映画のお仕事は、監督・女優以外にも数え切れないほどの種類があります。プロデューサー、照明、音響、衣装、メイク、宣伝、劇場営業…。映画を作る現場から、映画をユーザーに届けるところまで、さまざまな現場で働く女性にお会いする機会があれば、お話を聞いて、現場の状況などを掲載できればと思います。
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このコーナー第1回目は、映画『BECK』をご担当の女性映画宣伝マン:清宮礼子さんにインタビューさせて頂きました。華やかさもあり人気のお仕事である映画宣伝の現場で働く清宮さんの生の声をたっぷりとお届けします。
ツイートマイソン:
まずは現在のお仕事に就いたきっかけ、経緯を教えて下さい。
清宮さん:
最初は契約社員として大学を卒業して1年後に入社しました。2004年に松竹のホームページで「パブリシティ募集」と掲載されているのを見て、どんな仕事なのか知らずネットなどで調べておもしろそうだなと思って応募してみました。もともとマスコミ業界に入りたかったんですが、狭き門である上に、アルバイトやから入る人も多い業界で、新卒で正社員として入るのは難しいと思ってました。それに家庭の事情で在学中はあまり就職活動ができず、大学を卒業してからアルバイトからでも何でも良いから地道に探そうと思って、マスコミ業界全体の求人は結構気にして見てたんです。だから特に映画業界とまでは決めてなかったんですけど、就職情報サイトに登録してて、たまたま求人を見つけて応募しました。
でも中途採用の募集なので、社会人経験がない私は学費を稼ぐためにいろんなアルバイトをしていたことを職務経歴書にずらっと書き、とりあえずガッツはアピールしようと内容を事細かく書いて出しました。
そして、1次面接に進めたんですが、「最近観た好きな映画は?」「その理由は?」という以外は映画の話はせずに10分くらいで終わり、とりあえず笑顔だけアピールしたという感じでした(笑)。でも、もっと言うべきことがなかったのかなと思って、総務の方に改めて「映画好きという意味では人並みだけれど、映画のように、自分も人に夢を与えられるような仕事に情熱を注ぎたい」とメールしました。キャリアのありそうな方もたくさん受けてたので絶対無理だと思ってたんですが、当時松竹には若い宣伝マンが男女ともにいなかったので、未経験でも勢いのあるやる気のある若い人材を探していたというタイミングも良かったと思います。
——いろいろなアルバイトを経験された清宮さん。サービス業をやり人と接する楽しさを実感され、また新聞購読の訪問販売のアルバイトでは、ドアをぴしゃっと絞められたりということもあり「売り込む」ことに関しては免疫がついていたそう。それに比べれば映画を売り込むことはなんて楽しいことなんだと思い、宣伝は人と接するお仕事ということもあり天職だと思ったそうです。———
マイソン:
では、具体的に映画宣伝のお仕事ではどんなことをするのですか?
清宮さん:
映画宣伝のセクションがいくつかあるんですが、私の所属するパブリシティ室の仕事は「映画のコンテンツのおもしろみを伝えて、マスコミ側が能動的に取り上げて頂けるように売り込む仕事」です。フリー(無料)でどれだけ露出するのかを担う部署ですね。タイアップチームの仕事は、コンビニや食品メーカーなどいろいろな企業さんが映画のビジュアルを使ったりして、「今話題の映画と企業がタイアップすることによって、企業の商品を注目させる、盛り上げる」というところですね。あとはメディアバイイングを行うチームもあって、簡単に言うと新聞、テレビ、雑誌などに広告を出す、広告代理店と動いたりもするんですが、1作品に対して決められた広告予算のなかでいかに優良な広告を展開していくかを考えるセクションです。クリエティブの部門はポスターやチラシなどあらゆる宣材物を作るところ。これらのいくつかの部門を総括的に見て、一つの作品の宣伝を動かしていく司令塔が宣伝プロデューサーです。最終的な予算の判断、方向決定は主に宣伝プロデューサーが担いますが、弊社では作品ごとに1プロデューサー3〜4人のパブリシティ担当者でチームを組み、作品を売り込むための戦略を活発的に意見交換をしながら宣伝方針を考えます。宣伝は一人ひとりの積極的な意見と行動が大切ですが、プロジェクトを動かし成功させるためには、チームが同じ方向を向いて力を合わせることが必要不可欠です。
マイソン:
では、今回宣伝ご担当の『BECK』で独自に行った宣伝はありますか?
