今回はホラー漫画の巨匠であり、77歳(制作当時)にして映画初監督を務めた楳図かずお監督にインタビューをさせて頂きました。監督御自身は小さい頃からこれまでもお化けを見たことは一度もないそうですが、「怖い話っていうのはすごくおもしろいなと思って、僕はこの路線でやっていくぞ」ということで、ホラー漫画を描き始めたそうです。そんなホラー漫画の巨匠が作ったホラー映画には、どんな思いが詰まっているのでしょうか。
PROFILE
1936年9月3日和歌山県生まれの奈良県育ち。1955年、18歳のとき「森の兄妹」でプロデビューし、1966年、講談社の「少女フレンド」に連載された「ねこ目の少女」「へび少女」で恐怖漫画の第一人者として知られるようになった。その後、「少年画報」にて連載の「猫目小僧」(1967年)は、1976年にTVアニメ化、1975年には「漂流教室」ほか一連の作品で小学館漫画賞を受賞。続いて1976年に発表した「まことちゃん」のシュールなギャグが大ブレイクし、“グワシ”ポーズが社会現象となった。その後も「おろち」「わたしは真悟」「14歳」など独創的な作品を次々と発表し、その多くが映像化されている。さらに音楽活動も行っており、1975年にLP「闇のアルバム」、2011年にセカンドアルバム「闇のアルバム2」をリリースし、タレント、音楽家としても活躍中。
2014年9月27日より全国公開
監督:楳図かずお
出演:片岡愛之助/舞羽美海/真行寺君枝
配給:松竹
公式サイト 映画批評&デート向き映画判定
イイ男セレクション:片岡愛之助
©「マザー」製作委員会
マイソン:
映画を作ろうと思った理由というか、漫画から表現方法を変えようと思った理由は何ですか?
楳図監督:
変えようと思った理由というか、漫画を描いているときから、やっぱり目指す頂点は映画しかないなと僕は自然に思っていました。
マイソン:
お若いときからそういうお考えはあったんですか?
楳図監督:
そうですね。若いときからありましたね。
マイソン:
漫画を描かれるとき、頭のなかで描くイメージは、映像っぽく出るんですか?それともキャラクターイメージがパッと浮かんで後からストーリーを作っていくんでしょうか?これまで描かれてきた漫画の世界観もすごいので(笑)。
楳図監督:
映画の場合は役者がいて、特にホラーの場合は特殊なキャラクターが出てきて、今回で言うと真行寺さんが演じた母、つまり平らに言ったらお化けですね。漫画の場合、例えば「猫目小僧」だったら、最初に考えていた猫目小僧とは違う形で出来上がっていくんです。週刊3本、月刊3本っていうペースでめちゃくちゃ忙しくて考えている間なんかなくて。紙の上に鉛筆を持って何にしようかなって考えているうちに、手がブレたりして線がちょっと入ったりすると、その入った線からイメージを起こしちゃって、だんだんお化けができあがっていく…という感じで、瞬間的な反射でいろいろなお化けを考えているんです。メインのお化けってなると、理屈をつけて考えてはいるんですけどね。
マイソン:
じゃあ考えているというよりも涌き出してくるという感じですか?
楳図監督:
はい、湧き出すのに頼らないことには時間の制限に打ち勝っていけませんから。でも映画の場合は、現場に行ったら考えていたのと全然違ったりするので、臨機応変にその場の直感を大事にしています。
マイソン:
今回、監督御自身が持つイメージを、スタッフさんたちと共有する上で、どこが一番大変でしたか?絵コンテを見せたりすることもありましたか?
楳図監督:
絵コンテは描きました。特に美術さんが素晴らしく、言うより先にできちゃっているのもあって、大変というよりビックリしちゃって、楽しんじゃいました。
マイソン:
出てきたモノのイメージがちょっと違うなって思ったところはありましたか?
