映画のお仕事は、監督・女優以外にも数え切れないほどの種類があります。プロデューサー、照明、音響、衣装、メイク、宣伝、劇場営業…。映画を作る現場から、映画をユーザーに届けるところまで、さまざまな現場で働く女性にお会いする機会があれば、お話を聞いて、現場の状況などを掲載できればと思います。
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このコーナー第2回目は映画『ラスト・ソルジャー』『パラノーマル・アクティビティ第2章/TOKYO NIGHT』をご担当の宣伝プロデューサー、株式会社プレシディオの亀山登美さんにお話をお伺いしました。おもしろい経歴の持ち主で、とても元気な方です。この元気分けてもらいましょう〜。
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マイソン:
まずは現在のお仕事に就いたきっかけ、経緯を教えて下さい。
亀山さん:
私は大学卒業後、すぐに就職せずに中国に留学したんです。そこから話すと長くなりそうですが(笑)。実は映画は高校くらいまで全然観てなくて、大学の友達がすごく映画好きで一緒に観に行くようになったんです。就職を考えたときにそれまでは「どんな仕事がしたい」っていうのが具体的になかったんですが、一般企業には興味がなかったし、楽しいことを仕事にしたいと考えたときに映画って良いなと思い始めました。それに大学で中国語を勉強してたので、この経験を無駄にしたくないなと思って、何か1つマスターしたいと思って北京の映画学校「北京電影学院」に行ったんです。
そのときはざっくりと「映画を作る方をやりたい」って思ってたんですが、別にカメラが使える、編集ができるとかでもないし、とりあえずプロデューサー科に入ったんです。そこで中国人のなかに一人混ざって勉強してたんですが、「何言ってんのかわかんない」ってことも多々ありながら良い経験にはなりました(笑)。
そこでたくさん友達もできたし楽しい1年半を過ごせたんですが、帰国するってときに「何かしなきゃ」と思って、映画祭をやることにしました。卒業生がやっていたカフェを借りて、カフェの名前が22 film caféだったので、22本の自主映画を集めて、名刺も作って近くの学校にポスターを貼ってもらいに行ったり、ほぼ私の帰国前パーティみたいになったんですが、100名くらい来てくれました。
そうして楽しい思い出を胸に帰国して「さて何をしよう」と思っていたところ、ちょうど東京国際映画祭のその年の審査委員長がチャン・イーモウで中国語のボランティアスタッフを募集してたんです。そこで広報部のスタッフに受かりました。あの映画祭って、いろいろな映画会社の人が集まって仕事するじゃないですか。なので、いろいろな映画会社の方に会う度に北京で作った名刺をとりあえず配りまくってたんです(笑)。
私は特にギャガが配給する映画が自分の好みに合ってたのでギャガに憧れてたんですけど、ギャガの方に遭遇したときに「アルバイトで良いからやらせて下さい」って言ってたら、ちゃんとその方が後日連絡をくれて、「亀ちゃんさ〜、チラシ薪きのバイトしない?」って声をかけてくれて、それから4ヶ月チラシ薪き専門のアルバイトをやりました。
マイソン:
チラシ薪き専門のアルバイトってあるんですね。
亀山さん:
そうなんです。当時のギャガはミニシアター系の映画も多く扱ってたので、細かい作業を大事にしてて、カフェとか美容院とかにチラシを薪きに回ってたんですけど、自分で言うのも何なんですが、すごく頑張ったんですよ。そのおかげで上の方にも評価され、内勤のアルバイトに付くことができました。それから11ヶ月くらい経って、今の上司(元ギャガ)がプレシディオに行くことになり、後々就職したいな〜って時に力を思いっきり借りちゃいました(笑)。
マイソン:
すごいですね!自分で勝ち取ったって感じ。中国語を勉強したことがのちのちに繋がってますね。
亀山さん:
たまたまTIFFが中国に関連があったからで、今は使えてないですけどね。でも、この前『ラスト・ソルジャー』でジャッキーの取材をしに上海に初出張に一人で行ってきました。ジャッキーのところにちゃんと通訳さんはいらっしゃいましたけどね。
マイソン:
へ〜。すごいな〜。でもほんと、今のお仕事に就かれた経緯は特殊ですね。同じ業界を目指す方にアドバイスするとしたらどんなことですか?
