今回は、リリー・フランキーさんが盲目の貝類学者を演じた映画『シェル・コレクター』の坪田義史監督にお話を伺いました。本作は、沖縄の美しい景色と幻想的な映像と共に、一人の男の変化の様子が描かれた物語となっています。インタビューでは、主人公を演じたリリー・フランキーさんについてや、監督の結婚観などいろいろなお話を聞かせて頂きました。
PROFILE
1975年神奈川県出身。多摩美術大学在学中に製作した映画『でかいメガネ』が、映像アートの祭典“イメージフォーラム・フェスティバル2000”でグランプリを受賞。2009年、『美代子阿佐ヶ谷気分』で劇場デビューを果たし、第39回ロッテルダム国際映画祭コンペティション部門“VPROタイガー・アワード”に選出、第46回ペサロ映画祭審査員特別賞、第4回シネマデジタルソウル映画祭批評家連盟賞&観客賞、第30回ポルト国際映画祭特別賞&最優秀脚色賞受賞など数々の映画祭を席巻し、海外でも高い評価を受けた。2012年には、文化庁在外芸術家派遣によりニューヨークと日本で活動し、2015年にはリリー・フランキーを主演に迎え『シェル・コレクター』を監督。
シャミ:
日本で震災を経験したことと、その後に渡米したことをきっかけに本作を映画化したということですが、具体的に当時はどんなことを感じていたのでしょうか?
坪田義史監督:
渡米したのは2012年で、当時は震災を踏まえて海外にどう日本の芸術文化を提示できるのかを考えていて、それと同時に日本を離れることによって日本を客観視してみたいと思っていました。いざ渡米してみると、海外の文芸作品を日本で脚色して、映画にするってことがあまりないなと感じ、映像化したいと思いました。それでニューヨークのプロデューサーに原作権の取り方を相談し、この映画の企画が進んでいきました。アンソニー・ドーアの原作自体は、以前に読んだことがあったのですが、震災以降に読み直したときに、改めて自然の畏怖を感じました。また、盲目の人が貝を触る、自然の創造性に触れるというのがすごくフォトジェニックな題材だと思い、ビジュアライズしたいと思いました。
シャミ:
なるほど〜。この作品を観ているとリリー・フランキーさんが演じる盲目の貝類学者を通して「目で見えているものだけが真実なのではなく、実際に触れてみないとわからないことがたくさんある」ということを感じたのですが、監督は主人公を通して一番どんなことを伝えたいと思いましたか?
坪田義史監督:
自然の本質を体感し、生きていく術を学ぶ貝類学者を通し、何か諦めながらも一筋の光に向かって進んでいくようなものを描きたいと思いました。この貝類学者って何かを悟っている仙人みたいな人ですよね。
シャミ:
確かにそうですよね。リリーさんが演じたからこそ独特の雰囲気があって素敵だなと思いました。ちなみに監督はこの貝類学者のキャラクターとして好きな部分はありますか?
坪田義史監督:
初老の男が、貝をコレクションするというところが、すごくロマンに溢れているなと思えて好きですね。
シャミ:
この貝類学者は初老でも色気やセクシーさがあるなって感じました。
坪田義史監督:
ダンディズムがありますよね(笑)。良い感じにガツガツしたものが抜けて、何かを達観していく一歩手前みたいな時期なんだと思います。この物語は、貝のなかに閉じこもった男が、やっと外界に出たという彼の成長物語となっていますが、この学者はリリーさんが演じてくれたからこそすごくナイーブでセクシーなキャラクターになったと感じています。
シャミ:
リリーさんとは、キャラクターについて何か話し合いなどされましたか?
