今回は、新井英樹の傑作漫画が史上初めて映画化された『愛しのアイリーン』主演の安田顕さんに取材させて頂きました!本作では強烈なキャラクターを演じられている安田さん。映画のお話はすごく真面目にお話し頂きましたが、派生したお話はとてもおもしろくて、ずっと笑いっぱなしでした。
PROFILE
安田 顕(ヤスダ ケン)
1973年12月8日生まれ。演劇ユニット“TEAM NACS”のメンバーで、北海道出身。舞台、映画、ドラマなどを中心に全国的に幅広く活動している。映画出演作は『HK/変態仮面』『龍三と七人の子分たち』『新宿スワン』『ビリギャル』『みんな!エスパーだよ!』『聖の青春』『銀魂』『追憶』『不能犯』『北の桜守』『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』など多数。2019年には『ザ・ファブル』の公開が控えている。『愛しのアイリーン』は横浜聡子監督作『俳優 亀岡拓次』(2016)以来の単独主演作となる。
マイソン:
岩男のキャラクターがすごく激しくておもしろかったです。演じられていかがしたか?
安田顕さん:
顔合わせの前に吉田恵輔監督とお話をさせて頂いて、監督の『愛しのアイリーン』という作品に対する20年来の熱い思いを伺いました。これはもう、選んで頂いたのだから、必死に食らいついてやっていこうと思いました。
マイソン:
岩男は女子目線で観て、すごく愛おしく見えたり、最低だなって思える部分もあったりしましたが、安田さんから見て岩男の魅力はどんなところですか?
安田顕さん:
瞬き一つのような一生を送った人だと思います。これだけエキセントリックな映画の登場人物なんですけど、とても自然な人なんです。岩男を含めていろいろな登場人物がいますが、スーパーマンは1人もいない。皆、「ひょっとしたらこうなりませんか?」「こんな人を見かけたことがありませんか?」という人達なんですね。愛にもいろいろな形があって、「ハーイ」って言ってハグして、キスして「愛しているよ」って言って、「おはよう」「ありがとう」っていう挨拶だけの愛じゃないというか。そういう感じがすごくしました。だから端から見たらそれが不幸なのか幸せなのかわからないけど、すごい熱量でちゃんと純粋に人を愛した瞬間があったということ、彼が生まれて死ぬまでの間にそれを知ることができたということが、岩男にとっての生きた証しなのかなって思います。魅力っていう質問からはズレているかも知れませんが、そこ1点じゃないですかね。おっしゃるように、極端だけど、それがすごく人間だなって思うし、変な話、綺麗じゃないところに綺麗さがあって、上っ面の愛じゃないぞっていう。
マイソン:
確かにそうですね。で、岩男の思い立ったらすぐ行動みたいなところも印象的だったんですが、安田さんは今までに勢い余ってやってしまったことはありますか?
安田顕さん:
子どもの頃の話ですけど、立ちションですかね〜(笑)。真冬の雪の上に。昔ね、親父に「(雪の上に)立ちションしたことある?」って聞いたことがあるんですよ。それであるって言うから、「何て字を書いたの?」って聞いたら、「寿」って(笑)。
一同:
あはははは(爆笑)!
マイソン:
男の子ならではのエピソードですよね。
安田顕さん
あ、女子映画部でしたね。
マイソン:
全然良いんです。男子心を知りたいので(笑)。
安田顕さん:
今の話で思い出したのですが、女子は生まれ変わったらしてみたいと思うことはないんですか?例えば、居酒屋で出てくるおしぼりで顔を拭いたりとか。あれは気持ち良いんだよ〜!本当に。
マイソン:
ハハハハ。確かにおしぼりで顔を拭くのは、女子は化粧をしていてできないですけど、気持ち良さそうですよね!男になったらやってみたいです(笑)。逆に安田さんは女子になったらやりたいことはありますか?
安田顕さん:
強いて言うなら…、女風呂に行きたいですかね(笑)。
一同:あはははは!
