長年、世界中で愛されてきた名作「美女と野獣」。でも、これまで映画やミュージカルで語られてきたストーリーは、原作の一部に過ぎませんでした。今回、これまで描かれてこなかった部分も物語に取り込んで映画化したクリストフ・ガンズ監督にインタビュー。監督がどうしても描きたかった野獣の謎や、ベルの背景について、そのこだわりとは?
PROFILE
1960年、フランスのアルプ=マリティーム生まれ。10代から8ミリで自主制作を始め、パリの権威ある映画学校IDHECで学ぶ。1981年、イタリアのマリオ・バーヴァ監督にオマージュを捧げた短編『Silver Slime』を監督し、80年代初期に映画雑誌を創刊、批評家としても活動する。1993年、オムニバス映画『ネクロミカン』で1話を担当、劇場映画監督デビューを果たし、1996年には日本のコミックを映画化した日仏合作『クライング・フリーマン』を手掛けた。その後、ヴァンサン・カッセル、モニカ・ベルッチ出演の『ジェヴォーダンの獣』(2001)で注目を浴び、2006年『サイレントヒル』を監督。
2014年11月1日より全国公開
監督:クリストフ・ガンズ
出演:レア・セドゥ/ヴァンサン・カッセル/アンドレ・デュソリエ
配給:ギャガ
大きな城が立つ敷地へ迷い込んでしまったベルの父は、バラを一輪盗んだことで、城の主である野獣に命を差し出せと言われる。ベルは父の身代わりに、野獣の城に向かい、囚われの身になるが、野獣はベルに豪華で美しいドレスを用意し、ディナーを共にすることしか要求しない。やがてベルは野獣の恐ろしい姿の奥に潜む一面に気付き始め…。なぜ、彼は野獣になってしまったのか、その謎が解き明かされる。
公式サイト 映画批評&デート向き映画判定
レア・セドゥ&クリストフ・ガンズ監督来日会見リポート
イイ男セレクション:ヴァンサン・カッセル
©2014 ESKWAD – PATHÉ PRODUCTION – TF1 FILMS PRODUCTION ACHTE / NEUNTE / ZWÖLFTE / ACHTZEHNTE BABELSBERG FILM GMBH – 120 FILMS
マイソン:
本作は、ヴィルヌーヴ夫人版の原作をベースにしていて、一般的にあまり知られていないストーリーの奥の部分も描かれていて、新鮮で楽しめました。そこまで今回描こうとした一番の目的を教えてください。
クリストフ・ガンズ監督:
『美女と野獣』の映画と言えば、私は8歳のときに、有名なジャン・コクトー監督の作品を観たのですが、ものすごく印象に残っていて、そのときからジャン・コクトーのこの作品を敬愛しています。でもそのときものすごく素晴らしい印象と同時に、フラストレーションも残りました。王子がなぜあんな呪いをかけられ野獣になったのかが全く描かれていなかったんです。そういった欠けている部分がすごく気になり、原作に立ち戻っていろいろ研究してみました。原作を読むと、いろいろな意味や解釈があって、深いものがいっぱい組み込まれていることがわかり、自分は今まで描かれていなかった部分を今回描きたいと思いました。また、コクトーの『美女と野獣』では、ベルよりも野獣(王子)に比重が置かれていましたが、私は敢えてベルを主人公にして、ベルの視点から描いています。ある意味ジャン・コクトー版の『美女と野獣』と、今回の私の『美女と野獣』は、補完的な関係だと思います。
ディズニー作品やコクトーも、悪い妖精が王子を野獣に変えてしてしまって、王子は可哀想といった感じで描かれていることに、監督は原作を読むなどして「これはおかしいぞ、不公平だ」と思ったそうです。王子が呪われて野獣になってしまったのには理由があり、絶対に罪と言えるものがあって、その罰を受けた王子が野獣の顔になりながらも人間性を取り戻していく部分がすごく重要だと考え、本作に取り込んだとのこと。またタイトルに秘められた魅力も、本作を作ろうと思った理由の一つだと話してくれました。
クリストフ・ガンズ監督:
『美女と野獣』のフランス語の原題は “La Belle et La Bete”で、“et”は、“and”と“is”の意味の両方があり、“Belle”は美しいという意味もあるので、「獣の顔をしているけど、心の気高さから美しい」とか、「ベルは獣だ」とか、『美女と野獣(La Belle et La Bete)』という2語がものすごく意味深く、タイトル自体もおもしろいと思って、今回この作品を手掛けました。ディズニーの『美女と野獣』ではまるっきりそれが抜けていて、単純明快なラブストーリーで形式ばった良い子ちゃん物語みたいになっていますが、自分は原作に忠実な『美女と野獣』を描きたいと思いました。
マイソン:
『ジェヴォーダンの獣』『サイレントヒル』など、劇中で描かれる醜いものにもすごく好奇心がわくというか、監督がこれまで描かれてきたダークファンタジーがすごく好きです。監督ご自身はファンタジーのなかにダークな部分が入ることによって何が魅力的になると考えますか?
クリストフ・ガンズ監督:
ダークなものを撮るには、希望とか光が自分のなかにないといけないと思いますし、逆に光に向かっていくようなものには自分のなかにダークなものがあると思うので、両方逆の要素というのが必要です。両方補完的に、光を持ってダークなものを描くのと、ダークな心を持って光を描くのと、それは自分のなかで同じことだと思っています。だから今回の『美女と野獣』のなかでも、色とか光の使い方にはすごくこだわりましたし、自分が子どものときに最初にこのストーリーを聞いたときに思い描いたような色や光を散りばめています。同時に、現在大人になって、この話には実はものすごく深い意味合いがたくさん隠されていると感じとれたので、子どもも大人もそれぞれに楽しめる作品にするということがすごく大きなポイントでした。そういった点ではこういうおとぎ話を扱うのはすごくやりやすかったです。
この映画のなかにはかなり象徴的に描かれているものがたくさんあって、例えば、ベルは最初少女でだんだん大人の女性になっていくんですが、ベルが馬に乗って森のなかを駆けて抜けて行き、最後に白いリボンが飛んでいくシーンは、処女性の喪失を描いているんです。大人ならそういった隠された意味合いがわかるかも知れないし、子どもは子どもでアクション的にあのシーンをおもしろいと思えるだろうし、隣に大人がいようが子どもがいようが、お互いに気まずくならずに楽しめるよう、いろんな描き方を散りばめていて、実は意味がたくさんあるんです。今回この映画を作るにあたって、「彼はダークフェアリーテイルにしようとしている」って言われたのがすごく可笑しくて。フェアリーテイルをダークにするんじゃなくて、おとぎ話にはもともとダークな部分があり、その隠されたダークな部分を自分は描いているだけなんです。
聞いたところによると、監督は日本文化が大好きで、日本人顔負けなくらい知識が豊富なようです。監督自身が語っていましたが、「日本とフランスは封建時代を経験したり同じような歴史を持っているし、本作には宮崎駿監督の『となりのトトロ』や『もののけ姫』にも描かれているような、日本、フランスに共通するテーマも描かれているので、日本のお客様にも観て楽しんでもらえる作品です」とのこと。私が「トーキョー女子映画部です」と自己紹介した際にも、「『美女と野獣』は女性に受ける作品ですし、そのために作られています」とおっしゃっていたので、女子の皆さんはぜひご覧ください!
2014.9.4 取材&TEXT by Myson