高校まで野球少年で絵を習い始めたのはアメリカに行ってからという堤さん。本作ほかピクサー作品を手掛けるアート・ディレクターになるまでの経緯や、本作の魅力について語って頂きました。
東京生まれの東京育ちで、現在はカリフォルニア州バークレー在住。高校までは野球少年だったが卒業後に渡米し、1998年にニューヨークにあるスクール・オブ・ビジュアルアーツに通った。卒業後、ジョージ・ルーカスが子ども向けビデオゲーム開発のために作ったルーカス・ラーニング社で働いた後、ブルー・スカイ・スタジオに移り、『アイス・エイジ』『ロボット』『ホートン ふしぎな国のダレダーレ』3作のコンセプト・アートを担当。2007年にピクサー・アニメーション・スタジオに入社後、アカデミー賞®受賞作品、『ウォーリー』と『トイ・ストーリー3』などを手がける。ピクサー社で働く以外に、絵画を通した慈善活動も行っている。
2013年11月20日リリース 4,000円(税別)/レンタル同時
監督:ダン・スキャンロン
声の出演(日本語吹替版):ビリー・クリスタル(田中裕二)/ジョン・グッドマン(石塚英彦)
ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
幼い頃から夢見ていた“怖がらせ屋”になるためにマイクはついにモンスターズ・ユニバーシティに入学する。しかしそこにはサリーを始め自分よりも大きくて才能溢れるモンスターたちがたくさんいた。そこでマイクが取った手段とは!?サリーとの友情はどう築かれていったのか!?
©2013 Disney/Pixar
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マイソン:
以前はジョージ・ルーカスのルーカス・ラーニング社にいらっしゃって現在はピクサーにいらっしゃいますが、とても狭き門をくぐり抜けてこのお仕事をされていると思います。アメリカでこういうお仕事に就くためにどんな入社試験や面接を突破しなければならないのでしょうか?
堤さん:
本当にいろんな方から聞かれるのですが、僕はピクサーが狭き門という意識はなく、時と運とそのときピクサーが求めているものと自分のタイミングが合ったというのが大きいと思います。運とか巡り合わせが自分のところに来たところで準備ができていなければつかみ取れません。だから常に自分を磨いていなければと思います。僕は大学時代にディズニーブートキャンプというディズニーのインターンシップのようなトレーニングプログラムに、全国から35人だけ選ばれて参加したことがありました。そのときのメンバーは今この業界ですごく活躍している方が何人もいるようなエリート軍団で、そのうち5人くらいがルーカス・ラーニング社で仕事をしたいと望んでいました。そんななか僕は入社できたのですが、1年目が終わった頃に大掃除があり、僕も含めて当時の皆のテストが出てきたんです。僕は当時テストが上手くいかなかったと思っていたのに合格したので「自分もなかなかやるな」と思っていたら、他の人とどう比べても僕が一番下手だったんですよ。これは謙遜とかではなく本当に僕の絵は下手で、自分のボスに「なんで僕を採ったんだ?」って聞いたら、「正直、君の絵が一番下手だった。でも面接でいろいろ話して将来性を感じた」って言ってくれたんです(笑)。これは本当の話ですよ。それは彼の気まぐれかも知れませんが、僕はそういう気まぐれな部分に救われて入社してそこですごく頑張って今があるわけなんです。
堤さんが製作初期に描かれたコンセプト・アート 『モンスターズ・ユニバーシティ』MovieNEXワールドにて期間限定ダウンロード(11/26まで) |
「ピクサーに入るにはどうしたら良いんですか?」とか、中学生くらいの子に「今から絵をすごく勉強しているんです。どんな絵を描けば良いですか?」などと聞かれますが、ピクサーに入るという目的のためだけに描くということではなく、自分が本当に好きな絵をずっと描き続けて欲しいです。やっぱり人生経験とか恋愛、失恋とかいろいろな経験をして、初めて人を感動させられるものを作れるわけだから、“絵だけ”描くというのではなく、そういういろいろなことを含めて描き続けて、ピクサーのニーズに合えば入れるということだと思います。僕も学生時代はディズニーに入りたいと思ってやっていましたからそういう気持ちはわかりますが、結局会社の名前とか関係なく、個人でコツコツと好きだから情熱を持ってやっている人がそういう環境に恵まれることって必ずあると思います。
マイソン:
ピクサーは子どもたちや大人にも夢を与えてくれる作品をいっぱい作られていますが、独特の社風とか会社の指針を貫くためにスタッフさんたちに徹底しているルールとかはありますか?あと、社食がおいしいとか?
