今回は、町山智浩さんに本作について語って頂きました。町山さんのお話を聞いて、いかに私が映画やドラマのイメージに感化されているか自覚できました。なるほどと思えるお話ばかりで、本作の魅力がより強く感じられました。
PROFILE
町山智浩
1962年生まれ。アメリカ、カリフォルニア州に在住。映画評論家、ジャーナリスト、コラムニスト。編集者として「映画秘宝」を創刊。著書には、“映画の見方がわかる本”シリーズや、「トラウマ映画館」「最も危険なアメリカ映画 『國民の創生』 から 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』まで」「映画と本の意外な関係!」「『最前線の映画』を読む」などがある。
マイソン:
私は主人公夫婦に共感しながら鑑賞しましたが、主人公夫婦はアメリカに潜伏して諜報活動をしているソビエトの人という設定です。アメリカでは視聴者は主人公に対してどんな反応なのでしょうか?
町山智浩さん:
アメリカでも主人公夫婦に共感して観ていますね。タイトルの“ジ・アメリカンズ”=“アメリカ人達”というのは、この2人を意味していて、彼らはKGBのために働いているつもりだけど、アメリカ人だよねってことなんです。アメリカに来た人は皆アメリカ人だから。それが他の国の概念とは決定的に違うところです。アメリカは、アメリカで生まれた人というか、元々アメリカ人だった人はほとんどいません。移民の国ですから、それはすごくアメリカ独特の考え方ですよね。インディアンを除けば、皆移民ですからね。
マイソン:
対ソ連、対ロシアという敵対心を持っているような風潮はあまりないんですか?
町山智浩さん:
結局その狭間で、主人公達はアメリカでアメリカ人として生きていて、アメリカを愛しているのに、そうじゃないアイデンティティを持っているというところで、葛藤して苦しんでいるというドラマなので、それに対して敵対心は抱かないでしょうね。それこそ、どっちの国を取るかという立場はアメリカの人達は常に持っているんですよ。例えば、第2次世界大戦の時にアメリカで最も人口が多かったのは、ドイツ移民なんです。でもドイツとあれだけ戦ったんです。常にアメリカ人はそういう問題を抱えているんです。日系人もそうだし。米英戦争もありましたから、当然イギリスとも戦いました。常にアメリカ人は2つのアイデンティティの問題と向かい合っているので、主人公のような立場の人も珍しくない。歴史的にはずっとそうなんです。
マイソン:
ドラマの要素として、そういう国についてのアイデンティティの他に、スパイ、夫婦の恋愛など、見どころがいろいろあったのですが、町山さん的にはどのポイントが日本人が観て一番おもしろいポイントだと思いますか?
町山智浩さん:
僕はホームドラマだと思っているんですけど、一番比較して近いのは、『レッド・ファミリー』っていう韓国映画です。韓国に潜入している北朝鮮の一家が、韓国で一番典型的な、素晴らしい模範的な家族を演じているんですけど、あまりにも模範的過ぎて、実は周りの人にそんな家族はいないと思われているんですね。他の家族は夫婦喧嘩をしたり、浮気をしていたり、家庭がめちゃくちゃだったりするから、周りから「あなた達は最高の家族ね」って言われるんだけど、実は演じているだけっていう話だったんです。それに近いですよね。
マイソン:
確かに似てますね!『レッド・ファミリー』もそうですが、こういった作品は、歴史的背景とか政治的な部分とか、どこまで知識を持って鑑賞するのが良いのでしょうか?
町山智浩さん:
ある程度の知識がないとハラハラしないし、当時ソ連とアメリカが全面的な核戦争を起こして全世界が破滅する寸前にあったっていうことは知っておかないと、何でこんなに彼らが必死になっているのかがわからないと思うんですよ。当時、世界核戦争に最も近づいていた時期なんです。1982年くらいからゴルバチョフが出てくる直前までの期間、もしかしたら世界は滅びるかも知れなかった。僕はその時、大学卒業後、就職して1年目でしたが、すごく危機感がありましたよ。実際にソ連は、雲に太陽の光が反射しているのをアメリカの核ミサイルと勘違いして、アメリカに対して間違って全面核攻撃を仕掛けようとしていたんです。1人の将校が核攻撃命令に対して反乱を起こして、命令拒否をしたことで戦争しないで済んだのですが、その人が命令を拒否せずに実行していたら、もうこの世はなかったし、今我々はいないんですよ。そのくらい緊迫した時期に、実際のスパイ最前線に立っていた人達の話だとわからないと、怖くないので。本当にこの頃は怖い時期だったんです。
マイソン:
アメリカの方々は、そういう状況をリアルに思い出す感覚で、このドラマを観ているんでしょうか?
