伊坂幸太郎の人気小説を生田斗真、浅野忠信、山田涼介、共演で映画化した『グラスホッパー』。今回は、本作で鯨役として出演、国内外問わず活躍する浅野忠信さんにインタビューさせて頂きました。「映画の現場には、おもしろい人が集まっているんです。そういう人たちと常に働ける俳優という仕事は僕の居場所なんです」と語る浅野さんに、超能力について&日本とハリウッドの現場の違いなどを聞いてみました!
PROFILE
1973年11月27日、神奈川県生まれ。1990年に『バタアシ金魚』でスクリーンデビューし、1998年『KUJAKU 孔雀』を機に海外にも活躍の場を広げる。2003年に出演した映画『地球で最後のふたり』で、第60回ヴェネチア国際映画祭コントロ・コレンテ部門において主演男優賞を受賞し、2007年出演の『モンゴル』では、第80回米国アカデミー賞で外国語映画賞にノミネートされた。国内では、2003年に『座頭市』で日本アカデミー賞優秀助演男優賞、2007年には『母べえ』で日本アカデミー賞優秀助演男優賞に輝き、2010年には『劔岳 点の記』と『ヴィヨンの妻 〜桜桃とタンポポ〜』で、日本アカデミー賞優秀主演男優賞をW受賞した。その後も国内外問わず映画出演を続け、2011年には『マイティ・ソー』でハリウッドデビューを果たす。以降、『バトルシップ』『47RONIN』『マイティ・ソー/ダーク・ワールド 』などに出演。
シャミ:
本作への出演の一番の決め手はどんなところだったのでしょうか?
浅野忠信さん:
やはり鯨というキャラクターが一番の決め手です。今までにも殺し屋の役をやったことがありますが、大体は銃を使ったり、自分の手で人を殺す役がほとんどでした。でも今回の役は、相手を自殺に追い込む自殺屋ということで、直接的に手を下すのではなく本人自ら死ぬという選択に導く殺し屋だったので、これはおもしろいなと思いました。
シャミ:
かなり特殊なキャラクターでしたよね。鯨はお父さんの亡霊が見えたり、精神的にも病んでいるとても複雑な人物でしたが、演じる上で特に難しかった点はどんなところですか?
浅野忠信さん:
やはり自殺屋というものをなかなか想像できませんでした。でももしかしたら鯨みたいな超能力を持った人が本当はいるかも知れないなって、実は昔から思っていたんです(笑)。当然そういう能力は危険なので、政府や社会が敢えて超能力を人々に与えないようにしているのかも知れませんよね。だから僕らが知らないだけで、実はテレパシーで会話をしていたり、鯨のように戦っている人がいることもあり得るなって思うんです(笑)。
シャミ:
催眠術自体は実際に存在しますし、十分にその可能性はありますよね(笑)。
浅野忠信さん:
よく指を鳴らして「はい」って言ったら催眠術にかかることがありますが、例えば恋人をつくるときも「はい、あなたは僕の恋人です」って催眠術をかけたら、恋人になっちゃいますからね(笑)。鯨はそういうキャラではありませんが(笑)、超能力についてはいろいろと想像を膨らませて演じていました。
シャミ:
今回のキャラクターもおもしろかったのですが、普段は出演作を選ぶときの基準などはありますか?
浅野忠信さん:
たとえ自分が理解できない役だったとしても、なるべくどの作品もやりたいと思っています。でも全部というのはどうしても無理なので、まず監督とお会いしてお話をさせて頂いています。そこでいかにお互いのことをわかり合って、作品の方向性を話し合えるかですね。それさえできれば、どの作品でも徹底的に準備して、出来る限りやるべきだと思っています。
シャミ:
浅野さんは日本でもハリウッドでも活躍されていますが、それぞれのおもしろい点や良いところはどんなところだと思いますか?
浅野忠信さん:
ハリウッドに行って驚いたのは、バジェットの大きさはもちろんですが、情熱のレベルが違いますね。自分がこの作品に携わっている、自分が選んだ仕事を自分でするということに対し、ハリウッドの方々は言い訳をしないし、皆が「今のチャンスを絶対に逃さない」という気持ちでいるので、すごく良いエネルギーが現場に溢れているんです。それに必ず結果を出そうとしていて、出てきた結果に対して、僕らもきちんと喜んだり傷ついたりできるので、すごくためになるなって思います。日本の現場の良いところは、皆で助け合うことができるところですね。自分の仕事以外のことも手伝ったりしますし、すごく一体感があって良いなって思います。ハリウッドの場合は、自分の仕事以外のことは、ほとんどやりませんね(笑)。でもそれは彼らなりのリスペクトでもあって、「僕はその仕事のプロではないので、あなたの仕事に手を出すべきではない」という考えなんです。
シャミ:
なるほど〜、やはり文化の違いは大きいですね。日本人はどうしても恥ずかしい気持ちが先に立ってしまって、なかなか意見を言えなかったり、逆に海外の方は個人の意見をすごく求めてくると思うのですが、映画の現場でもやはり個の部分は求められますか?