マイソン:
でも女が女風呂に行ってもそんなにおもしろくないですよ(笑)。
安田顕さん:
自分が女子だもんね。そりゃつまんないか(笑)。
マイソン:
じゃあ中身は男の安田さんのままで、ですね(笑)。
安田顕さん:
男の自分が女子になれるならそうなりますけどね。昔、女役を3ヶ月くらいやったことがあるんですよ。矯正下着をして、ウエストを細めるんですね。3ヶ月の最後のほうですよ。着替えて、パッと鏡で自分の姿を見た時に、心の中で自分が危ないなと思った瞬間は、「私の乳首に価値がある」って思った時。
一同:あはははは!
安田顕さん:
あれは危ないなって思いましたね(笑)。宝塚の人も長い間男役をやっていると、戻るのに3倍かかるっていうから。僕はこれヤバいんじゃないかって思いました。あれはビビりました。
マイソン:
ハハハハ!で、映画の話に戻りますが、ラストは解釈に寄っては、バッドエンドにもハッピーエンドにも見えました。安田さんはどう思いましたか?
安田顕さん:
切なくて良かったなって思います。あれは実は2パターン撮ってます。
マイソン:
そうなんですね!
安田顕さん:
原作通りの終わり方も撮ったんですよ。でも、吉田監督がこの『愛しのアイリーン』という映画にとっては、もう一つのラストシーンが合うということだったんじゃないでしょうか。
マイソン:
安田さん的にも、映画に関してはあの終わり方で良かったと思いますか?
安田顕さん:
ギュッと掴まれますね。僕はおもしろかったというより、ドスンと来ちゃって、席を立てないみたいなところがあって。逆になんかすべてが浄化されていないところが良いのかなって。突きつけられたまま終わるというか、いわゆる余韻があるなと思いました。その後に奇妙礼太郎さんの歌が流れた時に何とも言えない立てない感じがして。台詞に溢れる熱量というか、それだけは確かで。この映画は決して毎日観て、次の日も頑張ろうっていうものではないと思うんですよ。でも、何か立ち止まって、考える。自分について、相手に対して思う、そういう時間ができるんじゃないのかなって、今思いました。最初は「何なんだこれは!」っていうのがグルグル回ってたけど、時間が経てば経つほど、その時に感じたこととか、要するに普段感じられないことなんですね。日常を生きていく上で、「これを観た、勇気づけられた。よし行くぞ」っていうのは絶対に必要なものだけど、そうじゃなく、こういう映画があるからこそ映画というものが大事なんじゃないのかな。それが芸術であり、文化であるっていうことなんじゃないかなって、思います。そういう両輪があって、映画っていうものがあるんじゃないかと感じさせてくれた映画です。
マイソン:
普段ご自身が観客として観る映画も、どちらかというとそういう映画のほうがお好きですか?
安田顕さん:
いろいろです。ただ、自分の中に残る映画だなというのは間違いなくあります。これを観た時は、「あ〜『愛しのアイリーン』という映画を観たんだ」って、心をかきむしられたんですよね。「良かったら観てみて」とはっきり言える映画だなって。今まで立てないなって思った映画だと、ベット・ミドラー主演の『ローズ』というジャニス・ジョプリン(=ローズ)の人生を描いた映画があるんです。映画館で観たわけじゃありませんが、観終わった後に立てないくらいの衝撃があって、『愛しのアイリーン』はそれ以来の衝撃でした。
マイソン:
ご自身の主演作だとなお嬉しいですよね。
安田顕さん:
嬉しいというか、ありがたいですよ。本当に感謝しかないです。他の方に演じられたら、悔しかったと思います。
マイソン:
今日はありがとうございました!
2018年9月14日より全国公開/R-15+
監督・脚本:吉田恵輔
出演:安田顕/ナッツ・シトイ/河井青葉/ディオンヌ・モンサント/福士誠治/品川徹/田中要次/伊勢谷友介/木野花
配給:スターサンズ
うだつの上がらない毎日を送る、42歳のダメ男、宍戸岩男は、突如嫁探しのためフィリピンへ。そして岩男はコツコツ貯めた300万円をはたいて嫁をゲットし、父の葬儀の日に実家に戻ってきた。異国からやってきた嫁を気に入らない岩男の母は、何とかして岩男と別れさせようとするが、運命が思わぬ方向へといってしまう。
公式サイト 映画批評&デート向き映画判定
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