今回は、世界16の国と地域でサプライズ大ヒットを果たし、タイ映画史上歴代NO,1の記録を樹立した本作を監督した、ナタウット・プーンピリヤさんにインタビューさせて頂きました。取材中はサングラスをかけていらっしゃいましたが、写真撮影でサングラスを外してもらうと、あらイケメン(笑)!タイのカンニング事情についてのお話にも驚かされました。
PROFILE
ナタウット・プーンピリヤ
1981年3月24日、バンコク生まれ。タイのシーナカリンウィロート大学、芸術学部演劇・舞台演出専攻にて修士号を取得後、短編映画を撮りながら、TVCM監督として、ワコール、ブラザーといった有名企業のCMを手掛けた。その後渡米し、ニューヨーク・ブルックリンにあるプラットインスティテュートでグラフィック・デザインを学ぶ。2011年帰国し、再びTVCM、MV監督として活躍。2012年、“Countdown”(原題・日本未公開)で長編監督デビューし、タイのアカデミー賞と呼ばれるスパンナホン賞で最優秀脚本賞、編集賞、主演男優賞を受賞。さらに第86回米アカデミー賞外国語映画賞のタイ代表に選出された。2017年5月、『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』が本国で公開され、タイ国内映画として同年の年間興行収入第1位を記録。また第27回スパンナホン賞では最優秀監督賞を含め、史上最多12部門で受賞した他、カナダのファンタジア映画祭監督賞受賞など、国内外の映画賞を多数受賞。
マイソン:
本作には倫理的な問題も含まれていますが、描写する際、どんなところに一番気を付けましたか?
ナタウット・プーンピリヤ監督:
倫理の問題については、映画デビュー作から考えています。人間が人生の危機に立たされた時にどうするか。正しいとか正しくないというのは、はっきりとした境界線はなくグレーゾーンだと思うんですよね。ただその行動を選択するのは自分次第だし、私は監督として判断する立場にないけれども、自分の行動は自分の判断により、その結果が良きにつけ悪しきにつけ自分に跳ね返ってくると思っています。
マイソン:
カンニング・ビジネスが成り立っていくストーリーは、エンタテインメント的でおもしろかったのですが、すごく今の時代を象徴するストーリーだとも思いました。監督ご自身が一番こだわった点はどんなところですか?
ナタウット・プーンピリヤ監督:
最初にプロデューサーと話していたのは、楽しく観られる映画を撮ろうということだったんです。脚本を書いたり、リサーチしていた時に、タイの教育システムというものが浮き彫りになってきました。それは皆がよく知っていることだということもわかったんですけど、改めて提示して皆にそのことについてさらに考えて欲しいと思ったんです。
マイソン:
お金持ちで勉強ができない学生も、ビジネスのセンスはあって、そういう意味ではジーニアスということなのかなと思いました。監督はそういう意味を全部含めて“バッド・ジーニアス”というタイトルを付けられたのでしょうか?
ナタウット・プーンピリヤ監督:
やっぱり子どもの特技ってそれぞれ違うと思うんですけど、現在のタイの教育システムでは学問ができる子だけを尊重して、他の分野が得意な子は無視されています。でも好きな分野で能力を伸ばしても良いんじゃないかと思うんです。
マイソン:
あのビジネスは善い行いがベースではなかったですが、確かにどんな特技でも評価される社会なら良い方向に才能が向きそうですよね。で、同じ教室内で試験をしているのにテストが2種類出てきたりという描写もありましたが、実際にこういうことはあるんですか?
ナタウット・プーンピリヤ監督:
あります。リサーチの結果、そういう事実が発覚したんです。
マイソン:
それはカンニング防止のためですか?
ナタウット・プーンピリヤ監督:
それも一つの理由だと思います。タイの子どもはカンニングが好きで、先生はいろいろカンニングを防ぐ方法を考えているんです。
マイソン:
へ〜!!じゃあ学生は、カンニングしちゃダメだってわかっているけど、上手くやろうとする人、慣れている人が多いということですか?