坪田義史監督:
最初に会ったときからずっと話していて、ロケ中は飲み屋に呼び出されたこともあったほどよく話していました(笑)。僕もリリーさんも美大の出身なこともあり、リリーさん自身僕の考えをかなり理解してくれていましたし、多くのアドバイスも頂きました。もし大学時代にああいう先輩が近くにいたら、きっと何日も泊まりに行ってしまっただろうなって思います(笑)。
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シャミ:
この作品のなかでは、気を失ったり、寝ているシーンが多くあって、現実なのか夢なのかわからない場面もあったのですが、そういったシーンには何かこだわりなどがあったのでしょうか?
坪田義史監督:
夢と現実を行き交うような、生きているのか死んでいるのかわからないという曖昧さのなかで、一つ物語を作れないかと考えていました。そして主人公が盲目で視界がないということを利用しながら、寓話とリアルの境界を映像で表現したいと思いました。すごく生々しい現実と、曖昧な夢の狭間で揺れ動きながら何かを物語るということは常に考えて作っていました。
シャミ:
抽象的な映像は、観る人達にどんな風に感じ取って欲しいと思いますか?
坪田義史監督:
この作品にはとにかく視覚と聴覚を触発するいろいろな仕掛けを仕込んだり、工夫をこらしているので、観る人それぞれの感性に響き渡って一つの物語ができたら良いなと思います。感性を刺激するというか、その方が豊かだと思うので、いろいろな意見が出て良いと思っています。
シャミ:
主人公が孤独は親密なものだと語るシーンがありましたが、監督ご自身は孤独とはどんなものだと思いますか?
坪田義史監督:
どんな人でも孤独は親密なものだと思いながらも心の奥底で、誰かと繋がりたいと常に思っているものですよね。僕は撮影当時、現場にいろいろな人がいて、でも夜はホテルの部屋で一人になるので孤独だなって思っていました(笑)。あとは、たまに一人で熱海まで行ってお弁当を食べて帰ってくるとか(笑)。
シャミ:
孤独とはいえ、すごく楽しそうですね!孤独な時間ってやっぱり必要だと思いますか?
坪田義史監督:
女子的にはどうですか?一生独身で孤独よりも結婚するべきだと思いますか?
シャミ:
最近は一人でいることを自ら選択する人もいますし、必ず結婚しないといけないってことはないと思います。ただ男性の方が独身でもあまり周囲から何も言われないのは羨ましいなと思います。
坪田義史監督:
男はなんとかなると思われているんでしょうね(笑)。僕みたいな仕事をしていると、逆に「何でお前が結婚している?」とか言われることがありますよ(笑)。
シャミ:
そうなんですか!?映画監督ってすごく立派なお仕事なのに。監督は海外で活動された経験があり、本作もニューヨークのプロデューサーが参加されていますが、海外で活動したり海外の方とお仕事をすることの重要性は、どんなことだと思いますか?
坪田義史監督:
いろいろな文化や考え方がミックスされて作られていくのが、おもしろいなって思います。全然違うこともあれば、共鳴できることもあって、今後もっと世界の方と作る映画がたくさん増えていくと思います。
シャミ:最後にトーキョー女子映画部のユーザーに向けて一言、本作のオススメコメントをお願いします。
坪田義史監督:
リリーさんのダンディズムはぜひ女子に推したいですね(笑)。この映画を通し、先の見えない未来に対して一筋の光を見つけてもらえたら嬉しいです。
2015年12月17日取材&TEXT by Shamy
『シェル・コレクター』PG-12
2016年2月27日より全国順次公開
監督:坪田義史
出演:リリー・フランキー/寺島しのぶ/池松壮亮/橋本愛
配給:ビターズ・エンド
貝の美しさと謎に魅了された盲目の貝類学者は、妻、息子と離れ、沖縄の孤島でひっそりと静かな厭世的生活を送っていた。そんなある日、島にいづみという女性が流れ着く。一つ屋根の下でいづみと暮らし始めることとなるが、次第に彼の生活、そして運命が狂い始める…。
©2016 Shell Collector LLC(USA)、『シェル・コレクター』製作委員会