映画のお仕事は、監督・女優以外にも数え切れないほどの種類があります。プロデューサー、照明、音響、衣装、メイク、宣伝、劇場営業…。映画を作る現場から、映画をユーザーに届けるところまで、さまざまな現場で働く女性にお会いする機会があれば、お話を聞いて、現場の状況などを掲載できればと思います。
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<PROFILE>
1980年3月1日生まれ。成均館大学映画学科を卒業後、韓国芸術総合学校映像院映画科演出専攻専門士課程で学んだ後、2007年の短篇『影響の下にいる男』で、第12回釜山国際映画祭ソンジェ賞を受賞。2008年の短篇『II』では、ソウル国際女性映画祭アジア短篇コンペティション部門で演出力を評価された。2010年の短篇『私のフラッシュの中に入ってきた犬』では、映画監督としての力量をさらに上げ、『私の少女』で長編映画監督デビュー(脚本も担当)。本作は、長編映画デビュー作にも関わらず、カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門に正式出品し、高い評価を得た。
シャミ:
監督は本作で脚本も担当されていますが、この物語はどんなところから着想を得たのでしょうか?
チョン・ジュリ監督:
私自身シナリオを書き上げたあとに、このお話はどこからスタートしたんだろうと振り返ってみたら、二十歳くらいのときにある猫とその飼い主のお話を聞いたことがあって、そのお話からスタートしたことに気づきました。そのお話というのは、始めは飼い主に可愛がってもらっていた猫が、もう1匹の猫が現れたことによって飼い主から疎外されてしまうんです。その猫が飼い主の愛をなんとか取り戻したくて、ネズミの皮を剥がして飼い主のもとへ持っていくんです。猫からすると飼い主を喜ばせるための最善の行動だったのですが、人間である飼い主からするとそれは嫌がらせとしか思えないという悲しいお話なんです。ここだけ聞くと、猫と飼い主の関係って修復不可能のように思えますよね。でもそういった猫と飼い主をどうにか理解し合えるようにしてあげられないかってことが私の心にずっと引っ掛かっていました。
シャミ:
なるほど〜。では、本作にはいじめ、家庭内暴力、同性愛など、いろいろなデリケートなテーマも登場したのですが、そういったテーマを扱うにあたり監督が注意した点と、本作で一番伝えたかったことを教えてください。
チョン・ジュリ監督:
この物語は今お話した、猫と飼い主のお話からスタートしていますが、最初に私が作った人物はドヒ(キム・セロン)の方なんですね。そのドヒという寂しい少女がいて、そんな彼女と出会うヨンナム(ペ・ドゥナ)という人物も必要でした。さっきの話に例えると猫がドヒで、飼い主がヨンナムにあたります。私としてはドヒが自分の寂しさがどれほどのものなのか、全くわかっていない人物として描きたいと思っていました。その彼女を寂しくしている原因が父親からの暴力で、しかも彼女がその暴力に慣れてしまっているということなんです。先ほどの話では、飼い主が猫のことを理解できずにお話が終わってしまいましたが、私はお互いを理解させてあげたくて、そのためにはどんな人物が必要かと考えて作り出したのが、ヨンナムという人物でした。でも寂しいドヒと出会うためには、ヨンナムも寂しい境遇でなければわかり合えないと思いました。ヨンナムの場合はドヒと違って、自分がどれくらい寂しいかを痛いほどわかっているんです。男性中心の警察官の社会のなかで女性幹部として生きていること、しかも同性愛者で、彼女はそういった状況を運命だと受け入れているんです。なので、私がこの物語を描く上で一番気を付けていたのが、寂しさの部分なんです。寂しさを抱えている2人が出会うことでお互いを知り、分かち合い、近づくことができるんだっていう部分を見せたいと思いました。
シャミ:
ヨンナムが男性社会で生きているというお話もありましたが、そういった男性社会での女性の立ち位置について監督ご自身はどう思いますか?