堤さん:
そうですね。僕が今までいた3つのスタジオのなかではピクサーの社食は一番おいしいですね。健康面も含めてちゃんと考えてくれていると思います。でもやっぱり日本の社食が入ってくれたらもっと良いんですけどね(笑)。ピクサーという会社については、クリエイティブに物を作るというのがどういうことかを社長のエド・キャットマルは本当にすごく大事にしていて、彼がよく言うのは「ピクサーのために何かやるんじゃなくて、クリエイションとはどういうものなのかを追求することが大事」ということなんです。だから、ハリウッドの映画業界のスタジオは自主映画をサポートしないところが多いなか、ピクサーは社外の個人のプロジェクトもサポートしています。やっぱりクリエイティブなものはすごくパーソナルなものというところが大事で「それを常に作っていなさい」ということなんです。そういう点で懐がすごく大きくて、ピクサーは「見えないところで得られるもの」をすごく大事にしています。見えないものにお金をつぎ込むのはすごくリスクが高いわけで、結果もなかなか見えないですが、そこを信条としているからこそ働いているアーティストの内面から良いモノが生まれてくるんじゃないかなと思います。そういう点ではほかの会社では全く経験できなかったことをこの会社に来てから見ています。
マイソン:
では『モンスターズ・ユニバーシティ』について、本作の制作で一番力を入れた部分はどういったところでしょうか?
堤さん:
一作目がたくさんの方から愛された名作と言われる作品だったので、すごくプレッシャーがあり本当に大変でした。続編は簡単だと思われがちですが、実はもっと難しいと思います。『モンスターズ・ユニバーシティ』は、マイクが自分の夢に向かってものすごく頑張りますが、いわゆる普通のヒーローのお話ではなく、世間的に言ったら夢がなかなか実現しないキャラクターを描いているわけです。でも、それが不幸せなのかというと違って、本当の彼らしい方法で夢が違う形で実現されるわけです。小さいときの夢がそのまま叶う人って少ないけれど、その人たちが不幸せかといったら違うじゃないですか。僕も野球選手になるという夢に破れたわけですが、本当に今幸せです。皆もそうやって生きているわけで、それは子どもも大人も感じられるものがあるんじゃないかってことはすごく意識してやっていました。
マイソン:
作品全体の色彩と照明効果のアートディレクションを担当されているとのことですが、技術的に見応えのあるオススメシーンはありますか?
堤さん:
いっぱいあるんですけど、僕は15年近くこの仕事をしていて、今までやった映画のなかで一番だと思
います。ただ単にきれいだとかリアルなだけではなくて、キャラクターの感情に合わせて光をものすごく計算してデザインしました。重要な場面でキャラクターが光に入ってきたり陰に入ったり、それを気づかれないようにすごくさりげなくやっています。これは映画全体でやっているのでぜひ観て頂ければと思います。
マイソン:
最後にピクサーが世界的に支持される理由は何だと思いますか?あと「夢を諦めなければ叶う」というこの作品の素敵なテーマに絡めて読者に一言お願いします。
堤さん:
ものづくりですからすごく上手くいくときもあれば失敗することもあります。ピクサーがすごいのは、本当にいろんな人の心に語りかけるように作っているところ。小手先でこうすればこうなるっていうことではなく、いろいろな人の意見を聞きながら自分が納得するまで最後まで追究します。ビジネスだけで言えばそれは弱点なのかも知れないですが、クリエイティブ的な部分ではものすごく強みだと思います。
それから「夢を諦めなければ叶う」というお話ですが、夢って実現したときよりも追っかけているときの方が絶対幸せなんですよね。でも世間は夢が叶ったという結果に執着して夢が叶わない人は負け犬的な風潮になりがちです。これは世界中どこでもそうだと思うんですが、そういうのに負けずに夢に向かって一生懸命にやっているときの幸せを噛み締めることができれば、夢が叶うという表現とは違うかも知れませんが、必ず自分の求めているところに行けると思います。だから結果に捕われて諦めてしまったり努力しなかったり、情熱を持ってやる楽しさを忘れてしまったらもったいないと思います。
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2013.11.7 取材&TEXT by Myson