亀山さん:
私の場合は常に綱渡りですよ(笑)。私は「映画の宣伝がやりたい」ってわけでもなかったけど、「ギャガに入りたい」ってことだけは明確だったのが良かったのかな。何かをやろうとするときに明確なものがあるのが1番早いと思うんですよ。私は「映画」「中国語」というところから、映画制作を学んでみたけど「何か違う」って思い始めて、今は宣伝のお仕事をしてますが、宣伝は誰でもできると言えばできる仕事じゃないですか。
特別な技能が必要なわけでもないから、「とにかく元気がありゃいい」とか「めげない心」とか(笑)。アイデア次第だったり、基本誰でも頑張ればできる仕事なので、今はとりあえずそれに挑戦できる道ができたって状態で、まだ極めてないからこれからもこの仕事を続けていくんだろうなと思います。
マイソン:
亀山さんがここまでたどり着いたのは度胸があるからなんでしょうね。
亀山さん:
昔は人と話もできない子で、お母さんの後に隠れちゃうような感じで、基本的に目立つことをしたくないし、すごく面倒くさがりだから海外にも行きたいと思ったことなかったし。でもあるときから「これじゃいけないな」と思い始めて、自分と戦ってました。「何かしなきゃ」と思う自分の方が大きくなって、何かを起こすために中国に行って、すごく楽しくて本当に行って良かったなと思います。考え方もすごく変わったし、いろいろなことに対して楽しみ上手になりました。中国語はペラペラにはならなかったけど、世界中に友達ができたし、自分の人生にとっては必要だったんだなと思います。
マイソン:
なんだかドラマチックですね。じゃあ、このお仕事についてみて大変だなと思ったことは何ですか?
亀山さん:
何より仕事時間が長いですよね。もう数ヶ月ちゃんと休んでないですからね。土日にちゃんと休むというのが難しいので、この仕事はそこが耐えられるかどうかだと思います。
マイソン:
納得できるまでの状態にするまでは時間がかかってしまうというか、「作業で何時間」っていう仕事じゃないから、帰宅してお風呂に入ってても、寝ようとするときでも「あっ!」って何か思いついたりしたら企画書に書いておこうとか、そうやってずっと頭は動かしていなければいけないっていうのはありますよね。
亀山さん:
そう!それが疲れるんですよ。でも私、基本的に頭動かすの苦手なんです。最近、頭を使わなきゃいけないから、そこに時間がかかります。単純作業だけなら終わるんですが、センスの問題だったり、1,2日で済む内容でもないし。
マイソン:
じゃあ、宣伝プロデューサーのお仕事をやってみてイメージと違ってたと思うことは何ですか?
亀山さん:
何でもやるんだなと思いました。会社の規模次第でクリエイティブ・チームなど各担当部署がある会社もありますが、うちの会社は人数が限られているので、私が宣伝の方向性を考えて、メイン写真も決めて、ポスターや予告編、HPのディレクションまでやるし、パブの売りこみも、タイアップも広告バイイングもするし、本当に何でも自分でやるんです。宣伝プロデューサーとしては全部を考えなければいけないので時間が足りないですね。さらに同時に複数のタイトルをやらなければいけないときは大変です。
マイソン:
じゃあ、今後結婚して、子供ができたら…と将来的に考えたらこの仕事はどうですか?
亀山さん:
絶対にこの仕事をずっとやりたいってわけでもなくて「専業主婦なら専業主婦で楽しめる」と思うんですよ。子供ができたら子供と一緒にいたいし。この仕事は特にそんな生活できないし、ほかの人に迷惑かけるだけなので、大きい企業ならできるのかも知れないですが、今の私の環境では難しいですね。
うちの母がずっと専業主婦なんですけど、パートをして自分のお金で毎年海外旅行して、でも家のことをすごくちゃんとしてくれてて、それがとっても理想だなと思って。うちは母が家の中をいつも綺麗にしてくれてて、ちゃんと朝ご飯も出してくれる、でも母は遊ぶときは思いっきり遊ぶ、そういうのが自分にとっても理想なんです。家の中がちゃんとしてないと旦那が帰ってこないとか、子供がやさぐれてくると思うんですよね。だから家庭が多少荒れてるけど仕事をしたいというより、私は家庭をちゃんとしたいですね。
マイソン:
いや〜、いろいろな考え方の女性がいておもしろいですね。では、男女の差を感じたことはありますか?
亀山さん:
たまに媒体の方が男性だと「女子しか会わない」という方もいると聞いたことはありますよ。ご飯に誘われれば行かなきゃいけないこともあるだろうし。そういうのがうまく対処できない人は苦労するかも知れないですね。でも、そこで打ち解けて、その後の仕事がうまくできるようになるきっかけでもあるので良いこともあります。
マイソン:
映画を広く紹介してもらうためにはコミュニケーションが大事ですもんね。では宣伝マンにとって必要なものって何ですか?
