海の見える街を舞台に、四姉妹が絆を紡いでいく映画『海街diary』。今回は、是枝裕和監督にインタビューさせて頂きました。「僕はこの四姉妹にときどき会いたくなります。観ていると幸せな気持ちになるんです」と語る監督に、四姉妹のキャラクターづくり、家族をテーマに映画を撮ることのおもしろさについて聞いてみました。監督の話す“姉妹あるある”には、驚きの連続でした(笑)。
PROFILE
1962年、東京都生まれ。早稲田大学卒業後、テレビマンユニオンに参加。主にドキュメンタリー番組を演出。1995年に、『幻の光』で映画監督デビューし、ヴェネツィア国際映画祭で金のオゼッラ賞を受賞する。続く『ワンダフルライフ』は、世界30ヶ国、全米200館で公開される。2004年『誰も知らない』では、カンヌ国際映画祭史上最年少の最優秀男優賞を受賞。その後、『歩いても歩いても』がブルーリボン賞監督賞を受賞、さらに『空気人形』はカンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品された。2011年、『奇跡』がサンセバスチャン国際映画祭最優秀脚本賞を受賞。2012年には、初の連続ドラマ『ゴーイング マイ ホーム』で脚本、演出、編集を務める。2013年、『そして父になる』がカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞したほか、国内外の数々の賞に輝き大ヒットを記録。2014年には、独立し制作者集団「分福」を立ち上げた。
シャミ:
本作の映像、そして女優さん達もすごく綺麗で、本当にずっと観ていたいと思うくらい素敵な作品でした。それぞれの女優さんを撮るにあたって、監督が気を付けた点や意識した点はどんなところですか?
是枝裕和監督:
四姉妹それぞれの違いと共通点の描き分けは、かなり気を付けました。この作品は、亡くなった人物やあまり登場しない人物が多いので、そういった人達を四姉妹にどう背負わせていくのか考えました。一見ほのぼのとした日常が描かれているように思えますが、姿を見せない人達の存在がすごく重要なんです。例えば、幸(綾瀬はるか)は厳格だった祖母、佳乃(長澤まさみ)には男に頼らないと生きていけない母親(大竹しのぶ)の影が重ね合わせられています。祖母と母はそりが合わないわけですから、当然幸と佳乃も衝突するんですよね。それから千佳(夏帆)には父親を投影しています。縁側を背にあぐらをかいてご飯をかき込んでいる姿は、本人は意識していませんが、父親の影があるんです。それに千佳が釣り好きというのも、父の影の一つです。そしてすずには、幸の子ども時代を背負わせるようにしました。そうやって、姉妹の側にもういない人達の影をそれぞれ背負わせることが、今回の演出の大きなポイントだったと思います。
シャミ:
なるほど〜。確かに登場しない人達が四姉妹に与えている影響力というのは観ていてすごく感じました。では、なぜ幸とすずに焦点をあてることにしたのでしょうか?
是枝裕和監督:
原作でも幸とすずが中心になっていたのもそうですが、何が軸になるのか考えたときにこの物語は、幸のなかの父親の記憶がすずを引き取ることによってどう書き換えられていくのかということと、すずが自分が生まれてきたことをどう肯定できるのかという話だと思ったんです。そういった内面の葛藤を強く抱えているのが幸とすずだったので、そこを軸にしていくべきだと感じました。
シャミ:
監督はほかの作品でも子役には台本を渡さないということですが、本作ですず役を演じた広瀬さんとは話し合いをした上で台本なしと決めたと伺いました。実際に台本なしで広瀬さんに演じてもらった感想はいかがですか?
是枝裕和監督:
現場で本人に「台本なしで演じてみて、どうだった?」と聞いたら、「すごく耳を使った」と話していました。それから「台本がないと、現場で初めて相手の台詞を聞くことになるのですごく集中したし、相手の台詞をよく聞いたり、表情から読み取ろうという意識が強くなりました」と話していたので、僕としても良かったと思っています。相手の台詞を聞くことができるようになることは、役者の初期教育として正しいことだと思います。
シャミ:
過去の作品で子役の子達に台本なしで演じてもらっているのも、同じような意図があってのことですか?
