インターネットで世界中のどこにでも誰にでも繋がる現代。そんな現代に生きる人々が、家族や友人、そしてインターネット上、そしてリアルでの人間関係に苦悩する様を描いたのが『ディス/コネクト』です。今回はこれまでドキュメンタリー映画を主に手掛け、今作でフィクション映画初監督を務めたヘンリー=アレックス・ルビン監督に電話インタビューを実施しました。監督はどんな思いで本作を撮ったのでしょうか。
PROFILE
これまではドキュメンタリー映画作家として制作活動を行い、ジェレミー・ワークマンと『Who is Henry Jaglom?』(1997/日本未公開)を監督、『フリースタイル:アート・オブ・ライム』(2005)を製作。2006年作品『マーダーボール』はダナ・アダム・シャピーロと共同で監督し、アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされた。またジェームズ・マンゴールドのもとで何本かセカンドユニットの監督を務めていた。カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバルでは14個のライオンを獲得するなど、広告業界で最も受賞歴のあるディレクターの1人でもある。本作が長編フィクション映画初監督となる。
2014年5月24日より全国公開
監督:ヘンリー=アレックス・ルビン
出演:ジェイソン・ベイトマン/ホープ・デイヴィス/フランク・グリロ/ポーラ・パットン/アンドレア・ライズブロー/アレキサンダー・スカルスガルド/マックス・シエリオット/ミカエル・ニクヴィスト/コリン・フォード/ジョナ・ボボ/ヘイリー・ラム/マーク・ジェイコブス
配給:クロックワークス
SNS上で見知らぬ人と悩みを分かち合うことが少なからず助けになっていた主婦や、ほんの遊び感覚で始めたSNS上のいたずらが相手を自殺未遂まで追いやることになった2人の少年、そしてネット上でポルノまがいの仕事をする少年たちの姿を報道したいと奔走する記者女性リポーターなど、彼らはインターネットがあれば世界中の誰とでも繋がる社会で、ある事件をきっかけに本当の繋がりとは何かを知っていく。
公式サイト 映画批評&デート向き映画判定
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マイソン:
監督ご自身は個人的な利用でSNSを使っていますか?この映画に関わる前、SNSに対して監督ご自身は肯定的、否定的、どちらでしたか?
ヘンリー=アレックス・ルビン監督:
使っています。インスタグラムとか、大好きですよ。毎日見るし、特にそんなに問題は感じていませんでした。テクノロジーに対してそういう問題を感じる必要はないんじゃないんかと思います。台風のなかで傘を持っているかのように、技術の革新は止められるものではないですから。
マイソン:
この映画に携わる前と後でSNSに対する印象や考え方は変わりましたか?
ヘンリー=アレックス・ルビン監督:
変わりません。オンライン上のアイデンティティというものをより認識しましたけどね。スノーデン事件でそういうことが明らかになったと思います。
※スノーデン事件とは
米国中央情報局(CIA)元職員のエドワード・スノーデン氏が、アメリカ国家安全保障局(NSA)が極秘に大手IT企業が提供するネットサービスのサーバーに直接アクセスするなどして大量の個人情報を収集していたと告発した事件。
マイソン:
この映画で描かれていることは私たちの身の回りで起きていてもおかしくない出来事ではありますが、資料によると、この映画で描かれているような状況と実生活で似た状況にある方に取材したとありました。実際にモデルとなった事件などはあったのでしょうか?彼らを取材して、新たに発見したこと、感じたことはありましたか?
ヘンリー=アレックス・ルビン監督:
僕が会った方々はそういう犯罪に関わった方ではありますが、脚本のもとになった方ではありません。今回は実際にそういう経験をされた方、イジメをされた方、した方、そういう犯罪にあった方、捜査している方、例えばFBIの方だったり、報道に関わっているリポーターの方、ネットの犯罪にあって口座のお金を全部引き出されて苦労されている方に会いました。取材は自分に知識を蓄えるためで、それによってディテールだったり、脚本に反映したりしました。例えば、怒りを銀行にぶつけるときの気持ちとか、警察にこんな犯罪に遭いましたと届け出るときにどんな手続きがいるのかとか、そういうことも僕は知りたかったんです。そうやってドキュメンタリーのような感覚をもたらすことができました。ニュージャージー、ニューヨーク、コネティカット州あたりの事件をメインにリサーチして、それによりリアルさを追究しました。ただサスペンスもので終わるのではなく、リアルさもあり感動でき、キャラクターも惹きつけられるような映画にしたいと思いました。特に今の“ジャンルもの”はキャラクターへの共感が描かれていないことが多いと思うので、この作品はプロットはワクワクドキドキという感じだけれど、何かエモーショナルなものをもっていて、キャラクターをしっかりと魅力的に立体的にリアルに描いたものにしたかったんです。
マイソン:
リアリティのある人間ドラマを映画化する上で、リアリティのなかにもエンターテイメント性が要求されるのではと思います。ドキュメンタリー映画も手掛けてきた監督ご自身は、フィクションのなかでリアリティを描くことについて何を重視しましたか?また、ドキュメンタリー映画にはない難しさを感じた点はありますか?
ヘンリー=アレックス・ルビン監督:
良い質問ですね。とにかくなるべくリアルな映画にするということが、僕にとって初めてのフィクション映画を作る上での挑戦でした。映画というのは映画館で観るとしても映画に入りきれないと「今、映画を観てるんだな」ということを途中で感じてしまうものですよね。今回の映画ではとにかくなるべく作品のなかではそういうことがないように、例えば音楽の使い方がうるさかったり、演技がリアルじゃないとか、信憑性がない物語の展開があったりということがないようにするのに苦労しつつ、心がけたところです。ドキュメンタリーはそれが起きないんです。ドキュメンタリーという認識で観ているので、そこで起きている事象を自然に受け入れてるんですよね。今回はフィクションだけれど娯楽性があるエモーショナルなスリラーにしつつ、なるべく作品自体から皆さんが乖離しないように作品を作ることが一番苦心したところです。
マイソン:
最後に:この映画で一番伝えたいこと、本作の見どころを一言お願いします。
ヘンリー=アレックス・ルビン監督:
観てくださった方が自分の人生について考えたりとか、今よりも幸せ、充実した人生を送れるように何かこの映画がきっかけになればと思います。映画の役割って、観ている方が“今自分がいる現実とは違う現実”を体験できたり、こういう見方もあるんだというのを与えられるものだと思います。密かな僕の思いはそういった人生観に繋がってくれれば良いなと思っています。浅いところでは、とにかく楽しんで欲しいし、何かハートをグッと掴む作品であれば嬉しいです。
2014.5.7 取材&TEXT by Myson