映画のお仕事は、監督・女優以外にも数え切れないほどの種類があります。プロデューサー、照明、音響、衣装、メイク、宣伝、劇場営業…。映画を作る現場から、映画をユーザーに届けるところまで、さまざまな現場で働く女性にお会いする機会があれば、お話を聞いて、現場の状況などを掲載できればと思います。
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終戦間際を舞台に少女が女性へと変わっていく姿を描いた映画『この国の空』で、主人公里子の母親・蔦枝役を演じた工藤夕貴さんにインタビュー。母親が娘の不倫を黙認する衝撃な展開や、現代の戦争映画についてのお話を伺いました!
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<PROFILE>
1971年1月17日、東京都生まれ。1984年『逆噴射家族』で映画デビュー。1985年に『台風クラブ』に出演し、その体当たりな演技で国内外から注目を集めた。その後、活躍の場を海外にも広げ、『ミステリー・トレイン』『ヒマラヤ杉に降る雪』などにメインキャストとして出演。1991年の『戦争と青春』では、日本アカデミー賞主演女優賞を受賞。その他に『SAYURI』『佐賀のがばいばあちゃん』『ラッシュアワー3』『リミッツ・オブ・コントロール』『座頭市 THE LAST』『カラカラ』『りんごのうかの少女』など、国内外の映画作品に出演している。今回の『この国の空』では主人公の母・蔦枝役を好演。
シャミ:
この作品は戦争の時代が舞台なのに、家族や恋愛の話を中心に女性の生き様が描かれているように思いました。工藤さんはご自身が演じた役柄についてどう捉えていましたか?
工藤夕貴さん:
私が演じた蔦枝に関しては、すごくおもしろい役だと思いました。この時代のお母さんたちって、人によっては本当に生きることに必死な方もいたと思うのですが、蔦枝の場合はちょっと余裕があるんですよね。家賃収入で食べていくことができるというのもそうですが、女としての自分をすごく持っている人なんです。だから娘に恋愛をさせることも、ある意味自分を重ねている部分もあるんだろうなって思いました。映画では描かれていませんが、もしチャンスがあったら、市毛を私の彼氏にしたいって思っていた部分もあったかも知れませんね。だから娘に対してちょっとヤキモチを焼きつつも、娘が恋を知ることでどう変化していくのか見届けたいという親心とで複雑な気持ちだったと思います。娘からしたら普通お母さんはお母さんであって、女であって欲しくないっていうところがあるじゃないですか。でも蔦枝の場合は、私は女だっていう会話を平気で娘にするので、なんだかおもしろいお母さんだなって思いました。でも、こういう母親もアリなんだなって理解することができました。
シャミ:
娘が不倫に走っているにも関わらず、すぐに反対するのではなく、むしろちょっとそう仕向けているところもあったのでビックリしました。
工藤夕貴さん:
私のセリフに「市毛さんに頭を下げてよろしくって言いたいくらいだ」っていう言葉がありましたが、それは私も母親としてどうなんだろうと思って、監督に質問をしたこともありました。里子は男性を知らずに恋愛を全くせずに死んでいってしまうかも知れない、それではあまりにも不憫だって思う気持ちから、市毛に対して「娘をよろしく、でも傷つけないで欲しい」という複雑な気持ちがあるんですよね。この映画って人間としての部分がすごく生々しく描かれていて、そこを平気で描くところが荒井監督の魅力なんです。戦争中に町に残された人間っていうのは、毎日生きるか死ぬかで悲壮な顔ばかりをしていたわけではなく、恋愛したり、なかには不倫だってあっただろうし、生死のことだけでなくとも、いろいろな状況に追い込まれていくことがあったと思います。だからこの時代って、人間が人間としてすごく生々しくいられる時代だったのかなって思います。そのたくましい生き様に私はすごく魅力を感じます。
シャミ:
確かに人間の生々しい部分はリアルに描かれていましたね。これこそが本当の戦時中の町の様子なのかなって思いました。今回は、二階堂ふみさんと親子役で共演シーンも多かったのですが、お二人で役について話し合いなどされましたか?
工藤夕貴さん:
そんなに難しい話はしていませんが、撮影中はよく一緒にいました。彼女は本当におもしろい若手女優で、良い意味でハングリーさがあって、初めて一緒に現場に入ったときも、私にいきなり英語で会話して欲しいって言ってきたんです(笑)。私もそれに対して全く抵抗がなかったので、撮影中はいつも二人で英語で話していました。英語ってすごく便利な言葉で、私が先輩で彼女が後輩である垣根が一気に無くなって、人間対人間の関係になるので、本心で会話をすることができるんですよ。そういう意味では、彼女とは早く仲良くなれたし、役に関しても自然と親子になれました。
シャミ:
本作は戦後70周年記念作品で、現代の人たちの大半は戦争を知らない世代なのですが、戦争を知らない人たちにどんな風に観て欲しいと思いますか?
工藤夕貴さん:
戦後50周年くらいで私が当時20歳だったときに、戦争映画の主演をしたことがあったのですが、その当時は本物の戦争を知っている人がたくさんいたんです。だから台本のなかでは、当たり前のように戦時中のお話が成り立っていましたが、最近の戦争映画やドラマなどを観ていると、やはり書いている人たちが実際の戦争を知らない人たちが増えているせいか、少し違和感を感じるときもあります。伝わってくるニュアンスや、人間の在り方みたいなものが、昔とは微妙に違うんですかね。だけどこの映画の監督であり脚本家でもある荒井さんは、その時代にすごく近い方なので、本物の空気感がしっかりとあるんです。そういうリアリティある作品なので、ぜひ多くの方に観て欲しいです。
シャミ:
今、最近の戦争映画は20年前と比べると違和感がある作品があるっていうお話がありましたが、ハリウッドでも日本を舞台にした映画がたくさんありますが、工藤さん自身ハリウッド映画と日本映画と経験されて、ハリウッド映画でも違和感を感じていますか?
工藤夕貴さん:
違和感満載ですよ(笑)。やっぱりハリウッド映画は、アメリカのために作っている映画で、日本に向けて作っているわけではありません。最近は史実的なことも含めて、できるだけその国の人が観ても違和感がないように作ろうという動きがあるようですが、あくまでハリウッド映画はアメリカ映画なので、やっぱり日本を描くなら日本映画ですね。
シャミ:
では工藤さんご自身がハリウッド映画に出演するときも、その違和感は割り切って演じているのでしょうか?
工藤夕貴さん:
割り切っていますね。でも自分の役に関しては、自分でコントロールできますから、自分なりにきちっと違和感がない役柄を成り立たせられるように一生懸命考えて演じています。
2015年5月26日取材&TEXT by Shamy
2015年8月8日より全国公開
監督・脚本:荒井晴彦
出演:二階堂ふみ 長谷川博己
富田靖子 利重剛 上田耕一 石橋蓮司 奥田瑛士 工藤夕貴
配給:ファントム・フィルム
昭和20年、終戦間近の東京。母親と暮らす19歳の里子は、度重なる空襲に怯えつつも健気に生活していた。日に日に戦況が悪化していくなか、里子は男性と一度も結ばれることなく、戦争で死んでいくのだろうかと不安を抱えていた。そんななか里子は、妻子を疎開させ隣に一人で住んでいた市毛の身の回りの世話をすることとなる。次第にその世話が喜びへと変わり、いつしか里子の中の“女”が目覚めていく…。
©2015「この国の空」製作委員会