ジュリエット・ビノシュ、クリステン・スチュワート、クロエ・グレース・モレッツが出演、スター女優の光と影を描いた映画『アクトレス〜女たちの舞台〜』。今回は本作のオリヴィエ・アサイヤス監督にインタビューさせて頂き、主人公が抱える葛藤や、ジュリエットとクリステンの関係性が生んだシーンについてお話し頂きました。監督の語るジェネレーションギャップの真意にはかなり説得力アリです。
PROFILE
1955年1月25日、パリ生まれ。1970年代に“カイエ・デュ・シネマ誌”で映画批評を書き、後に映画作家となる。1985年『ランデヴー』、1986年『夜を殺した女』など、アンドレ・テシネ監督の作品で脚本の腕を磨き、1986年の『無秩序』で長編監督デビューを果たす。その後『イルマ・ヴェップ』『DEMONLOVER デーモンラヴァー』『クリーン』などを発表し、2008年の『夏時間の庭』では、日本でも興行的に大成功を収めた。
シャミ:
女優であるマリア(ジュリエット・ビノシュ)は、自分の年齢のことをすごく気にしていて、彼女が劇中で演じようとしている役とも重なって見えました。彼女自身、もしかしたら役に影響されていた部分があるのかも知れませんが、監督自身はマリアという女性をどんな風に捉えていましたか?
オリヴィエ・アサイヤス監督:
役者が自分の演じる役に影響を受けることは、仕事の一部なのでよくあることです。役者は表面的な演技をすることはできないので、役を演じるときに自分のなかでその役がこだまする部分を見つけていかなければならないのです。今回のマリアの場合、与えられた役が彼女自身の辛い記憶を呼び覚ますもので、さらに特殊だったのはその記憶と直面することを演出家に求められたことでした。なので、ここで問題になっているのは、彼女の年齢的な時間の移行だけでなく、一つのアイデンティティを捨て、別のアイデンティティに移行をするということなんです。マリアがあの役を演じることを受け入れるのにあれほど抵抗を示したのは、自分が若手女優だったときに、どう成熟した女優を見ていたかという視線についての記憶があったからなんです。だから彼女が怖がっていたのは、観客や相手役の若い女優からの視線ではなく、若いときの自分が今の自分を見るその視線を恐れていたのです。
シャミ:
この作品にはハリウッド映画が対比として使われている部分もあったと思います。特にマリアとヴァレンティン(クリステン・スチュワート)が映画館でハリウッドのSF超大作を観ているシーンで、ヴァレンティンは素直に受け入れているのに対し、マリアはちょっと見下しているように見えました。監督ご自身は、ハリウッド映画に象徴される超大作についてどうお考えですか?
オリヴィエ・アサイヤス監督:
私自身は双方の意見を持っています。映画はただ思想を伝えるものではなく、疑問を誘発するものであり、その点においては人それぞれ差が生じるものだと考えています。今回の作品で二人の人物の対話が出てくるとき、私たち作り手としてはどちらに肩入れするわけでもなく、先入観なく両方に自分の思想を入れています。つまり、答えそのものには興味がなく、重要なのは質問をどういう形で言い表すかなんです。だからこそあのシーンはすごく重要なんです。ストーリーの展開からすると、物語の筋を逸脱しているのですが、あのシーンが一番正しい形で時間の問題提起をしているんです。マリアは、古典的な養成を受けて女優になった人であり、演劇や映画のヒューマニスト的な歴史に属している人です。だからいくら若いキャラクターに自分を同一視しようとしてもそれは不可能なんです。ヴァレンティンの場合は、SF超大作が好きか嫌いかの問題ではなく、そもそもそういう映画を観て育ってきている人なんです。だから彼女のなかでは、当たり前に受け入れられるのですが、マリアにとってはそうはいかない。それはどうしようもないことなんです。だけど2人の間では、皮肉にも議論が行われ、美意識の問題にもなっていきます。だからあのシーンでは、2人の世界の知覚が違うということが示されていて、そのなかで時間の経過の問題も語られているのです。
シャミ:
ジェネレーションギャップには、時間だけでなく知覚的な感覚にも大きな差があることがよくわかりますね。本作では、そういったジュリエットとクリステンとの対話のシーンがたくさんありましたが、撮影時にお二人が何か話し合いをされていた様子などはありましたか?
オリヴィエ・アサイヤス監督:
二人は今回の現場で初めて会ったようなので、何か特別に話し合っていた様子はありませんでした。でも私は映画に信頼している部分があって、撮影をしていくうちに、フィクションのなかで二人の関係が作られていくべきだと考えていました。結果的に二人は、この映画を通してお互いの仕事を非常に評価し、さらに信頼関係、友情関係、そしてお互いを尊敬し合うことになったのは確かです。
シャミ:
お二人とも女優とマネージャーという役柄を自然に演じているように見えましたが、それはこの映画を通して築かれた関係の成果ということなんですね。
オリヴィエ・アサイヤス監督:
そうですね。ジュリエットとクリステンの関係についてのエピソードを一つご紹介します。クリステンの撮影最終日の前日に、ジュリエットが私のところに電話をしてきて、「この映画にはクリステンが笑っているシーンがあまりないと思うの」と言ってきたんです。それを聞くまで私には全くそんな印象はなく、むしろクリステンが出ているほかの作品よりも、笑っているし、とても人間的な部分が多いキャラクターだと思っていました。けれどジュリエットがそう言うからには、彼女が正しいのだろうと思って(笑)、試すことにしました。ところが最終日に残っていたのは、二人が対決するとても悲しくて暗いシーンだったんです。でもジュリエットの意見を活かし、このシーンをコメディに変えてみようと思いました。セリフは全く同じでしたが、二人がタバコを吸っていて、そのときにバカ笑いが起きる設定に変えました。そしたらすごく上手くいって、そのシーンの持つ精神が全く変わりました。それは二人が撮影を通じて良い関係性が築けたからこそできたシーンだと思います。
シャミ:
じゃあジュリエットからの電話がなかったら、全く違うシーンだったかも知れないんですね。そういう背景も知った上で観るとさらにおもしろそうですね。
2015年6月27日取材&TEXT by Shamy
2015年10月24日より全国順次公開
監督:オリヴィエ・アサイヤス
出演:ジュリエット・ビノシュ/クリステン・スチュワート/クロエ・グレース・モレッツ
配給:トランスフォーマー
大女優のマリアは新進演出家より、かつてマリアが主演し、彼女が女優として認められるきっかけにもなった“マローヤのヘビ”のリメイク版への出演をオファーされた。しかしマリアに求められた役は、かつて自分が演じた20歳の主人公ではなく、主人公に翻弄され自殺する40歳の会社経営者の役だった。さらに若き主人公には、ハリウッド映画で活躍する19歳の女優が決定していた…。
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