映画のお仕事は、監督・女優以外にも数え切れないほどの種類があります。プロデューサー、照明、音響、衣装、メイク、宣伝、劇場営業…。映画を作る現場から、映画をユーザーに届けるところまで、さまざまな現場で働く女性にお会いする機会があれば、お話を聞いて、現場の状況などを掲載できればと思います。
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<PROFILE>
1993年11月8日、ベラルーシ共和国の小さな村落に生まれ、両親ともに聴覚に異常はなかったが、生後2週間で病気のために聴覚を失う。聴覚障害児のための全寮制の学校で学び、ダンスや絵を描くこと、パントマイムの練習を好んだ。卒業後に工業学校に入るが自分が進むべき道ではないと気付き、幼い頃からの夢であった女優を目指すため、キエフ・シアター・アカデミーの劇団<レインボー><ウクライナろうあ者団体>にてろうあの役者の若干名の追加募集があると聞き、学校をやめてキエフに行く。入学志願は通らなかったが、その時に試験官を務めていたミロスラヴ・シュラボツピツキー監督の目に留まり、本作のオーディションを受け、主演に抜擢された。この役のために当時交際していた恋人と別れ、厳しい食事制限をして体重を落とし、尋常でないほどジムで体を鍛え、初演技となる本作に挑んだ。
マイソン:
手話は必ず相手と向き合って話す分、お互いに表情でごまかしが効かないし、声に出すコミュニケーションよりも本心をよりぶつけあっているように感じました。今手話でお話しされている姿を拝見しても、とても表情が豊かで、それは強みではないかと思いますが、女優として健常者、ろうあ者の区別なく、ご自身が特にこういうことは負けないと思う部分はどんなことですか?
ヤナさん:
アナという役はすごく難しい役でしたが、演じることができて良かったと思います。ろうあ者は健常者と違って表情が豊かですよね。感情を込めて表現するということをろうあ者はしないといけなくて、小さい頃から身振り手振りで表現するというのはやってきていますので、ある意味パントマイム的なところは得意だと思います。そういうことを自然にできるのはろうあの人たちの得意な部分というか、良い面だと思います。
マイソン:
手話がわからない私にとって、本作の字幕も吹き替えもないスタイルは新しい視点を与えてくれて、想像力を掻き立てられました。本作が字幕も吹き替えもつかずに世界で上映されることについて、ヤナさんはどんなところに意義を感じますか?
ヤナさん:
表情だけで伝えるということが非常に大切だと思います。観る人が観たままを感じてくれれば良い、そういう映画ではないかと思います。普通の映画の場合は、観ていても目で字幕を追ってしまいますよね。そういうことをやらないで集中できるのではないかと思います。例えば、主人公がバスに乗るときに「何が起きるんだろう」とずっと目が離せないとか、手話がわからなくても(状況は)見てわかります。そういう点も含めて、変化に富んだ映画を作れたと思います。
マイソン:
女優になることが子どもの頃からの夢だったそうですが、女優になりたいと思ったきっかけは何でしたか?またきっかけになった映画が具体的にあれば教えて下さい。
ヤナさん:
6歳のとき最初に『タイタニック』という映画を観たのがきっかけです。ケイト・ウィンスレットさんがすごく素敵で魅力を感じたんです。
マイソン:
そのときは字幕入りで観たんですか?
ヤナさん:
字幕はありませんでしたが、観て自分で勝手ながらイメージができたので、そのイメージを膨らませて観ていました。
マイソン:
今回この映画に出て、日本もそうですが海外に行くなど、女優になってみていろいろな経験をされていると思います。女優になってから一番変化したことは何ですか?
ヤナさん:
視野が広がりました。ずっと本当に普通の生活をしていましたので、全く違う世界に入っていろんなことを知ることができました。今後もっとさらに視野を広げていけるのではないかと楽しみにしています。いろんなことができるし、いろんな繋がりを持って生活をしていくといろんなことが起きると思いますが、それが楽しいです。
今回が演技初体験ながら、フルヌードや、大胆なセックスシーンにも挑んだヤナさんですが、最初は台本に全裸になることは書かれておらず、嫌だったとおっしゃっていました。でも、監督と監督の奥様と充分に話し合い、「どういう意味があって脱ぐのか」など、映画『アデル、ブル−は熱い色』を例にしながら理解を深め、少しずつ脱ぐ練習をして、徐々に撮影を進めていったそうです。ヤナさんをはじめ、初演技の方々とは思えないほどのエネルギッシュでリアルな演技がとても印象的な本作。これは映画史に残る作品だと思います。ぜひ、ご覧ください!
2015年3月17日取材&TEXT by Myson
2015年4月18日より全国公開
監督:ミロスラヴ・スラボシュビツキー
出演:ヤナ・ノヴィコヴァ/グレゴリー・フェセンコ
配給:彩プロ、ミモザフィルムズ
セルゲイが入学したろうあ者の寄宿学校では犯罪や売春などを行う悪の組織=族(トライブ)によるヒエラルキーが形成されていた。入学して早々、彼らの洗礼を受けたセルゲイだったが、彼らの犯罪に関わっていくうちに、組織の中で徐々に頭角を現していく。そんななかリーダーの愛人で、イタリア行きのために売春でお金を貯めているアナを好きになったセルゲイは、アナと関係を持つうちに彼女への独占欲が芽生え、抑制が効かないほどエスカレートしていく…。
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