今回は累計230万部突破の大人気コミックを映画化した『男子高校生の日常』の松居大悟監督をインタビュー。監督ご自身も中高6年間を男子校で過ごし、その経験も本作に活かされているようで、監督から観た男子、女子について語って頂きました。お話を伺って、『アフロ田中』や本作で描かれる絶妙な人物描写は、この鋭い観察眼ゆえなんだなと実感しました。
1985年11月2日生まれ、福岡県出身。慶應義塾大学在学中に劇団ゴジゲンを旗揚げし、全作品の作、演出、出演を手掛けている。2009年、NHK『ふたつのスピカ』で同局最年少のドラマ脚本家デビューを果たし、【沖縄映像祭2010】にて自身が監督・脚本を務めた『ちょうどいい幸せ』でグランプリを受賞。商業映画の初監督作となる『アフロ田中』が2012年2月に公開。一方で俳優として『Go!Go!家電男子 THE MOVIE アフレコパニック』(2014年3月公開)に出演。次回監督作は2014年6月14日公開『スイートプールサイド』。
2014年3月19日リリース(レンタル同時)
監督:松居大悟
出演:菅田将暉/野村周平/吉沢亮/岡本杏理/山本美月/太賀/角田晃広(東京03)/東迎昂史郎/栗原類/上間美緒/三浦透子/山谷花純/白鳥久美子(たんぽぽ)/高月彩良/小池唯/奥野瑛太/佐藤二朗
販売:ポニーキャニオン
男子校に通う仲良し3人組のタダクニ、ヨシタケ、ヒデノリは、放課後はいつもタダクニの部屋に集まりダラダラとくだらない毎日を過ごしていた。だがそんなある日、女子高と文化祭を共催する事になり、タダクニほか男子校の面々は、慣れない女子とのコミュニケーションに戸惑い、あらゆる醜態をさらすことに…。
公式サイト 映画批評&デート向き映画判定
【男子映画部特集10】愛すべき男子高校生という生き物特集
©2013 山内泰延/スクウェアエニックス・映画『男子高校生の日常』製作委員会
マイソン:
本作に出てくる男子高校生たちもたぶん成長するとかっこ良くなったり、可能性を秘めていると思うのですが、彼らなりの努力は見えつつブレイク仕切れないダサさがすごくおもしろかったです。この痛い感じの愛らしさを演出するために、監督としてはどこに一番こだわりましたか?
松居監督:
この映画は、意味のなさとか、それを客観視できていない感じが大事なんじゃないかと。本人たちはそれを疑うことなくやっていて、その姿を美しく見せるためにも彼らは絶対に成長させちゃダメで、変わらないままでいさせようと思いました。この登場人物たちが自分を客観視できたら成長しちゃうじゃないですか。だいたい映画のキャラクターなんて成長しなきゃダメなのに、成長しないっていう(笑)。物語もなければ成長もないっていうのがこの映画の肝だという点に結構こだわりました。
マイソン:
ハハハハ!客観視できないから勘違いばっかりでそこがおもしろいっていうことなんですね。
松居監督:
だから撮るときも、一人一人をクローズアップするのではなく、覗き見感覚でちょっと遠めから観察しているという撮り方を意識しました。
マイソン:
なるほど。特典映像のなかで、監督は本作はコメディではなくドキュメンタリーだとおっしゃっていましたが、ご自身も中高男子校だったということで当時を思い出してドキュメンタリー風にしたということなんでしょうか?
松居監督:
僕が中高生時代に過ごした空気感そのままですね。女子の話ばっかしているくせに女子の前では結局何にもしゃべれなかったり、女子と話すよりも男子と馴れ合う方を優先しちゃったり、ダサいけどそっちの方が楽で男子高校生はそっちを選んじゃうだろうなというモヤモヤした空気感を出したくて。
マイソン:
監督から見て、共学だった男子と男子校あがりの男子の違いってありますか?
松居監督:
大人になっていくに連れて、その違いは意外となくなってくるんですけど、男子校出身者は悶々としているんですよね。行動に移す前に考えがちで、すぐ側にいるのに何もできないっていう。男子校だと女子と接することすらできないから、「女子と接したらどうしよう」とかそんなことばかり考えて、妄想が肥大化していくんです。だから電車とかで「女子がいるな」って気づいても、その女子とどうやったら話せるんだろうと考えている間に自分の最寄り駅に着いちゃう(笑)。翌日また同じ車両に乗って、向こうにバレないようにちょっとずつ近づいていったらこのまま話せるんじゃないかって思って、次の日はもっと近づこうと思ったら車両を変えられてしまう…みたいな。外から見たら何も起きてないのに、自分だけの物語が進み過ぎてしまうんですよね。
マイソン:
自分のなかで勝手に大失恋が起こっているんですね(笑)。
松居監督:
そうなんですよ。彼らのなかでいろいろな物語が起こっているけど、客観的に見たら何にも進んでいない(笑)。
マイソン:
本作のなかで女子にモテようと襟を立てていたりする行動もわかりやすすぎておもしろかったのですが、女子が認めるさじ加減でモテる感じにしちゃうとダメじゃないですか。でも男子からすると「あいつイキってるな」とか「モテようとしているな」とわかるさじ加減にするには、どう演出されたんでしょうか?
