その人気から、テレビドラマや劇場版として第4弾に突入した“マメシバ”シリーズ。今回は主演の佐藤二朗さんと、その相棒を務めるワンちゃんの一郎くんを取材しました。一郎くんにはさすがに“お話”は聞けませんでしたが、佐藤さんにインタビュー中も部屋を駆け回り楽しそうな様子でした。ワンちゃんがただ“そこにいる”だけの状況はまさに本作に通じる状況でしたが、この前代未聞の動物映画とも言える本作に、佐藤さんはどんな思いで取り組んでいるのか聞いてみました。
PROFILE
1969年5月7日生まれ、愛知県出身。1996年に演劇ユニット「ちからわざ」を旗揚げし、全公演で作・出演を務めている。その後、多数のTVドラマや映画に出演するほか、『恋する日曜日』(2007/BS-TBS)、『家族八景 Nanase, Telepathy Girl’s Ballad』(2012/MBS・TBS)、『2013 新春特別企画〜だんらん〜』(KTV)などTVドラマの脚本を執筆。映画『memo』では監督、脚本を務めた。その他映画出演作は、『大洗にも星はふるなり』『はやぶさ/HAYABUSA』『アフロ田中』『コドモ警察』『HK/変態仮面』『俺はまだ本気出してないだけ』『男子高校生の日常』『JUDGE/ジャッジ』『神様のカルテ2』『薔薇色のブー子』『女子ーズ』など、幅広いジャンルの作品で活躍。
2014年9月20日より全国公開
監督:亀井亨
出演:佐藤二朗/煖エ洋/竹富聖花/菅原大吉/盛岡冷麺/篠田薫/朝倉伸二/佐藤貢三/田根楽子/宍戸開
配給:AMGエンタテインメント
公式サイト 映画批評&デート向き映画判定
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© 2014「幼獣マメシバ 望郷篇」製作委員会
マイソン:
映画もシリーズ化され、テレビドラマも放映されていますが、ここまで人気が出た理由は何だと思いますか?
佐藤二朗さん:
いくつかあると思うんですけど、この作品は動物が人の言葉をしゃべったり、さも人の気持ちがわかるような行動をとったり、動物が死んで涙を誘ったりすることも一切なくて、動物はただそこにいるだけなんですよね。それが一番リアルな人と動物の距離感で、そこを描いた作品って今まで無かったと思います。なぜ無かったかというと、地味だからなんですよね。わかりやすい感動は無いし、地味だから手がつけられなかった、誰も手をつけようとしなかったところなんですけど、そこに意外に多くの人が惹きつけられたというのが勝因の1つだと思います。あと、芝二郎のセリフに詩があるっていうのも結構大事なことで、そこも魅力かな。3作目まではゆるくてかわいくて脱力系の作品ですって言ってたんですけど、4作目からはそれだけじゃないってことをちゃんと伝えていきたいなと思っています。芝二郎が35歳のときからシリーズが始まって、この4作目で40歳なんですけど、いい年のおやじが自分を半歩でも成長させるために、人として生き抜くために、歯茎から血が滲むほど歯を食いしばって必死で闘う壮絶な物語なんです。これは僕が言うまでもなく観ている人はとうの昔に気付いていて、芝二郎の成長をドキドキハラハラしながら見守ってくださっているのだと思います。そういうちょっと興味が湧くキャラクターというのも人気の一つだと思います。
マイソン:
今回変化を好む人と、変化しないことにも美徳があると考える人の対比が描かれていましたが、二郎はニートだけど成長しようと奮闘しているだけあって、言葉により説得力がありました。一方でとても癖があっておもしろいキャラクターですが、笑いのセンスというか、言葉のセンスというか、すごくおもしろくて、アドリブなのか最初から台本にあるのかお聞きしたかったんですが。
佐藤二朗さん:
