくて、足を避けて譲ってあげたら、そこで良い感情が生まれたりするんですよ。道でも何でも譲ってあげた瞬間、相手が逆に譲ってくれたり、不協和音じゃなくて、良い感情が生まれて「ああ、どうも」って。そういうことだったりするのかな。
マイソン:
必要か必要じゃないという問題ではなくということですね。
安藤政信さん:
自分自身の問題だと思うんですよね。見え方を変えるのは。
マイソン:
そうですね。今日はありがとうございました!
2018年9月7日(金)よりTOHOシネマズららぽーと船橋にて先行公開
9月15日より全国順次公開
監督:犬童一利
出演:金井浩人/池脇千鶴/古畑星夏/杉野遥亮/片山萌美/志田彩良/安藤政信
S・D・P
恋人の死から立ち直れずにいた明海は、一冊の古本をきっかけに、あかねという女性に出会う。彼女は余命宣告を受けた恋人との辛い現実を抱えながらも、いつも明るく振る舞っていた。明海はそんなあかねに惹かれていき…。