楳図監督:
そういうところって結構強調されて出てくるので、まあ良いかという感じでした。物足りないのは寂しいけど、そうではなかったので。
マイソン:
皆さん、思い切ってやっていらっしゃったんですね。
楳図監督:
思い切ってやってくださっている感じがありますね。(セットの)教室に入ったら本当に蜘蛛と顔だらけだったり(笑)。マイソン:
Tシャツや、お父さんとお母さんのお皿とか、色に意味を持たれているのかなと思ったんですが、トレードマークの赤と白のボーダーには何か意味があるのでしょうか?
楳図監督:
色にはしっかり意味を持っています。赤には情熱とか生命感みたいなもの、白は「何もありません」という、そういうシグナルなんです。
マイソン:
お皿のイメージもお父さんのイメージとお母さんのイメージをリンクさせてお皿の色にしているんですか?
楳図監督:
全然そんなつもりで飾っていたんじゃないんですけど(笑)、あの家の中は赤と緑が多いので自然に赤と緑のお皿が飾ってあったのですが、父親、母親、先祖のこととかを考えながらお供えしようと思ったら、あのお皿の前に置くようになって、いつの間にか赤が母親で緑が父親という風になっていったんです。
マイソン:
いろいろと色を付けたりするときは、何かインスピレーションがあるんですか?
楳図監督:
そうですね。赤、緑、黄、黒、白というのは、ホラーには欠かせない色なんです。赤ってやっぱり血の色だし、緑とか紫とかちょっと怖い感じを出すときにどうしても使う色なんです。青もそうですけどね。別にホラーだからじゃなくて、普通の楽しいときだってちゃんと成り立つので、勝手に理屈で合わせているだけなんですけど、赤は生命感、緑は自然、黄は光や時間、黒はいっぱいありますっていうイメージです。すごく大事な宇宙の成り立ちみたいなものをこの5色で表現しているというと一番わかりやすいと思います。
マイソン:
今回の作品もそうですが、ホラーだけどちょっとおもしろくも見えるというか…。
楳図監督:
おもしろいところもありますよね。ホラーではありますが、ホラーだけじゃないノリがあって、暗くはないと思うんです。
マイソン
怖いなかにもユーモアがある部分は、楳図先生のこれまでの漫画の世界観と通じているように感じました。怖い絵は怖がらせようと思って描いていらっしゃるんですか?
楳図監督:
怖い絵っていうのは描いていてすっごく楽しいんです。あり得ない絵って、描いていてつい夢中になってしまうんですよね。映画の場合も同じだと思います。今回の映画は陰気じゃなくて、怖いけど暗い映画にはなっていないので、観て後味が悪かったという風にはならないと思います。でも深く考えさせられる部分はたくさんあって、例えば、人間って亡くなるときに過去の嫌なことを引きずったまま逝ってしまうものなのか、それともそういうものは最後に上手く切り替えて処理するようになっているんだろうかとか。「亡くなっていくその瞬間」が今回のテーマで、たぶん自分自身で良いようにすり替えてしまうやり方もあるのかなと、僕はそこに一番興味があるんですけどね。昔は、地獄に堕ちてえんま様がいて、悪いことをしたり嘘をつくと舌を抜かれるっていう締めくくり方があったと思うんですけど、今はそういうのはなくて、何か人間って、嫌な人生を嫌なままで終わらないようにする方法を持っているんじゃないかなって思うんです。超心理的というか、宗教的というか、そこのところを今回の作品で一番言いたかったんです。あともう一つは、怖いけどキレイというところを追求しました。汚くて怖いは最初から作るつもりはなくて、キレイだけど怖いにどうやったら持っていけるかなっていう努力をしました。
マイソン:
ありがとうございます。では最後に映画好きの女子に向けて見どころを御願いします。
楳図監督:
ホラーが嫌いって言っている方にも観て頂きたいです。そういう方に、ホラーってちゃんと奥行きがあってドラマなんだとわかって頂きたいなと思います。題材がお母さんなので、若い女性の方は、今の自分がこの先どんな風になれば良いのかっていう目線で観て頂ければと思います。
2014.9.5 取材&TEXT by Myson