ガンで声を失った韓国人天才オペラ歌手の実話をもとに映画化した本作で、彼を信じて支えた日本人音楽プロデューサー、沢田幸司役を演じた伊勢谷友介さんにインタビュー。今回の役柄と同じように、御自身も会社を経営していらっしゃる伊勢谷さんに、俳優として、経営者としてのお話をお聞きしましたが、とても熱く語ってくださり、伊勢谷さんのお仕事、社会貢献に対する強い信念を感じました。
PROFILE
1976年5月29日、東京生まれ。東京藝術大学でデザインを学ぶかたわら、モデルとしてキャリアをスタートし、1998年『ワンダフルライフ』で映画デビュー。その後数々の作品に出演し、2011年『あしたのジョー』力石徹役で日本アカデミー賞優秀男優賞を受賞。主な出演作は『金髪の草原』『CASSHERN』『雪に願うこと』『図鑑に載っていない虫』『ブラインドネス』『十三人の刺客』『カイジ2』『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』など。今後は『ジョーカー・ゲーム』『新宿スワン』『天の茶助』が公開を控えており(2014年10月10日現在)、2015年のNHK大河ドラマ『花燃ゆ』に吉田松陰役で出演も決定している。また映画監督としても活躍中で、2003年『カクト』、2013年『セイジ−陸の魚−』を手掛けた。
一方、2009年に株式会社リバースプロジェクトを設立し、地球環境や社会問題を考える様々なプロジェクトを始動。その一環として東日本大震災の復興支援などにも積極的に携わっている。
右上写真:ヘアメイク:ShinYa (PRIMAL) スタイリスト:葛西信博(REBIRTH PROJECT)
2014年10月11日より全国公開
監督:キム・サンマン
出演:ユ・ジテ/伊勢谷友介/チャ・イェリョン/北乃きい/ナターシャ・タプスコビッチ/ティツィアーナ・ドゥカーティ
配給:『ザ・テノール 真実の物語』プロジェクト
公式サイト 映画批評&デート向き映画判定 イイ男セレクション/伊勢谷友介
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マイソン:
今回演じられた沢田幸司は組織やプロジェクトを引っ張るリーダーとして夢を持たなければいけない部分と、現実を見極めて判断する部分と両方が求められる立場で、さらにその運命を他の人(歌手ベー・チェチョル)に託すという余計に難しい立場でした。俳優もやり、リバースプロジェクトではCEOも務めていらっしゃる伊勢谷さんは、初めてこの脚本を読んだときどの部分に一番惹かれましたか?
伊勢谷さん:
個人の繋がりが世界の国家間の混沌を変えていくというのが、僕の理想です。本作に関しては、輪嶋さん(沢田幸司のモデルとなった人物)とベー・チェチョルさんが繋がったように、今度は韓国の俳優と日本の俳優がその旗振りになることができる映画になるというのが一番最初に感じたことです。この映画のなかで、沢田は彼らの立場で何を志にして何のためにその職業があるのかっていうのをぶれずに持ち続けました。もちろん会社の経営状態っていう問題もあるんですけど、それだけに引っ張られて会社を回していると、本質を見誤ることになると思うんですよね。お金に踊らされているってことは、道具に踊らされているってことで、お金のために、つまり道具のために働くってことは、人として愚かな事だと思います。僕の会社も、株式会社ごと現代美術だと思っていて、それが純然たる志の集合地じゃなきゃいけなくて、株式会社でありつつ利益中心ではなく志中心の会社ということが、現代においてとても必要な会社の本質だと思います。志のために動くから人間は人間たる所以だと僕は思うので、そういう役を演じさせて頂いたんだなと思います。
マイソン:
今回、べーさんの喉が治るかどうかというところでわずかな可能性にかけるというお話でしたが、伊勢谷さんはそういう可能性は信じるほうですか?
伊勢谷さん:
この作品においては、治るかどうかではなく、人の思いを受けて、主人公が復帰したいと思いその方向に向かっていったということの方が重要だと思うんです。彼が元のすごく良い声には戻れないっていう現実を背負って、なおかつ完璧主義者だった彼が、完璧じゃない自分を人に見せるっていうのは、彼のなかで相当なイノベーションが起きたんだと思います。声が出なくなった時点で既に挫折しているんですけど、それを挫折じゃないと捉えられるのはやっぱり人間ならではだと僕は思います。
マイソン:
少しお話がずれちゃうんですが、日本人は愛国心が薄いと一部で言われていますが、その辺は海外、日本の両方でお仕事をされる上で考えたり、感じたりすることはありますか?
伊勢谷さん:
愛国心があってもなくてもどっちでも良いかなと思います。愛国心を持とうって叫んで一元的にそっちだけが正しいって言っていること自体、もっともっと引いて宇宙人の目線で見たときに、結局国家間の問題解決にはならないんですよね。人類の一部だと思って日本ができることに変えなきゃいけない。愛国心を持つ事によって人類の未来にプラスになるなら良いですが、逆に他の国と肩を並べる事を意識して敵対心に代わってしまうような愛国心を持ってしまうと、むしろ逆方向って気もします。自分の国だけを守るんじゃなくて、相手の国も守る、そこを日本人としてのプライドとしているほうが、愛国心の意味がもっともっとあると思います。
マイソン:
なるほど〜。では映画好き女子に向けて見どころを御願いします。
伊勢谷さん:
今ちょうど自分が(2015年放送予定のNHK大河ドラマ『花燃ゆ』で)吉田松陰の役をやっているんですけども、「至誠にして動かざるは未だこれ有らざるなり」という言葉があるんです。真心を込めて人と接すれば動かないものはないということなんですけど、この作品でもそこを観て頂ければと思います。あともう一つ、「知行合一」という言葉があります。知ってることと行うことは、同じ一つのこと、合わせて一つのことにしなければいけないということなんです。知っていて行動しないのは、知らないのと同じことなんです。
マイソン:
深いですね〜。
伊勢谷さん:
深いですけど、当たり前のことなんです(笑)。
2014.8.14 取材&TEXT by Myson