浅野忠信さん:
それはかなり明確です。逆に言うと、彼らは一番簡単なやり方をしているんだと思います。「おもしろくないならやめよう」とか「君ができないなら帰って良いよ」とか「結果を出さなかったら、君には二度とチャンスがないよ」という社会なので、すごくシンプルだなって思います。そういうところは僕自身もすごく勉強になっています。
シャミ:
でも浅野さんの場合は、きちんと結果が出せているからこそ、今も国内外問わず活躍されているっていうことですよね。それは本当にすごいことだと思います!
浅野忠信さん:
いやいや、でもすごくやりがいがありますね。
シャミ:
ではハリウッド映画に出演して、俳優として一番変わった部分はどんなところですか?
浅野忠信さん:
自分が何をしたいのか、なぜ僕が必要とされているのか、僕に何ができるのか、準備できることは何なのか、どうやったら役のおもしろいポイントを見つけられるのかということを一つ一つ丁寧に考えるようになったし、妥協せずに答えを導くようになりました。良い力を持っている人には大いに助けて欲しいと思えるようになりましたし、逆に自分の力を出し切れていない人がいたら、こちらから助けてあげなくちゃって思います。そういう意識はすごく変わりました。
シャミ:
若い頃から俳優として活躍されていますが、年齢や経験と共に変化したところはありますか?
浅野忠信さん:
若い頃は、頂く役柄も、当時の自分自身も、すごく突っ走っていましたね。でも歳を重ねるに連れて、人や物事ってそんなに一辺倒じゃないということがよくわかるようになりました。そうなったことで、物事を客観視できるようになり、いろいろなことに深刻にならずに済むようになりました。日々の出来事には、「何でこんなことが起こるんだ」とか「どうして追い込まれるんだ」って苦しくなる瞬間がたくさんあると思いますが、ちょっと客観的に考えてみると「このおかげで、こうやってできたな」とか、どこに気持ちの焦点を合わせるかによって、物事の別の側面が見えてくるんです。役に関しても同じで、ただ苦しんで人殺しをするようなキャラクターじゃなくて、実は優しい面があったり、まぬけな面があったりすると、そのキャラクターにより奥行きを感じておもしろいなって感じますし、これからもっとそういう役をやりたいですね。
シャミ:
じゃあ昔と比べると役との向き合い方も変わってきたということですか?
浅野忠信さん:
変わってきましたね。でも逆に最近は昔の向き合い方をきちんと思い出すようにしています。昔は役とピュアに向き合って、自分自身の好き嫌いで選んでいたと思うんです。純粋にシーンやセリフに魅力を感じ、このセリフを言いたいとか、このシーンはきっとこういう顔をしているなとかパッと思い浮かんだり、そういう強力な魅力を若い頃はすごく欲していましたし、感覚を掴むのも早かったんです。その若い頃の感覚こそ、今の僕に一番必要だと感じています。
シャミ:
最後に、これから本作をご覧になる方に向けてオススメコメントをお願いします。
浅野忠信さん:
やっぱり生田斗真さん、山田涼介さんが本当におもしろい役をやっていますし、僕もそのなかで鯨というすごく良い役をやらせて頂きました。鯨の見どころとしては、やはり自殺屋というちょっと変わった殺し屋である部分ですね。ほかにも本当に強烈な方達が出演しているので、どの人に注目してもおもしろいと思います。ぜひいろいろな切り口から楽しんで欲しいです。
2015年9月29日取材&TEXT by Shamy
2015年11月7日より全国公開
監督:瀧本智行
原作:伊坂幸太郎
出演:生田斗真/浅野忠信/山田涼介/麻生久美子/波瑠/菜々緒/村上淳/宇崎竜童/吉岡秀隆/石橋蓮司
配給:KADOKAWA、松竹
渋谷スクランブル交差点で起きたある事件で婚約者を殺された、元中学校教師の鈴木は、復讐のために闇社会に潜入する。次第に事件の背景に裏社会のドンとイカれた二代目の存在があることを知る。しかし、またもや渋谷で事件が起こり、状況は二転三転し、鈴木は組織から追われる身となってしまう。果たして、鈴木は目的を達成し、この世界から抜け出すことができるのだろうか…?
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イイ男セレクション/浅野忠信
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