チョン・ジュリ監督:
この映画のなかに出てくるヨンナムの部下たちって彼女をちょっと鬱陶しい存在として見ていますよね。実は私の友達で、警察大学を出て交番所長になった女性がいるんです。彼女から警察という男性社会のなかで女性が生きていくことの難しさや辛さについて、たくさんお話を聞かせてもらいました。でも映画界もまだまだ男性中心のところがあるなって私自身感じることがあります。だからそういったヨンナムの境遇にはすごく共感できました。今回の現場に関しては、主人公の女優さんたちとお仕事ができましたし、ほかの撮影現場に比べたらまだ女性のスタッフの数も多かったので、長編デビュー作なのにすごく良い雰囲気で撮影ができて幸運だと思います。
シャミ:
キム・セロンさんが演じたドヒが、ヨンナムと一緒に夏を過ごすことで、少女から大人に変わっていく様子が印象的だったんですが、ドヒの成長を描く上で監督がキム・セロンさんに指示されたことや演出されたことはありますか?
チョン・ジュリ監督:
そんな風にドヒのことを言ってくださって嬉しいです。ドヒとヨンナムは一緒に夏を過ごしたわけですが、その間の出来事ってドヒにとっては本当に大切で、あの経験があったからこそドヒは変わることができたと思うんです。だからその部分はすごく大事なんです。演出に関しては、セロンに対して特に具体的な指示を出していません。その代わり、ストーリーの流れや内容的な部分を一緒に話し合いました。話し合うことで彼女にドヒを理解してもらい、ドヒが段階ごとに成長していく姿を演じてもらいました。考えれば考えるほどセロンはすごいなって思います。なかなかドヒのキャラクターって理解するのが難しいじゃないですか。こちらは言葉で説明することできますが、実際にそれを体で表現するってすごく大変だと思います。しかもまだセロンは幼く(撮影時14歳)、ドヒを理解することは本当に大変なことだったと思います。でも彼女はしっかりと理解し、ドヒになりきって演じてくれたことが本当にすごいことだと思います。
シャミ:
本当に素晴らしい演技だと思いました。逆にペ・ドゥナさんの方は今ハリウッドでも活躍されているような大女優ですが、監督から見て彼女はどんな女優ですか?
チョン・ジュリ監督:
シナリオを書いているときはペ・ドゥナのようなトップスターと仕事ができるなんて想像もしていませんでした。私も今回が長編デビューの新人ですし、映画が製作されるかさえわからない状態でした。でも運良く製作することが決まり、じゃあヨンナム役は誰が良いだろうって考えたときに、真っ先に思い浮かんだのがペ・ドゥナでした。私が書き上げたヨンナムという人物が彼女にたまたまピッタリだったというわけではなくて、ペ・ドゥナ自身が完璧にヨンナムになりきって表現してくれたから素晴らしい演技を見られたんだと思います。彼女自身は、「ペ・ドゥナという本来の自分を捨てて白紙の状態で、シナリオ書かれた人物を完璧に受け入れて演じます」と言っていたのですが、まさにそうだなって思いました。だから、お互いにヨンナムっていうのはこういう人だって話すと、あとは彼女がヨンナムに成りきって演じてくれるという感じでした。ヨンナムという役もすごくデリケートで難しい役柄ですが、ペ・ドゥナはヨンナムの感情を受け入れて、撮影期間中はヨンナムとして生きてあそこまで見事に表現してくれたのでビックリしました。本当に素晴らしい女優です。
本作は静かななかに熱いメッセージがあるような物語だったのですが、監督ご自身も同じような印象の方で、どの質問に対しても詳しくいろいろなお話を聞かせてくださいました。長編デビュー作にして、大女優ペ・ドゥナとキム・セロンを起用し、さらにカンヌ国際映画祭に正式出品された本作。2人の女性がそれぞれに悩みを抱えながらも支え合う姿を観て、ぜひ共感してもらえたらと思います。
2015年3月26日取材&TEXT by Shamy
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2015年5月1日(土)ユーロスペース、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
監督:チョン・ジュリ
出演:ぺ・ドゥナ/キム・セロン/ソン・セビョク
配給:CJ Entertainment Japan
ある港町にソウルから左遷されたエリート警察官ヨンナムが派出所の所長としてやってきた。ヨンナムはある日、養父と義祖母に虐待される少女ドヒと出会う。ドヒを助け出そうとするヨンナムだが、彼女自身の過去が明らかになり、すべてを失う危機にさらされてしまう。ヨンナムを救おうとドヒはひとつの決断をするが…。
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