町山智浩さん:
そうだと思います。当時ソ連のアフガン侵攻があって、あとは中南米、特に中米に、レーガン政権が軍事的に介入していたり、ほとんど戦争状態だったんですよ。表向きにはなかったんですけど、実はワシントン市内では、スパイ同士がものすごい戦いをしていた。というのは、実際に10人くらいのKGBのスパイが、当時ワシントンに潜入していたそうで、それがリアルなんですよね。あと細菌兵器が途中で出てきて、炭疽菌を巡る争奪戦があるんですけど、実際に炭疽菌はアフガン戦争でソ連軍が使っていますしね。だから、かなりその辺はリアリティがあると思います。
マイソン:
アメリカや欧米の映画やドラマを観ていると、スパイが普通にいっぱいいますよね。
町山智浩さん:
日本もいますよ。
マイソン:
いますか(笑)!? 私達が気付いていないか、意識していないだけなんですね!
町山智浩さん:
いっぱいいますよ〜(笑)!どこにでもいますよ。レジデンシャルっていう大使館にいる人は、CIAの職員としてやっていますが、スパイっていうのは基本的に民間企業を作ってそこで働くんですよ。どこの国でも、民間企業の商社マンのふりをして行動するんです。だからギリシャ政権がクーデターで転覆させられた時に、民間企業に名前の入っているCIAのリストが全員公表されて、「こいつらがクーデターを起こしたんだから、こいつらを殺せ」ってことになって、全員命からがら脱出するっていう事件がギリシャで起こっていますよ。
マイソン:
え〜〜〜〜!
町山智浩さん:
それが普通なので。
マイソン:
日本ではあまりそういうニュースとか、存在が取り上げられていないだけで、海外ではスパイのニュースが普通に流れたりするんですか?
町山智浩さん:
ピストルを持って黒い服を着て走ったりしているような人が、スパイじゃないんですよ(笑)。スパイは国のために命をかけているロボットみたいな人なのかっていったら、そうではなくて、普通に人を好きになるし、情報を取り出すために、自分も相手を本気で好きにならなければ、相手に自分を好きにさせることができないし。一番人間の心でいじっちゃいけない愛の部分を弄ぶので、スパイって残酷な仕事なんだっていうことが、このドラマのテーマなんですよね。彼らはスパイ活動のために子どもを作るじゃないですか。でも、スパイ活動のために子どもを作るということがあって良いのかってことですよね。でも実際に作ったら、やっぱり子どもは誰よりも大切な愛する者になってしまうから、それに巻き込まれないように頑張るし、この夫婦もスパイとして活動するために「偽装夫婦をしろ」って言われるんだけど、やっぱりそこは愛し合ってしまうわけですよね。ところが、彼らは互いにそれぞれ別の女の人、男の人を愛するっていう芝居をして、そうすると相手からも愛されて、そしたら彼らを利用できなくなるじゃないですか。でも愛さなければ愛されないので、そうしないとスパイ活動はできないんだけど、愛に縛られてしまうと、今度は相手を裏切ることができなくなって、スパイ活動はできなくなるんだっていう。その葛藤をこのドラマは描いているんですよ。だからスパイがどうこうっていうことではなくて、世界中の人が、アメリカ人が、このドラマを観てハラハラしているんです。それは誰にでもあることだからでしょうね。
マイソン:
いろいろな種類の葛藤が描かれているので、共感するポイントがたくさんあるんですね。あと気になったのが、主演の2人はプライベートでもパートナーなんですね。
町山智浩さん:
マシューは、10年間くらいケリーに片思いをしてたんです。本当に好きなんでしょうね。ドラマのなかでマシューが監督した回で、彼が演じるフィリップが「初めてエリザベス(ケリー)と会った時、どうだった?」って聞かれて、「初めて会った時からずっと好きだ」って言うセリフがあるんですが、彼は直接ケリーには言えないんですよ。ドラマを通して間接的に言っている。その辺も可笑しいですね。
マイソン:
ハハハハ(笑)。マシューがケリーとの共演を熱望したんですか?
町山智浩さん:
みたいですね。とにかく彼が、冷たいケリー・ラッセルに一生懸命アタックした成果です。でも、まだケリーは籍を入れてくれないんですよ。
マイソン:
そうなんですね!?
町山智浩さん:
まだ事実婚ですよね。エミー賞を受賞して舞台に立った時に彼が「今ある女性に言われました」って。ある女性っていうのは、もちろんケリー・ラッセル以外いないんですけど、彼女に「舞台の上から、正式に結婚してくれとか言うんじゃないわよ。言ったらぶん殴るわよ」って(笑)。だからマシューは「言えません」って言っていて。ケリーは事実婚しているのに、まだ結婚する気はなくて、それを皆の前で言うなって、ドラマのキャラクターとほとんど同じですよね。
マイソン:
そういう視点で観てもおもしろいですね!
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※右記はシーズン1セル用ジャケット
製作総指揮・企画:ジョー・ワイズバーグ
出演:ケリー・ラッセル/マシュー・リス/ノア・エメリッヒ
20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン
アメリカとソ連が冷戦中だった1960年代、KGB工作員のエリザベスとフィリップは偽装結婚をして、アメリカに潜伏し、普通のアメリカ人になりすましていた。2人の子どもをもうけ、夫婦の間にも徐々に本当の愛が芽生えてきたかのように思えたが、過酷な任務のなかであらゆる葛藤が生まれる度に、2人の関係は複雑になっていく。
公式サイト ドラマ批評
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