今回はロシアで上映禁止の騒動がありながら、210万人が鑑賞し大ヒットとなった本作。来日したアレクセイ・ウチーチェリ監督にその背景をお聞きしました。そして、センセーショナルを巻き起こしたニコライ2世とマチルダの禁断の恋、監督はどんな思いを映画に込めたのでしょうか。
PROFILE
1951年生まれ、ロシアのサンクトペテルブルク出身。ロシア国内外で活躍し、ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞ノミネート、アカデミー賞外国語映画賞ロシア代表となった『爆走機関車 シベリア・デッドヒート』や、ロカルノ国際映画祭最優秀男優賞を受賞した“The Fool(英題)”など、多くの作品で映画賞を受賞している。また、サンクトペテルブルグで開催される“Message 2 Man(メッセージ・トゥ・マン)国際映画祭”の名誉会長にして、ロシア屈指の映画スタジオである“ロック・フィルムズ”(1991年設立)の創設者でもある。
そのほかの代表作に、カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭監督賞を受賞した『チェチェン包囲網』、モスクワ国際映画祭最優秀作品賞を受賞した『宇宙を夢見て』、クリーブランド国際映画祭、シラキュース国際映画祭、ヴィボルグ国際映画祭作品賞を受賞した“The Stroll(英題)”、AFI映画祭作品賞受賞、アカデミー賞外国語映画賞ロシア代表となった“His Wife's Diary(英題/作家の妻の日記)”などがある。『マチルダ 禁断の恋』は、ロシア国内で聖人として神格化されているニコライ 2 世の禁断の恋を描き、本国では賛否両論が飛び交う超話題作となった。
マイソン:
本国で劇場公開が妨害されたという騒動をお聞きしました。制作中からそういうことが起こる可能性は予測されていましたか?
アレクセイ・ウチーチェリ監督:
全く予期していませんでした。
マイソン:
ロシアは日常でも、ロシア正教など皆信仰に厚い風潮だったのでしょうか?
アレクセイ・ウチーチェリ監督:
ロシアにはロシア正教の他にもたくさん宗教があります。今回私の映画に対して抗議をしてきたのは、ロシア正教の中の一部のアグレッシブな宗徒です。そのアグレッシブな一部の正教徒が抗議活動をしていたんですけど、その人達は映画を観ないで抗議をしていたんです。この映画はロシア国内で200万人以上の人が観たんですけど、映画が公開されて抗議活動をしていた人達が観た後は抗議活動がなくなりました。というのも、観た人達は映画からニコライ2世に対する敬意以外に何も発見できなかったんです。冒涜なんかされていないということがわかったので、抗議をやめました。
マイソン:
なるほど。一般の観客はこの2人の恋愛について好意的だったのでしょうか?
アレクセイ・ウチーチェリ監督:
歴史的事実ですからね。ニコライとマチルダの間に恋愛関係があったというのは、否定できないことだから、歴史的事実として受け止めたのはもちろんですが、ただそれに対する反応というのはさまざまです。私にとって大事だったのは、2人の関係が真実の計算のない心からの恋愛感情だったというのを描くことで、自分ではそれができたと思っています。私が映画館を訪れた時、女性の多くが泣いていて、この2人の恋愛は本物だったと信じてくれたと感じました。
マイソン:
マチルダさんがこの事実について伝記を出した時の国民のリアクションはどんなものだったかご存じだったら教えてください。
アレクセイ・ウチーチェリ監督:
マチルダは1950年代に自叙伝を書いたので、当時読んだ人のリアクションがどうだったかはわかりませんが、確信するのは、1950年代も今も皆この恋に大きな関心を持っているということです。本は今に至るまで再版を重ねていますし、ロシアだけでなく国外でも読まれています。ただその自叙伝もいろいろな制約があって、すべてを書いているわけではなく、映画は私達が持つこの恋愛の1つの見方を提示したということになります。彼らが2人きりで何を話していたのかは結局誰にもわからないわけであって、私達がこういう会話をしていたんじゃないかって考えついたもので、仮定の部分もあります。この自叙伝は、マチルダが亡命した後に長らく暮らしていたパリで書かれたものなんです。マチルダはすごく長命で99歳と9ヶ月生きて、あと3ヶ月で100歳まで生きた人なんです。
マイソン:
すごい!監督ご自身は、この伝記を読んだ時にニコライ2世かマチルダさん、どちらに共感しましたか?
アレクセイ・ウチーチェリ監督:
難しい質問ですね。どの映画でもそうですけど、主人公を愛せないで良い映画は撮れないと思うんですよ。ただこの映画に関して言えば、ニコライのほうにより関心を持って作りました。
マイソン:
マチルダはすごく魅力的ではあったんですけど、小悪魔的で手強いなとも感じました。監督から見てマチルダの一番の魅力はどういうところですか?
アレクセイ・ウチーチェリ監督:
もちろん外見的な美しさというのが、彼女の1つの強みではありますよね。マチルダを演じたミハリナ・オリシャンスカという女優も、マチルダ・クシェシンスカヤ本人も外見的にとても美しい女性です。マチルダは小悪魔的というよりは性格がとても強くて、自分が達成したいもの、手に入れたいものを手に入れる気持ちの強さがあったと思います。映画の最後にタイトルロールでしか書いていないんですが、マチルダは最終的にニコライの従兄弟と結婚して、亡命先で息子を産みました。亡命先にいた息子と、結局マチルダ自身も皇族になりましたし、息子は帝位継承者だったわけです。だから皇室に入ることを望んでいた彼女は、事実上それを達成したんですよ。
マイソン:
ドラマチック!では、最後に日本の映画好きの女性にはどういうところに注目して観て欲しいですか?
アレクセイ・ウチーチェリ監督:
1つは、当時のバレリーナは、皆わりとぽっちゃりしていたんだよっていうことに注目して欲しいです。2つ目は、どんな社会的立場であるかに関わらず、「奇跡は起きるものなんだ」ということ、愛がすべてに打ち勝つというか、愛が一番強いということをメッセージとして伝えたいです。
マイソン:
ありがとうございました!
2018年7月11日取材&TEXT by Myson
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『マチルダ 禁断の恋』
2018年12月8日より全国順次公開
監督:アレクセイ・ウチーチェリ
出演:ラース・アイディンガー/ミハリナ・オルシャンスカ
配給:ツイン
1800 年台後半のサンクトペテルブルク。ロシア王位継承者であるニコライ2世と、世界的に有名なバレリーナのマチルダは恋に落ち、2人の関係は国を揺るがすスキャンダルとなる。王位継承、政略結婚、外国勢力の隆盛とロシア帝国の衰退…。時代に翻弄される2人の運命は前途多難だった。
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