是枝裕和監督:
同じですよ。芝居において相手の台詞を聞くということが一番大事なんです。
シャミ:
では、四姉妹を演じた女優さん達に監督がそれぞれ指示したことや話し合ったことはありますか?
是枝裕和監督:
それはキャラクターに関してということですか?
シャミ:
はい。私自身も四姉妹なので、長女らしさや次女らしさという部分をどう出していったのかが気になりました。私は長女なので、幸の気持ちもわかるところがたくさんあったのですが、逆に妹達を見ていると「妹ってこういうところがある!」と共感しながら観ていました(笑)。
是枝裕和監督:
四姉妹なんですね!長女と次女は洋服の交換をしますか?
シャミ:
すごくします!
是枝裕和監督:
三女とはしませんよね(笑)?
シャミ:
しません!どうしてわかるんですか!?
是枝裕和監督:
皆、そうみたいですよ(笑)。この撮影をするにあたり、三姉妹に取材させて頂いたのですが、長女と次女は服の貸し借りをするけど、三女は全く趣味の違う服と音楽と男を連れてくるって皆話していました。原作を書いた吉田秋生さんも姉妹の関係性をきちんとわかって書いていたと思うのですが、取材していて姉妹の関係性に確信を持てた部分があったので、それをこの三姉妹で見せていこうと思いました。そしてその三姉妹のところへやってくるのが、末っ子だけど長女のすずなんですよね。
シャミ:
長女が末っ子になるのは、すごく難しそうだなって思いましたが、すずは、長女っぽいしっかりした部分を上手く残しつつ、1年を通してちゃんと末っ子になっていったので、姉妹って不思議だなと思いました。ちなみに監督は、四姉妹のやり取りを客観的に見てどう思いますか?
是枝裕和監督:
楽しそうだなって思います。現場でも四姉妹役の彼女達の話を聞きながら、何か活かせるやり取りをしていないか観察していました。よく周りの人達に「女優が4人もいて、大変じゃありませんでしたか?」と聞かれるのですが、本当に皆仲良しだったんですよ。普通、撮影が終わると一人くらい楽屋に戻るとかあると思うのですが、誰も戻らなかったんです(笑)。カットがかかると、綾瀬さんが「何して遊ぶ?」って言うので、皆現場に残っていました。あれは本当に綾瀬さんの人柄のおかげですね(笑)。すごく楽しい現場でした。
シャミ:
本作も含め、監督は過去にも家族の物語を多く作られていますが、家族をテーマに描くことの一番のおもしろさはどんなところだと思いますか?
是枝裕和監督:
演出側として言うと、家族をテーマに描くことは、一人の人物を多面的に描くことが効率良くできるのが良い点です。例えばこの作品だと、幸は姉だけど、あるときは母で、祖母のときもあって、母親が来たときは娘に変わり、外に出て椎名(堤真一)の隣にいるときは女なんですよね。そうやって関わる相手を変えるだけで、人物を立体的に見せられるのが家族モノの良さなんだと思います。もう一つ大切なのは、その人物の役割が時間の流れと共に変わっていくことです。この作品を幸の物語として考えると、彼女は女であることや誰かの妻になることをどこかで諦めて、すずの母親になることを選ぶ話なので、決してハッピーエンドだとは思いません。でもそうやって時間と共に彼女の役割が変わっていく部分がおもしろいんです。また、香田家では母親が娘だった時間もあって、それを梅の木がずっと見ているわけですが、そうやって大きな時間の流れのなかで、それぞれの人が役割を変えながら続いていくのが家であり、家族なんだと思います。
2015年11月18日取材&TEXT by Shamy
2015年12月16日ブルーレイ&DVDリリース(レンタル同時)
監督:是枝裕和
出演:綾瀬はるか/長澤まさみ/夏帆/広瀬すず
加瀬亮 鈴木亮平 池田貴史 坂口健太郎 前田旺志郎 キムラ緑子 樹木希林
リリー・フランキー 風吹ジュン 堤真一 大竹しのぶ
発売元:フジテレビジョン
販売元:ポニーキャニオン
公式サイト 映画批評&デート向き映画判定
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©2015吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ
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