第71回ヴェネツィア国際映画祭(2014)審査員特別賞を受賞、2016年アカデミー賞外国語映画賞部門でトルコ代表作品に選ばれた本作。今回は、初の長編映画でありながら、上記他数々の映画祭で高評を得ているカアン・ミュジデジ監督にインタビューをさせて頂きました。次回作は東京が舞台とのことで今後の活躍も楽しみな監督です。
PROFILE
1980年9月24日トルコのアンカラ生まれ。2003年、映画監督の勉強のため、ドイツのベルリンに移住。イスタンブール映画祭からサポートを受け、本作を制作。実業家の一面も持ち、ベルリンのクロイツベルクで人気のカフェ・バー“Luzia”を経営するほか、コンセプトファッションショップ“Voo”を主宰。次回作は東京が舞台の『イグアナトーキョー』で、実写とアニメが融合した作品になる予定。
マイソン:
本作で闘犬にまつわる要素を、ストーリーに盛り込もうと思ったのはなぜですか?闘犬は違法行為とのことですが、違法とはいえ、闘犬はトルコ文化の1つという認識が国民にはあるのでしょうか?
カアン・ミュジデジ監督:
トルコは7500万人くらいの人口ですが、そのなかで一部の人は闘犬のことを知っていますが、全く知らない人もいます。本作で闘犬について扱ったのは、この映画のテーマがバイオレンスだからです。さらに、違法的なバイオレンスということや、それを許している国の様子も描きたかったんです。闘犬をやろうとして夜に出かけるシーンがあったと思いますが、そこでは(警備中の)兵士が闘犬を乗せた車だとわかっていながら通します。そういう部分も含めて話題にしたかったし、男社会で起きているおかしなこと=バイオレンスを見せたかったんです。例えばボクシングや、空手はスポーツとして見られますが、私としては、暴力だと思うし、おかしなことだと思っています。それが闘犬のほうがより効果的に表現できると思ったのです。
マイソン:
犬と、演技初体験の子どもが主演ということで、撮影で苦労したことはありましたか?また逆にプラスになった点はありましたか?
カアン・ミュジデジ監督:
プランニングをしているときに、良い結果にならないんじゃないかと思ったり、失敗するかも知れないと心配して眠れないときや、泣きながら起きたときもありました。そして撮影に入って最初の1週間は思い通りにできませんでした。私はとても頑固で、実現させるまで諦めない部分があります。でも、ずっと子どもたちやスタッフたちと話をしてきて、皆もやるしかないと思うようになり、黙っていても通じるようになりました。
マイソン:
アスラン役のドアン・イスジ君は、犬を怖がっていたそうでしたが、それはどうやって克服したんですか?
カアン・ミュジデジ監督:
私が役割分担を決めて、ドアンに、毎朝犬にエサをあげたり、1q以上散歩させたり、義務を与えました。ドアンは怖がっていましたが、犬はドアンのことが結構好きだったんですよ。だからドアンがその愛に応えて、仲良くなりました。それと犬と遊ぶときによく話しかけてコミュニケーションを取るようにとドアンに言っていたのですが、そうやってお互いに馴染んでいきました。
マイソン:
なるほど〜。監督は、カフェやファッションショップも手掛ける実業家とのことですが、映画やアートはビジネスとして捉えると、リスクも大きくてとても難しい事業だと思います。それでもやろうと思える原動力は何ですか?
カアン・ミュジデジ監督:
モチベーションは、そのリスクです。リスクがあるからこそやる気が出ます。リスクがなかったら、おもしろくありません。
マイソン:
では、最後に、トーキョー女子映画部は映画好き女子のためのWEBサイトなので、女性達に一言お願いします。
カアン・ミュジデジ監督:
世の中には男社会があって、うまくいっていないと思います。こういったネガティブなところからポジティブに変えてくれるのが女性です。女性がこういう状況を助けてくれるし、女性は自分達が何とかして頑張れば世界は変わると思っているし、それをわかっていると思います。
2015年8月31日取材&TEXT by Myson
2015年10月24日より全国順次公開
監督・脚本:カアン・ミュジデジ
出演:ドアン・イスジ/ムッタリップ・ミュジデジ/オカン・アヴジュ/パーヌ・フォトジャン
配給:ヘブンキャンウエイト(配給協力・太秦)
トルコ東部、アナトリア地方に住む11歳の少年アスランは、学校の学芸会で、白雪姫を演じる意中の女の子アイシェの相手として王子役になりたかったが、村長の息子オスマンが抜擢され、悔しい思いを抱いていた。そんなある日、闘犬の勝負の場に居合わせたアスランは、そこで敗れてボロボロに傷付き飼い主に見捨てられた闘犬のシーヴァスに興味を抱く。シーヴァスが死んでしまわないようにずっと見守り続けたアスランは、兄に無理を言って、一緒に連れて帰り飼い始めるが…。
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