映画のお仕事は、監督・女優以外にも数え切れないほどの種類があります。プロデューサー、照明、音響、衣装、メイク、宣伝、劇場営業…。映画を作る現場から、映画をユーザーに届けるところまで、さまざまな現場で働く女性にお会いする機会があれば、お話を聞いて、現場の状況などを掲載できればと思います。
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今回はドキュメンタリー映画の監督にインタビューをさせて頂きました。ニューヨークに在住し、以前はNHKの報道番組を制作したり、番組でリポーターを務めていた佐々木芽生さん。映画初監督作『ハーブ&ドロシー』の制作秘話と合わせてお話を聞きました。
PROFILE
北海道札幌市生まれ。青山学院大学仏文科卒。1987年渡米以来、ニューヨークに在住。1990年初めに起きた「ベルリンの壁崩壊」のとき、東欧へ単独で渡り、現地の様子を伝える写真とエッセイを『Yomiuri America』などで連載。これを機にフリーのジャーナリストになり、1992年、NHKニューヨーク総局勤務。『おはよう日本』でキャスター、『ワールド・ナウ』レポーターとして、ニュース・ディレクターなどを務める。1996年に独立し、NHKスペシャルなどの大型シリーズを中心にテレビドキュメンタリーの取材、制作に携わる。2002年、映像制作プロダクション(株)ファイン・ライン・メディアをNYで設立。2008年、初の監督・プロデュース作品『Herb & Dorothy 』を発表し、全米各地の映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞、観客賞を受賞。
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マイソン:
監督ご自身はもともとアートに興味があったわけではなく、テレビ番組の取材でハーブとドロシーに会われたんですよね?
佐々木監督:
そうです。NHKの番組取材でクリスト&ジャンヌ=クロードの展覧会の取材をしたら、たまたまハーブとドロシーのコレクションだったので、そこで始めて二人の話を聞きました。
マイソン:
NHKにお勤めになった経緯は映像業界には興味があったからでしょうか?
佐々木監督:
映像というよりも報道、ジャーナリズムの方に興味がありました。始めは私も文章を書いたり、写真を撮ったりして、戦場カメラマンになりたいと思ったこともあります(笑)。半年くらいで諦めましたけど。
マイソン:
へ〜すごい!ではどちらかというと事実をいかに伝えるかということに興味がおありだったんですね。今回は監督とプロデューサーをやっていらっしゃいますが、始めはデジカメで撮り始めて、途中から「これはちゃんと撮らなければいけない」と思ったとのことですが、ご自分で監督をしようと思った理由は何ですか?
佐々木監督:
始めは監督だとかプロデューサーだとか全然考えてなくて、自分でデジカメを回していればドキュメンタリーの一本くらい作れるんじゃないかとすごく軽い気持ちだったんですね(笑)。だから、「頑張って監督やろう!」みたいな決意よりも、自分がこの二人に感動したとおりのことを伝えたいと思って監督をやることにしました。でも日本語で「映画監督」ってすごく言葉に重みがあるので、最初は慣れなくて困ったんですけども(笑)。
マイソン:
映画監督になるための学校に行ったわけでも、監督になろうとしていたわけでもなかったそうですが、今作で監督まで自分でやろうと決心するに至ったのは、ハーブとドロシーのどこに一番感動したからなのでしょうか?
佐々木監督:
一般市民で目利きのアート・コレクターとして優れた作品を集めて一流のコレクションを築きましたという話は珍しい話でもいろんなところにあります。でも、この二人がすごいのは集めたコレクションを数点売ればお金持ちになれたし、アートのプロとして生活できたのに、数千点というコレクションを全部ナショナル・ギャラリーに寄贈して、自分たちは全く変わらずに最後まで郵便局員(夫ハーブ)と図書館司書(妻ドロシー)として働き、年金で慎ましい生活を続けているというところだと思います。あとはやっぱりアートをここまで純粋に好きで支援しているという、アートに対する純粋な愛が素晴らしい。本作を撮り始めた頃は、まだニューヨークのアートのマーケットもすごく熱くなっていて、ものすごくアートの値段が上がってたんですね。だから当時アート・コレクター=投資家みたいに見られていたなか、この二人の純粋さには感動しました。
マイソン:
映画のなかで、「ハーブとドロシーは普通の人が気付かないことに気付く」とアーティストの方が言っているシーンがありましたが、監督がずっと接していてこの二人は違うなということはありましたか?