永森裕二という方が書いてるんですけど、最初に永森さんがテレビや映画で僕を観ていて良い俳優だなと思ってくれたみたいで、何とかこの俳優さんのパフォーマンスを最大限活かした作品を作れないかということで、このキャラクターは完全に僕にあて書きなんです。名前も「ろう」の漢字は違いますけど、“二郎”で。「もし佐藤二朗さんがダメだったらこの企画自体ナシだな」というくらいの思い入れで書いて僕に持ってきてくれた作品です。実際おもしろいし、僕は永森さんのセンスを100%信用しています。そういうのも4作続いている要因じゃないですかね。
マイソン:
自分はあそこまで引きこもることはないけれど、いきなり何かが怖くなって今までできていたことができなくなるという感覚は、今回べーちゃんというキャラクターを観ていて私も身近なことに感じました。
佐藤二朗さん:
役作りもそうだし、物語もそうなんですが、まるごとじゃなくても良いから薄くでも共感できることが大事で、それができないと観ている人は速攻でつまんないと思っちゃうんですよね。例えば芝二郎みたいな、こんなに偏屈な人は僕の身の回りにはいないですけど、「どこかにいるかも」とか、「今までこういう人見たことがあるかも」と思わせる何かが大切だと思います。
マイソン:
佐藤さんが本作以外の作品も含めこれまで演じてこられた役は、結構インパクトのあるキャラクターが多かったように思うのですが、癖が強いキャラクターを演じる上でのこだわりや気を付けていることはありますか?
佐藤二朗さん:
その役に癖があろうがなかろうが、僕は役者をやる上で、「こんな人、いるかも」っていう「かも」っていうのを大事にしていますね。観ている人が「こんな人、絶対いないよ」って思った時点でマッハの速度で引かれちゃうので、「もしかしたらこんな人ってどこかにいるかも」って想像してもらえるようにと思っています。
マイソン:
ちょっと本作からずれちゃうんですが、『女子―ズ』みたいな、設定が非現実の場合はどうですか?
佐藤二朗さん:
そうなると話は違ってきて、『女子―ズ』のチャールズなんてどこにもいないし、皆さんもそれをわかって観ているので、そこは「かも」なんてところは狙ってないですね。福田雄一監督は放送作家出身で、笑いに関してものすごく真摯に真剣に考えているので、福田雄一に飽きられないように1ミリでも2ミリでもおもしろいことを狙っていくという姿勢でやっています。
マイソン:
じゃあリアルな世界の話と、そうじゃない話を完全に分けてやっているということなんですね。
佐藤二朗さん:
そう、僕は両方とも好きですよ。マイソン:
動物と共演するメリット、デメリットはありますか?
佐藤二朗さん:
動物は不確定要素が高いというか、不確定要素の塊で、本番でいきなり何をするかわからないから、役者の芝居を崩してくる存在です。1作目のときは「言う事聞いてくれよ」って思う時もあったんですけど、シリーズを重ねるごとに動物作品をやる醍醐味ってむしろこういうところだろうからそれを楽しもうと思うようになりました。具体例で言うと、一息で言いたいセリフのときに、その前からずっと一郎が足の裏を舐めてたんです。だからセリフの途中で「一郎、こそばゆい」って言った後、またセリフに戻ったんです。そういう不確定要素を楽しむ、逆に利用するというのが役者としての醍醐味で、動物と共演するときの楽しみですね。
マイソン:
デメリットはありますか?
佐藤二朗さん:
デメリットはないんじゃないかな。そこを楽しめれば。
マイソン:
では最後に本作の見どころをお願いします。
佐藤二朗さん:
犬好きな女性にも観てもらいたいんですけど、あまりに犬好きの人が観たらちょっとがっかりしちゃうかも知れない、犬はそんなに活躍しないし、いるだけなので(笑)。でも、それが人と犬とのほんとの距離感だと思います。ちょっと想像したらたどり着ける、他の映画にはない感動が待っているので、皆さんそれぞれ想像して、大概ウジウジしているのは男なんだけど、「ウジウジしてるな、バカだな、かわいいな」と思って観て頂けたらと思います。
2014.9.5 取材&TEXT by Myson