清宮さん:
『BECK』は誰からもアタると言われているんです。キャストも豪華だし、原作も売れてるし。でもアタると言われていても普通の宣伝をやっていては他社に対抗できない。そこで、夏休み中に『笑っていいとも!』に3日間連続で出演者の方にご出演いただいたり、9月2日(木)には、共同出資局の日本テレビさんのズームイン!!SUPERからnewsevery.まで、朝の生放送の情報番組すべてをBECKメンバーがジャック。そのほか、女性誌『JJ』の表紙など多数の雑誌で表紙をBECKメンバーで飾ったり、人気ゴールデン番組『ぐるぐるナインティナイン』をBECKメンバー5人が1時間まるまるジャックするなど…インパクトのあるメディアの展開でメジャー感を創出させることに成功しました。
マイソン:
では、映画宣伝をやっていて良かったなと思うこと、大変だなと思うことを教えて下さい。
清宮さん:
やっぱり、いろんなマスコミの方の要望をまとめつつ着地点を見つけて、なおかつ映画の良さを伝える、いかに露出するかを調整するのが大変です。要望を聞くだけだと映画の宣伝として良い露出に結びつかなくなってしまいますし。でも、そういうところが大変でもあり、やり甲斐でもあるんですが。あとは体力と精神力、バイタリティがないと絶対にできない仕事です。映画の規模に関わらず、できるだけ多くの媒体さんに知ってもらいたいので、いろんな時間帯で動いている方々に合わせてかけずりまわらないといけないですからね。
マイソン:
好きじゃないとできない仕事ですよね?
清宮さん:
本当にそう思います。あと、この仕事をやってて良かったと思うことは、やっぱり劇場でお客さんが喜んでくれている姿を見るときですね。仕事が大変なときってこなさなきゃいけないっていう風になりがちなんですけど、最終的にお客さんに届けるっていう目的意識を常にもってるとモチベーションに繋がるなと改めて思います。あとは好きな芸能人に会えること、裏側が見えることです(笑)。華やかさと裏側の苦労、時にはドロドロしたところ、様々な景色が見られるのがおもしろいんです。
マイソン:
映画宣伝マンになりたい女性から「この職業に就く方法」を聞かれたら、どんなことを伝えますか?
清宮さん:
私も契約社員として5年働いて、契約更新をどうするかというタイミングで上司が「こいつ頑張ってるから正社員になって欲しい」って言って下さって、正社員試験を受けさせてくださって受かることができたんですが、この業界って、たぶんアルバイトや契約社員から上がってきてる人の方が多いんですよ。違う業界から知り合いの伝手でぽんと入ってくる人もいますし、意外に人数が足りないからとふいに募集している会社もあるので、継続的に募集を探していれば何かしら出てくると思います。だから、アルバイトでも契約社員でも、とにかく業界に入るのが第一歩。やっぱり映画は人の心を動かすものなので、それを宣伝する仕事をやりたいなら、自分も「映画が好きだ」「この仕事をやりたい」ということをアピールして人の心を動かすくらいの気持ちで挑めば、採用担当の方にも伝わると思うんですよ。それは私の経験上、大事なことだなと思います。うちの会社にも作品の単発の契約でも、元大工さんとかいらっしゃいますよ。
マイソン:
映画宣伝を専門にしている会社もありますしね。
清宮さん:
そうそう、そういう会社もありますし、映画を専門にしているデザイン会社やホームページ制作会社や広告代理店だってありますもんね。関わり方はほんとにいろいろとありますね。
マイソン:
清宮さんご自身が考える映画宣伝マンに必要な要素は何だと思いますか?
清宮さん:
熱意とか当たり前ですけど、「伝えたい」という気持ちはやっぱり必要だと思うし、映画に対する愛情はあった方が良いと思います。あまり映画が好きじゃない方もいらっしゃるんですけど、好きな方が自然に伝えたくもなるし、お客さんの表情までイメージするような想像力も膨らむと思います。あとは本当に多くの方、個性的な方と接するのでそれを楽しめるくらいの柔軟性ですね。それにルールや枠に囚われないで「思い切ってこれをやってみよう」と思える気持ちもあると良いと思います。
Q:それでは最後に今ご担当の『BECK』の宣伝コメントをお願いします!
この作品は余計な説明はいらないですね。とにかく劇場で体感して欲しいです。彼らが血と汗と涙を注ぎ込んで演じた熱さがスクリーンから伝わってきます!感動の青春ストーリーをぜひ劇場で観てください!
2010年8月24日取材
2010年9月4日劇場公開
監督:堤幸彦
出演:水嶋ヒロ/佐藤健/桐谷健太/中村蒼/向井理
配給:松竹
©ハロルド作石/講談社 ©2010「BECK」製作委員会