佐々木監督:
自分たちのコレクションについて全く語らないし、たぶん語れない。このアートは綺麗とか、好きとかって言い方はするけど、解釈をつけたがらないんです。そこがすごく新鮮でもあり、最初はそれがすごく困りました。どうやってこの二人のドキュメンタリーを撮ればいいのか悩みましたが、逆にこれが二人のすごさというか、素晴らしさ、ユニークさなんですよね。アートを言葉で語らないけど、しゃべる代わりに作品をすごくじっと見るんです。そのときの目が鋭いというか、私たちのほとんどには見えていない何かが彼らの目には映っているというか、見えているんでしょうね。
マイソン:
女性が監督をすることは、ニューヨークと日本で、メリットとデメリットはありますか?
佐々木監督:
アメリカの場合は、性別、年齢、初めてかベテランかなんて一切関係なくて、映画を作る現場では監督が圧倒的なポストなんです。経験がない監督と、ベテランのカメラマンでも、絶対に監督の言うことを聞かなければいけない。そういう意味では命令系統、指示系統がすごくはっきりしてますよね。監督の言うことはみんながどんなにバカみたいだと思っても、絶対に聞かないといけません。そういう意味ではある意味軍隊のようなところです。日本はみんなで話し合って決めるっていう感じですかね。監督であっても、すごく周りに気を遣うというか、監督がベテランなのか初心者なのかどうかというのは周りのスタッフが評価するようなカルチャーがあると思います。私はそういう立場になったことはないですが、聞く話によると、日本では大変な面もあると思います。アメリカでは、本当に作品だけで評価されて、作品についてあれこれ言われても、日本人とか、女性だからとかは一度も言われたことはなくて、そこはやっぱりさすがアメリカって思いましたね。
マイソン:
みんなにチャンスがあるってことなんでしょうか。
佐々木監督:
その半面、ある意味、平等な分、すごく厳しい世界でもありますね。
マイソン:
ハーブとドロシー、そして監督も好きなことを追求するというのを実践された方だと思います。本気で好きなコトを突き詰めて生きるために、一歩を踏み出すには、何をしたら良いと思いますか?
佐々木監督:
たぶん一歩を踏み出せないのは、本気でそれを好きではないんだと思うんです。だからまずは「本気になれる何かを本気で探す」というか、それが見つかったらいてもたってもいられないはずです。一歩を踏み出せないうちは、これをやっておくと楽しそうとか、かっこよさそうとか“考えて”やってるんじゃないんですかね。まずは本当に自分が好きなのかどうかを心に聞いてみたら良いと思います。ハーブたちみたいに、この作品が好きなのか嫌いなのか、ただすごく綺麗とか、おもしろいとか、シンプルにそう思えるかどうかなんですよね。なぜかっていうのは永久にわからないかもしれないし、最初見たとき聞いたときにわからなくても良いと思うんです。自分の心が反応するかどうかだと思います。
マイソン:
ありがとうございました!ではこれから本作を観る方に一言お願いします。
佐々木監督:
アート・コレクターの話ですが、アートを超えて、「私たちが幸せになるには?」というヒントをくれる作品です。だからアートのことがわからなくてもきっと楽しんでもらえる、楽しんで欲しいなと思います。逆にこの作品を観て、アートのことがわからなかったけど現代アートっておもしろいかもと思ってくれたら嬉しいです。
2012年4月9日取材
2012年5月16日DVDリリース(セル¥4,935税込)
監督:佐々木芽生(ささきめぐみ)
出演アーティスト:クリスト&ジャンヌ=クロード/リチャード・タトル/チャック・クロース/ロバート・マンゴールド/ローレンス・ウィナー
発売元ファイン・ライン・メディア・ジャパン 販売元:ポニーキャニオン
自分スタイルを貫き、現代アートへ惜しみない愛を注ぐキュートな二人の老夫婦を追ったドキュメンタリー。夫のハーブは郵便局員、妻ドロシーは図書館司書として働くごく普通の一般人。なのにアート業界から一目置かれるほどになった彼らの秘密は?彼らが作品を選ぶ基準はふたつ。
1. 自分たちのお給料で買える値段であること。
2. 1LDKのアパートに収まるサイズであること。
約30年の歳月をかけて彼らは自身の心の目で作品を選んできた。彼らが選んだ作品のアーティストはやがて売れっ子になり、夫婦のコレクションは、20世紀のアート史に名を残す作家の名作がそろうラインナップに…。
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