ナタウット・プーンピリヤ監督:
タイの学生にとっては結構普通のことで、挑戦し甲斐があるようなことなんですけど、もちろんカンニングをしない子もいます。でも実体験によると、やっぱり良い点数を取るためにはやっているし、結構楽しんでいて、クリエイティブなカンニングの仕方もあるんですよね。回答用紙なんですけど、よく隣の子の机を見るっていうのがあるじゃないですか。それを防ぐための解答用紙で、マークシートの設問と選択肢の配置が真っ直ぐではなくて、円の中心から放射状に配置されているんです。そうすると(覗き見をしてもどの設問がどこにあるのかがわかりづらいので)カンニングしづらいんです。先生もカンニングに対して賢くなっていくんです。スゴイネ(笑)。
マイソン:
スゴいですね!あと、劇中では大学から海外に行くという学生も登場していましたね。監督ご自身もニューヨークに行かれた経験をお持ちですが、タイでの映像の勉強とニューヨークとで、ここが違うなと思ったところはありますか?
ナタウット・プーンピリヤ監督:
僕の場合は、むしろ人生の勉強として経験を積みに行ったんです。やっぱりタイの教育システムで自分が経験してきたことは、すごく学術的で、人生に応用できないことが多かった。でもニューヨークでは、自分の情熱を持ってやりたいことをやるっていうことを学びました。
マイソン:
勉強の内容というより、ニューヨークに行った経験がすごく充実されていたということですね。
ナタウット・プーンピリヤ監督:
すごく人生の勉強になりました。たくさんの人と知り合って、さまざまな予想外の出来事に遭遇しました。その中の1つの実体験を基に映画デビュー作を撮ったんですけど、監督になれたのはニューヨークに行ったからだと思います。それが監督としての始まりなんです。
マイソン:
今回本作がすごく大ヒットしたことで、監督にとって大きな変化はありましたか?
ナタウット・プーンピリヤ監督:
変化は当然あって、良いことのほうが多いとは思います。例えば、たくさんのプロジェクトが持ち込まれて、すごく選択肢が増えました。でもその一方で、観客を楽しませないといけないというプレッシャーもさらに大きくなりました。
マイソン:
そうですよね。今後チャレンジしたいジャンルはありますか?
ナタウット・プーンピリヤ監督:
自分自身、さまざまなジャンルの映画を観ているので、いろいろ撮ってみたいと思っているんですけど、今関心があるのはホラー映画です。個人的にも好きなので、タイミングが合えば、ホラー映画を1本撮ってみたいですね。
マイソン:
では、タイ映画で日本の方にオススメの映画はありますか?
ナタウット・プーンピリヤ監督:
素晴らしいタイ映画は何本もあって、外国の人もぜひ観て欲しいんですけど、もし1本挙げるとしたら、『わすれな歌』です。10年以上前の作品で、すごくタイらしいテイストで、ソムタムとか、トムヤムクンのようなすごく美味しい映画なんです。
マイソン:
『わすれな歌』は日本でも評価が高いですよね!今“美味しい”というキーワードが出たのですが、私はタイ料理が好きなんです。タイに行った時にこれは絶対に食べたほうが良いというものはありますか?
ナタウット・プーンピリヤ監督:
トムヤムクンとかパッタイって言ったらもう飽きていますよね(笑)?
マイソン:
飽きてはいないです(笑)。美味しいですよね。
ナタウット・プーンピリヤ監督:
“クイッティアオ”というボートヌードルがあるんですが、具は牛とか豚で、さらにスープに牛とか豚の血が入っていて、すごく濃い味になっています。ホントウニオイシイネ。
マイソン:
ぜひ食べてみます!では最後に、日本の女性に向けて、本作の見どころを教えてください。
ナタウット・プーンピリヤ監督:
やっぱりこの映画は女性がヒロインというところで、彼女が立ち上がって、そのシステムが正しくないとか、フェアじゃないと思って、いろいろなシステムと戦っていく姿、時には男性にも戦えないようなところに向かっていく姿を観て欲しいです。彼女自身の存在感がすごくカッコ良いので、素敵なヒロインに注目してください。
マイソン:
ありがとうございました!
2018年7月24日取材&TEXT by Myson
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2018年9月22日より全国順次公開
監督:ナタウット・プーンピリヤ
出演:チュティモン・ジョンジャルーンスックジン/チャーノン・サンティナトーンクン/ティーラドン・スパパンピンヨー/イッサヤー・ホースワン
配給:ザジフィルムズ、マクザム
天才的な頭脳を持つ女子高生リンは、父子家庭で育ち、学費の工面が厳しい状況だったが、優秀な頭脳を認められ、進学校に特待奨学生として転入する。さっそくグレースという裕福な家庭の女子と友達になるが、リンがテスト中に“ある方法”で彼女を救ったことがきっかけで、グレースの彼氏から“カンニング・ビジネス”をもちかけられる。
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