マリオン・コティヤールが第87回アカデミー賞®主演女優賞にノミネートされた本作。有名な俳優を起用することが少ないダルデンヌ兄弟からオファーがきたことにマリオン自身も驚き、「絶対的な幸福」と語っていますが、今回兄弟揃って来日されたので、インタビューをさせて頂きました。年齢を重ねてもこんなに兄弟で仲が良いんだなあと感じるほど仲睦まじいお2人。今回の作品はどんな思いで作られたのか聞いてみました。
PROFILE
ジャン=ピエール(写真右)&リュック(写真左)・ダルデンヌ
ベルギーのリエージュ近郊で生まれた兄弟。兄ジャン=ピエールは1951年4月21日生まれ、弟リュックは1954年3月10日生まれ。ジャン=ピエールは舞台演出家を目指してブリュッセルへ移り、そこで演劇界、映画界で活躍していたアルマン・ガッティと出会う。その後2人は彼の下で暮らすようになり、芸術、政治の面で多大な影響を受け、映画製作を手伝う。1974年からドキュメンタリー映画を手掛け、1975年にはドキュメンタリー製作会社「Derives」を設立し、1978年に初のドキュメンタリー映画“Le Chant du Rossignol”を手掛けた。1986年、初の長編劇映画『ファルシュ』を監督し、ベルリンやカンヌ映画祭に出品される。その後の作品ではカンヌ映画祭ほか多くの賞を獲得し、第8作目となる2011年の『少年と自転車』では、2011年カンヌ映画祭のグランプリを受賞、史上初5作連続主要賞受賞の快挙を成し遂げた。ほか監督作は『イゴールの約束』『ロゼッタ』『息子のまなざし』『ある子供』『ロルナの祈り』など。
マイソン:
サンドラの行動はとても勇気があり、賛成する同僚も断る同僚も勇気があると思いました。本作では、どんな人間性をより浮き彫りにしたいと考えましたか?
リュック・ダルデンヌ監督:
始め彼女は、同僚に会いに行ったほうが良いと言われても「会いに行っても無駄。人は変わらない」と言って人間の本質に対して悲観的でした。そういう気持ちしか持っておらず、全く信頼をしていませんでした。けれども夫や周囲の人たちのおかげで、人は意見を変えることができる、より人間的になれる、より開かれた存在になり連帯することができる、利他的になれるということに気付くわけです。一言で言うと寛大さということでしょうか。周りの人が変われるということに気付いたからこそ、彼女自身も変わることができたのです。そういう人間の寛大さが勝利するんだというところ、そうした部分を見せたかったんです。
マイソン:
有名な俳優をあまり使わないとのことですが、経験値の高い俳優を起用するメリットとデメリットをどう考えていますか?
リュック・ダルデンヌ監督:
全く知らないアマチュアの俳優を使ったとしても、各俳優にメリット、デメリットがあると思います。知られていない俳優を撮影するときは、初めてその人を撮影するという喜びがあります。それは楽しいし、美しいことです。でもアマチュアであっても実人生で自分に対して持っているイメージがあります。だから実人生で持っている自分のイメージをまず壊して、そこから自由にしてあげなければなりません。その過程がリハーサルです。既に知られている有名な俳優でも全く同じアプローチをします。有名な俳優の場合はイメージの虜になっているけれど、そのイメージは今まで出演した他の映画だとか、俳優としての技術、才能からきています。それを、ごくシンプルにそこ(物語の世界)にそういう人として存在するんだというところまで消していかなければなりません。なぜならプロは技術でいくつか隠すことができますが、私たちはそういう技術を望みません。ですからカメラの前で真っ裸にならなければいけなんだということを言います。マリオン・コティヤールの場合、彼女は有名なだけでなく偉大な女優です。ものすごい努力家です。彼女はこの作品、そして共演者に多くをもたらしてくれました。いつもより良いものを探していて、提案もしてきますし、自分のしたことに対して批判をすることができる人です。知られていない俳優のなかにもそういうことができる人もいます。でも恐らく有名な俳優のなかでこんなに努力をする人は珍しいでしょう。私たちが使っているプロの俳優たちはオリヴィエ・グルメ(本作出演)にしても、ジェレミー・レニエ(監督の過去作『ある子供』『イゴールの約束』『少年と自転車』に出演)にしても、皆そういう努力をする人たちです。ですから彼らはいろいろなことを試してリハーサルをして、またやり直す、そういうことを厭わないんです。「もうテイクを5回したからこれでいいでしょ」と言うような俳優とは仕事をしたくはありません。
マイソン:
お2人の作品はいつも人間描写がとてもリアルなので、普段から人間ウォッチングをされているのかなと思うんですが、来日されて日本人を見ていておもしろいと思う特徴などがあったら教えてください。
ジャン=ピエール・ダルデンヌ監督:
あるけど言いたくない(笑)。
マイソン:
ハハハハ、そこを何とか!
ジャン=ピエール・ダルデンヌ監督:
日本人を特殊だと思うのは、例えば誰かと初めて会うとき、その出会いがとても儀式的になっているということです。つまり距離感があって、お辞儀はするけれど身体の接触はしない、インティマシーを最初から与えることはしないという感じがありました。ヨーロッパなら最初から握手をしたりキスをしたりするけれど日本では全くなかった。ところがそういう儀式化されていたような距離感が(今回7回目の来日なので、昔と比べて)今では少し変わり始めてきているのではないかという印象を持ちました。それから、もちろんどういう社会、世界に属しているかにも寄るんだろうけれど、やはり男尊女卑は感じます。
リュック・ダルデンヌ監督:
間違っているかも知れませんが、笑いの地位が違うような気がします。例えば、何か規則に違反しそうになったときに笑って、「それは規則違反だよ」ということをソフトな形で言うような場合です。あとはホスピタリティーの精神がすごく細かい動作に出てくるんですが、そういう感覚が私たちにはないような気がします。それと、今回で1996年から7回目の来日ですが、昨日の夜、公衆の面前でキスをしている人を初めて見ました。インティマシーが家のなかのものだったのが変わりかけているのかも知れませんね。
2015.3.25 取材&TEXT by Myson
2015年5月23日より劇場公開
監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌ/リュック・ダルデンヌ
出演:マリオン・コティヤール/ファブリツィオ・ロンジォーネ/オリヴィエ・グルメ
配給:ビターズ・エンド
体調不良から休職していたサンドラはまもなく復職する予定だったが、会社は「サンドラの復帰か、彼女を解雇してボーナスをもらうか」という選択を他の社員の投票により決定すると言う。この過酷な状況でも諦めまいとするサンドラの夫は、彼女に週末のうちに自分の復職に投票してもらうよう説得すべきだと諭し、2人で同僚たちを訪問していく。
公式サイト 映画批評&デート向き映画判定
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