松居監督:
バレないようにカッコつけてるってところですね。隣にいるこいつらにバレたら「お前カッコつけ過ぎだろ」って言われて、その辛さが半端じゃないんですよ。だからバレないように皆でちょっとずつ様子を見ながら「あいつがこれくらいしてるんだから、俺はこれくらいしても大丈夫だろう」みたいな。
マイソン:
なるほど〜。それはおもしろいですね!じゃあお互いに意識して、女子だけじゃなくて、男子の出方を見てるってことなんですね。
松居監督:
むしろ男子の出方の方を見ているんだと思います。それを気にせずカッコつけちゃったら嫌われちゃうんですよ。
マイソン:
男子も大変ですね(笑)。女子のことを誤解しているシーンもおもしろくて、男子なりに頑張っているんでしょうけど、おませな女子からすると「男子っておバカだな」って思っていた感覚を私もリアルに思い出したのですが、この映画を観て女子に理解して欲しいなって思う男子の心情はどんなところですか?
松居監督:
結果だけを見ないでくれって思うんですよね。トイレのシーンもそうですが、結果だけ見たらただ気持ち悪いって思われるかも知れないけど、そこに至るまでの葛藤があるんだよっていうのを見て欲しいです。そこに至るまでに良かれと思ってすごく悩んでいるんだよ!と。
マイソン:
その不器用さがすごくかわいいなと思いました(笑)。
マイソン:
ではご自身が何か女子について勘違いしていたところってありますか?もしくは女子のここが一番わからないって思っていたところとか。
松居監督:
もともと「乙女心より童貞心の方が複雑なんだ」って勝手に思っていたんですけど、最近は、女子の方が男子より屈折しているんじゃないかと思います。男は本当に迷っていることとかを仲間にぶっちゃけたりして笑い話にしてすっきりしたりするけど、女子は本当に迷っていることとかも言えなくて、逆に明るく振る舞ったり、どんどんこじれていくような気がします。そういう点では女子の方が切実で、だからこそ女子の方が大人になっていく気がします。そんななか解決策をどうにか見つける人もいれば、足踏みしているともっとこじれちゃう人もいて、その幅がすごいなって思う。なので、僕は今すごく女子に興味があって、女子を描きたいっていうことの方が強いです。
マイソン:
確かに、言われてみればそうかも知れないですね。おしゃべりしている場に慣れているわりには、すごく自分を隠してしゃべっている感じですよね。
松居監督:
だから見た目がすごく明るい子は苦手だなと思っていたんですけど、意外とそういう子の方がすごく迷っていて、その裏返しで明るく振る舞っていたり。逆に大人しそうな子が意外とやり手だったり、女子は複雑だなって思いますね。
マイソン:
コメディは作るのが難しいと言われていますが、監督はどうですか?
松居監督:
僕はあんまりコメディと思って作っていないです。コメディを作ろうと思って作ったらつまらなくなる気がしていて、作品が「おもしろいよ」って自分に向けて言ってきたら冷めるというか。一生懸命必死で生きているけど、ただそれが世間の常識とズレがあるっていうことで笑う方が良いですね。単純に僕がそうなだけなんですけど、作り手の意図が見えたら冷めるんですよ。だから「ここで笑って欲しい」とか「ここで楽しい気持ちになって欲しい」っていう風には作りません。ストーリーを追いながら観るのではなく、勝手に自分の高校時代を思い出したり、映画のスクリーンの奥、DVDの奥の自分の物語を観てくれたら良いなと思います。
マイソン:
観る方の想像に委ねる部分を残してっていう感じですか?オーディオコメンタリーで、始めのシーンでなかなか主人公たちの姿を映さないのも「すぐに見せないぞ」っていう意図だとおっしゃっていたのもそういうことでしょうか?
松居監督:
そうです、そうです。3人の顔で始まったら3人の話にしかならないから、「これはあなたの話だよ」みたいな、「そういえば思い出すな」っていう原風景と共に自分のお話として観て欲しいですね。
マイソン:
では、最後に映画好き女子に向けて見どころ一言お願いします。
松居監督:
絶対に男子校って覗くことがなかったと思うんですけど、男子校に侵入して覗いている感覚で観てもらって、女性には絶対に見せない男の本当にダサくて悶々としているところを目撃してください。
『アフロ田中』でも本作でも、ダサいけれど愛おしい男子を見事に描いている松居監督。前述にもあるように現在は女子に興味津々とのことで次作『スイートプールサイド』では女子を中心とした物語を描いています。本作はタイトルのとおり、本当に“男子高校生の日常”をそのまま切り取って映像化したような作品で、イケてない男子たちが奮闘する姿がかわいいなと思える、ある意味癒し系の作品です。女子で集まってワイワイと本作のDVDを観るとより楽しめると思います。
2014.1.28 取材&TEXT by Myson