映画のお仕事は、監督・女優以外にも数え切れないほどの種類があります。プロデューサー、照明、音響、衣装、メイク、宣伝、劇場営業…。映画を作る現場から、映画をユーザーに届けるところまで、さまざまな現場で働く女性にお会いする機会があれば、お話を聞いて、現場の状況などを掲載できればと思います。
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今回は、【2015年あいち国際女性映画祭】にてオープニング上映された本作の主演カルキ・ケクランさんにお話を伺いました。インド生まれですが、カルキさんはフランス人。でも劇中ではすっかりインド人に見えるし、障がいを持った役柄もすごくリアルに演じています。役を引き受けるときに、観客が気に入るかどうかは関係なく、自分が楽しめるかどうかだけを判断基準にしているとのことですが、センセーショナルなテーマを扱った本作を演じてみて、何か価値観や、周囲の様子に変化はあったのでしょうか?
ツイートマイソン:
ドゥルヴとキスをしてみたり、ジャレッドと寝てみたり、ハヌムと結ばれたり、後々の気持ちはわかりませんが、最初は恋心よりも好奇心で周囲と接してみたのかなという印象を受けました。それぞれのラブシーンはどんな心境で演じましたか?
カルキ・ケクランさん:
好奇心とおっしゃったのはまさにその通りです。全てのシーンに緊張しましたが、ハヌム(女性)とのラブシーンの方が緊張しました。より親密に、ゆっくりと時間をかけて撮ったシーンで、何テイクも撮りましたが、慣れない部分がありました。ジャレッド(男性)とのベッドシーンはそういう行程を全て飛ばして肝心な部分だけを撮ったので、ハヌムとのシーンよりは楽でした。ただ、両方とも10人くらいのスタッフに囲まれて、自分は裸だったので、どちらも緊張しましたね。
マイソン:
インドでは、障がいを持つ方に対しての理解がまだ浅く、性的描写などにも保守的と聞きました。公開までのハードルが高い作品に出たことで、女優さんとして周囲やご自身の変化はありましたか?
カルキ・ケクランさん:
周囲の反響はとてもポジティブなものでした。インド社会で、独身女性が1人暮らしをするのはすごく難しいんですね。特に女優だったら自由奔放な生活を送ってると思われてしまうので、大家さんが拒否する場合が多いんですが、私が離婚して1人暮らしをしなければいけなくなったときも部屋を探すのに苦労しました。無理矢理、母と一緒に住んでいるということにして、実際にちょっとだけ一緒に住んで、やっと入れました。でも、この映画が公開されてガラリと変わって、皆に愛されるようになって、特に年配の人達が「すごく良い映画だったよ、夕食を食べにおいで」と迎え入れてくれたり、「すごく感動したよ、あなたがあんなに真剣な役者だって思わなかった」って言ってくれて、そういう周りの変化がありました。
マイソン:
カルキさん自身はフランス人で、生まれはインドとのことで、いろんな国のカルチャーと触れられていると思います。ライラもインドからニューヨークに行ったり、新しい世界の価値観を触れたり、カルチャーショックを受けたりしていますが、カルキさんは今回初めて来日してカルチャーショックを受けたことはありましたか?
カルキ:ケクランさん:
カルチャーショックと言えるかわかりませんが、皆がおじきをしてくれるとどうして良いかわからなくて、「私は女王様じゃないから、皆さんやめて〜」と思います(笑)。あと、ホテルのベッドには折り鶴が置いてあったり、愛知の映画祭ではマイクを置くときに音が響かないように敷物があったり、トイレが温かかったり、そういう細かい気遣いが気に入ってます。あとスペースの使い方も、狭い部屋にうまく家具を配置しているなと感心しています。
マイソン:
逆に他の国に行くと、自分の国の良さを逆に知るということもあると思いますが、他の国に行かれたり住まわれたりした際にインドの良さがわかったことはありますか?
カルキ・ケクランさん:
インドを初めて出たのが、大学でロンドンに行ったときなんですけども、行く前はすごく楽しみにしていました。ヨーロッパってカッコ良いしワクワクしてたんですが、実際に住んでみると、個人主義な方が多いようで、インドは常に人が集まって過ごすので、「ご飯を食べにおいでよ」って声をかけてくれたり、家族が不在であっても近所の人が面倒をみてくれるのですが、そういう温かいコミュニティが無いのが、やはりショックでした。
マイソン:
この作品には、身体的障がいや性的マイノリティなどテーマがいろいろありましたが、出演したのをきっかけに、ご自身の価値観に変化はありましたか?
カルキ・ケクランさん:
まず役者として、この役を演じて、リハーサル、準備がいかに大切かというのを学びました。終わっても「まだあんな風にできたな」と細かいところに後悔が残るんですね。6ヶ月間準備しましたが、いかに準備、リハーサルが役に影響するかを学びました。2つ目は、障がい者もしくはセクシャル・マイノリティに対する理解です。インドにおける現状もわかったし、そういう意味ではすごく勉強になりました。3つ目は、人生を楽しむこと、自分を好きになること、許すこと、健常者でも誰でも異なる障がいを持っているということも学びました。人生でそういう贈りものをもらって、それをいかに活かすかは自分次第だっていうことがわかりました。
2015年9月3日取材&TEXT by Myson
2015年10月24日より全国公開
監督・ショナリ・ボース
出演: カルキ・ケクラン/レーヴァティ/ウィリアム・モーズリー/サヤーニー・グプター/フセイン・ダラール
配給:彩プロ
作家になる夢を持つライラは19歳の大学生。生まれつきの障がいがあるが、好奇心旺盛で音楽好きな彼女は、大学では同級生たちとインディーズバンドを組み、家族の支えもあって青春を謳歌していた。そんなある日、ライラが作った歌詞を採用した曲がコンテストで優勝し、秘かに想いを寄せていた同じバンドのボーカル、ニマも大喜び。互いに喜ぶ2人は急接近と思われたが、ニマに恋愛感情が無いことを知り、ライラは深く傷付いてしまう。だが、落ち込むライラの元にニューヨーク大学への留学の話が舞い込み、ライラは心機一転マンハッタンへと向かうのだった。
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