1912年のドイツを舞台に禁じられた恋愛を描いた本作。この度、静かにそして激しくぶつかりあう感情を見事に描いたパトリス・ルコント監督にインタビューさせて頂きました。最初の観客という立場で自らカメラを回し、監督曰く、俳優と“1インチ”の距離で感情を引き出し描いた本作。監督の作風から物静かな方なのかと思っていたら、とてもチャーミングで楽しそうに語ってくださいました。お話が多岐に渡ったので、今回はコメントをテーマ毎にまとめてご紹介します。
PROFILE
1947年11月12日、フランスのパリ生まれ。1967年にIDHEC(フランスの高等映画学校)監督科に入学し、短編を数本手掛ける。卒業後は漫画雑誌“pilote”のアシスタントを経て、漫画家、イラストレーターとして活躍。1975年に、劇団スプレンディドの舞台をジャン・ロシュフォールとコリーシュの共演で映画化した作品で長編映画監督デビュー。これを機にスプレンディドの俳優を起用した作品を次々と手掛け、『レ・ブロンゼ〜日焼けした連中』『恋の邪魔者』『夢見るシングルス』などヒットを連発。さらに1985年にアクション大作『スペシャリスト』、翌年『タンデム』を発表し、商業監督としてフランス国内の人気を確立させた。そして1989年に『仕立屋の恋』がカンヌ国際映画祭コンペティション部門で出品され、国外でも知られるように。その他の監督作は、『髪結いの亭主』『タンゴ』『イヴォンヌの香り』『リディキュール』『ハーフ・ア・チャンス』『橋の上の娘』『サン・ピエールの生命』『フェリックスとローラ』『歓楽通り』『列車に乗った男』『親密すぎるうちあけ話』『ぼくの大切なともだち』『スーサイド・ショップ』など。
2014年12月20日より全国公開
監督:パトリス・ルコント
出演:レベッカ・ホール/アラン・リックマン/リチャード・マッデン
配給:コムストック・グループ
1912年、初老の実業家カール・ホフマイスターの秘書として、彼の家に住むことになった青年フリドリックは、カールの若妻シャーロットに強く惹かれていく。同じくシャーロットもフリドリックに惹かれていくが、触れあうことはもちろん、愛を口にすることも出来ない2人は、お互いの胸のうちで思いを募らせていく。だが突然フリドリックが南米へ転勤することになり、2人はお互いに思いを告げ、フリドリックが帰国するまでの2年間、変わらぬ愛を誓うが、第一次世界大戦勃発により、2人の運命はより大きな困難を迎えることに。
公式サイト 映画批評&デート向き映画判定
イイ男セレクション/リチャード・マッデン(1/5UP)
イイ男セレクション/アラン・リックマン(1/5UP)
© 2014 FIDELITE FILMS – WILD BUNCH – SCOPE PICTURES
(この映画を撮る上で、簡単にメイク・ラブができてしまうこの時代の人々を)諭す気持ちはありました。人生においても、この作品においても、欲望をすぐに消費するんじゃなくてできるだけ持続するということに重きを置いているというか、快感を感じています。僕自身は懐古主義者ではないですが、欲望を持続させるというのは決して時代遅れだと思っていません。もちろん、時代背景はかなり正確に描写していますが、人物の感情は今の時代にも通用する感情だと思っています。秘めたる恋ほど素晴らしいものはないですよね。
たしかに2人の気持ちが高まったのは、禁じられた愛だからこそです。本当は奥さんに恋をする権利なんてないので、彼には秘めたる恋しか道はないわけです。彼は彼女のことで頭がいっぱいで本当に恋をしているんですが、彼にとって衝撃なのは、まさか手が届かないと思っていた彼女も自分のことを同じように思っているということです。彼が自分の思いを抑制すればするほど、彼の思いはどんどん高まっていったでしょうね。
恋をしている男女の欲望がどんどんと高まっていくのを撮るというのは、とても濃密で自分の心を動かすし、すごく映画的だと思うんです。感情が強ければ強いほど、それをスクリーンで映像化したい思いが自分のなかで強くなっていくんです。それが成功するかどうかなんて100%確信できないまま撮影を始めるんですがね。でもある日すごく誇りに思ったことがあります。名前は言いませんが、有名な監督で友人なのですが、彼を『髪結いの亭主』の試写会に呼んだんです。上映が終わって彼の姿が見えないので探したら、隅の方で涙を流していました。「それほどこの映画に感動したのかい?」と聞いたら、「君の映画を観て、僕は充分に妻を愛していない、まだ愛し足りていないと気がついた」と言いました。もしそういう風に思ってくれる人が1人でもいるなら、僕はこの映画を撮ったのはムダじゃないなと思いました。
キャスティングにおいては、時代劇に合うか、ロマン主義の感情を出せる俳優かどうかが大事でした。映画そのものもモダンさを持っていると思うので、彼らが演じる人物を通して、現代に生きている人間にバイブレーションが伝わってくるような作品にしたいと思いました。毎朝、撮影ですごく興味深いエクササイズをしていたんです。早朝に役者が来ると、最初は現代の格好のまま、1回演技をしてもらうんです。それは見ていてすごくおもしろかったです。Tシャツとかテニスシューズとかで演じてもらうんですが、現代の衣装でやってみてそのシーンがうまく表現されていると思えば、それはどんな服を着ていても我々現代の人間に通じるということですから、時代と合う衣装を着させても通じるということです。今回初めてこのエクササイズが有益だと思いました。
僕自身ドキッとしたシーンはいくつかありますが、感動してドキドキしたのは、アラン・リックマンが演じるカールがもうすぐこの世を去ろうというときに、ベッドでかすかな声で妻にある告白をするところです。最後の一息で素晴らしい告白をするのですが、あまりにも感動したので1テイクしか撮りませんでした。2テイク目は必要ないくらいに素晴らしかった。僕自身が最初の観客になるわけで、それは特権です。俳優がそれほど強いものを差し出してくれたとき、監督としても衝撃が強いんです。もちろんシーンのシチュエーション自体もとても感動するのですが、アラン・リックマンという俳優が、僕にそれだけ1回のテイクで良いと思わせてくれることに感動するわけです。彼は気まぐれで気難しいという噂を聞いていたけれど、一緒に仕事をしてみて、どうしてそういう評判がたつんだろうと理解できません。チャーミングだし、すごく思いやりもあって、いつも全幅の信頼を寄せてくれる。ちょっとアドバイスや違うことを頼んでも聞き入れてくれて柔軟性もある。アラン・リックマンに限らず、レベッカ・ホール、リチャード・マッデンも、イギリスの俳優特有の、役柄に対する感受性、センス、インテリジェンス、そういう理解力がすごく深いんです。どういう風に役作りをしていくかちゃんと考えて演じているんです。
2014.12.4 取材&TEXT by Myson