亀山さん:
コミュニケーション能力、バイタリティですかね。あと一歩の頑張りが大きい差になると思うんですよ。なんかトップ・アスリートみたいなこと言ってますけど(笑)。でもイチローとか超感動するんですけど、ああいうすごい人って皆死ぬほど努力してるけど表には見せてないだけで言葉に説得力があるじゃないですか。そりゃその一歩ができなければ勝てるわけないし、追いつけるわけないし…と思ったら、今そこを自分に課しているところでもあります。あとは楽しくないとできないですよね。この業界って映画好きの人ばっかりではないので、映画が好きかどうかよりも仕事そのものを楽しめれば続けられると思います。
マイソン:
なるほど。やっぱり何でも楽しむっていうのが大事なんでしょうね。
マイソン:
では今担当の作品についてですが、まず『ラスト・ソルジャー』はジャッキー・チェンの作品っていうことで宣伝しづらい部分としやすい部分とあると思いますが、どうでしょう?
亀山さん:
ジャッキーは誰でも知ってるスターなのに、ジャッキーの映画を映画館で観たことがある人って意外に少ないと思うんですよ。ジャッキー作品がテレビでやってると思わず観ちゃうと思うんですけど(笑)。なのでまずは映画館で観てくれていた年齢層に響いて欲しいなと思って、「ジャッキー三本立てイッキミ」というイベントをやりました。30代以上の男性が多くて自分の子供を連れてきて下さったり、ジャッキーは世代で受け継がれていくんだなと思いました。
あとはやっぱり大衆的に人気のスターなのでジャッキーはテレビで露出するのが1番効果的だなと思って来日も依頼してたんですが、新作の撮影で実現しませんでした。コメントだけでも露出したかったんですけど、本作が今年日本で公開されるジャッキー作品としては3本目なので、どこもお腹がいっぱいな状態で苦労しました。
でも今のテレビ業界の番組担当の方がちょうどジャッキー世代なので、映画紹介はいっぱい入れてもらえたのが良かったです。それにテレビスポットを打って、『酔拳』を放送してもらったりもしました。「SMAP×SMAP」さんではジャッキー・チェン王決定戦なんて大きい企画もやってもらいました。
マイソン:
俳優の知名度はあるけれど、あり過ぎても違う面で大変なんですね。では『パラノーマル・アクティビティ第2章/TOKYO NIGHT』はどうですか?
亀山さん:
1作目は「135万ドルで1億ドルのヒットを出した」というフックがあったけど、2作目ではそこまでのフックはない。とは言え、日米同時続編という異常事態だったり、アメリカ映画の続編が日本で作られるという話題性をうまく浸透させたいと思いました。あとは体感型ムービーなので、「あの感覚を“また”味わいに来ないか?」ってことで、1作目がある程度ヒットしたのでその続編とわかるように早めにテレビスポットを打ちました。「怖い者知らず試写会」をやって、猪木さんと蝶野さん、ヤンキー100人を呼んで怖がっている様子を撮って見せるということもやってます。
マイソン:
猪木さん、蝶野さんってだからか〜(笑)。では最後にご担当の2作品について、読者の方におすすめコメントをお願いします。
亀山さん:
世界的スターのジャッキーが皆さんに伝えたいメッセージがあります。私はすごく感動して泣いちゃったんですよ。なので、たまにはジャッキー作品を映画館で観てみてください。絶対損はさせません!
『パラノーマル・アクティビティ第2章/TOKYO NIGHT』は、本当に映画館で観なきゃ行けない映画だなと思って、前作もそうだったんですけど。私は何度も観て、いい加減怖くなくなってるかなと思ったんですが、ある日女子大生100人と私で観るという機会があって、皆が驚いて「きゃー」って言っている反応が本当におもしろくって、でも教室中に響く皆の声でだんだん怖くなってきて、そういう皆で大人数で観るからこそ存在する相乗効果もあるので、ぜひ映画館で体感して欲しいなと思います。且つ、中村蒼君が超可愛いですよ。
2010年11月8日取材
2010年11月13日劇場公開
監督:ディン・シェン
出演:ジャッキー・チェン/ワン・リーホン
配給:プレシディオ
©2010 JACKIE & JJ PRODUCTIONS LTD
■映画判定&デート向き映画判定
■TJE Selection イイ男セレクション/ワン・リーホン
2010年11月20日劇場公開
監督:長江俊和
出演:中村蒼/青山倫子
配給:プレシディオ