映画のお仕事は、監督・女優以外にも数え切れないほどの種類があります。プロデューサー、照明、音響、衣装、メイク、宣伝、劇場営業…。映画を作る現場から、映画をユーザーに届けるところまで、さまざまな現場で働く女性にお会いする機会があれば、お話を聞いて、現場の状況などを掲載できればと思います。
TOP > 映画界で働く女TOP > 映画界で働く女性にインタビュー&取材ラインナップ > HERE
Huluオリジナルドラマ『フジコ』で、殺人鬼フジコ役を演じ、女優として新境地を切り開いた尾野真千子さんにインタビューさせて頂きました。ドラマのなかでは怖い表情が多かったのですが、実際にお会いするととても明るく、サバサバしたカッコ良い方でした。今回は、衝撃の役づくり法、親から子へと受け継がれる負の連鎖の止め方について聞いてみました!
ツイートシャミ:
フジコは殺人鬼ということで共感できず、最初はやりたくなかったということでしたが、実際に演じてみていかがでしたか?
尾野真千子さん:
今振り返るとやって良かったと思います。この役を演じたことは、私の女優としての成長に繋がりましたし、財産になりました。でも撮影中は正直、辛い気持ちの方が強かったです。「観る人にどんな影響を与えるんだろう?」とか「この役をやってどんな意味があるんだろう?」と、すごくマイナスな方向に考えていたときもありました。撮影が終わったときは「やっと終わった!」って思いましたし、それくらい大変な役でした。だから実際に完成した作品を観たときに初めて、やって良かったなと感じることができました。
シャミ:
フジコは殺人鬼で、共感できる部分を探すのは難しかったのですが、何かの衝動に駆られて一線を越えるか越えないかというところは、私達のなかにも共通する部分があるなって思いました。
尾野真千子さん:
一歩間違ったらダメなことは私達にもたくさんありますよね。でもフジコはそれを何も思わずに、すぐ飛び越えちゃうんですよね。それがフジコの気持ちのリセットの仕方なんです。私達の場合は、ごはんを食べに行ったり、飲みに行ったりして気持ちをリセットするのに、フジコの場合は人を殺して見つかりさえしなければそれがリセットになるという…。本当にとんでもないことを考えますよね(苦笑)。
シャミ:
かなり怖い人だと思います。フジコが衝動に突き動かされて行動する様子は、すごくパワフルでしたが、どんな役づくりをしたのでしょうか?
尾野真千子さん:
きちんと脚本があるので、台詞を言えばそのキャラクターになれるんですよ(笑)。
シャミ:
えー!!台詞を言うだけであんなに恐ろしいキャラになれるんですか!?すごく衝撃です。
尾野真千子さん:
役者は脚本の言葉に助けられている部分がかなりあって、台詞があるからこそ私達はその人になれるんです。例えば、今日の服装やメイクも自分ではこんな風にできません。メイクさんが、この組み合わせが合うと思って、私に用意してくださったんです。そういったアイデアの部分が役者にはないんですよね。だから脚本の台詞や、フジコらしい衣装を用意してもらったからこそ、フジコになれたんです。
シャミ:
でも用意されたものを使って、どう表現するのかは役者さんの力量あってのことだと思うのですが…。
尾野真千子さん:
ただ衣装を着せられて、台詞を言っているのでは確かにダメです。用意して頂いたもの一つ一つをしっかり感じることが大切なんだと思います。スタッフの皆さんがどんなフジコを目指しているのか、どう見せたいと思っているのかを客観的に考えて、台詞として言うといった感じです。もし私が自分でメイクと私服でフジコを演じていたら、全然違うフジコになっていたと思います。私はあくまで内面からフジコを見ていただけなので、スタッフ全員の力が合わさってこの作品が完成しているんです。
シャミ:
では特に大変だったのはどのシーンですか?
尾野真千子さん:
虐待のシーンですね。フジコの旦那役の高橋努さんとは共演シーンが多かったのですが、虐待のシーンの前は彼と「本当に嫌だよね。本気でやったら子ども達が痛いよね」と話していました。撮影のときは、まず大人で試して加減を調整したり、スタントの方のお話を聞きながら臨みました。それでもやっぱり辛かったですね。子どもの心には、叩く痛さだけでなく心にも何十倍にもなって痛みが伝わってしまうから、本当に虐待のシーンは嫌でした。
シャミ:
殺人のシーンも怖くて観ていて辛いと思いましたが、虐待のシーンは子ども達の演技もリアルで本当に心が痛かったです。子役の子達とは、現場で何かお話されましたか?
尾野真千子さん:
虐待のシーンのときは「ごめんね。今からこうやるからね」など、声をかけていました。それ以外では「今、何歳?」とか「学校で何やっているの?」とか、普通の会話をしていました。子ども達は本当に演技が上手でしたが、何よりもその場の空気をちゃんと感じ取ってくれたのが良かったなと思います。私達大人がどんなに伝えようと思って演じていても、子ども達に何も感じてもらえないと、観ている人達にも伝わらないんです。なので本当に良い子達と共演できたなと思っています。
シャミ:
フジコは親に虐待され、自分も子どもに虐待していました。同じような話をニュースでもよく耳にするのですが、そういった負の連鎖を止めるにはどうしたら良いと思いますか?
尾野真千子さん:
止めるのってすごく難しいことですよね。この作品に関して言うと、止められないなって思いました。客観的に考えると、どうにかして止めたら良いのでは?と思うのですが、自分がそうなる可能性だって決してゼロではないので綺麗事は言えません。でも幸せというものをちゃんと見つけようとすれば、少しは気持ちが変わるのかなって思います。例えば「あのとき、あそこに行ったな」と思い出すだけで幸せな気持ちになることもありますよね。そうやって幸せな記憶を思い出すとか、何か幸せなことをするとか、きっかけが必要なのかも知れません。
シャミ:
では女優をしていておもしろいなと思うときや、やりがいを感じるときはどんなときですか?
尾野真千子さん:
芝居をやれること自体がおもしろいなって思います。毎回同じ役をやるわけではありませんし、似たような役であったとしても全然違う人物なので、毎回やりがいを感じています。どの役でも必ず悩むところや苦労するところがあるのですが、すごく悩んでいたときに意外とできてしまったときは、特にやりがいがあったなって思います。
シャミ:
最後に本作のオススメコメントをお願いします。
尾野真千子さん:
フジコに共感はしなくて良いです(笑)。皆さんにとって良い作品なのかどうかわかりません。でも私はフジコを演じ、完成したものを観てとても良い作品になったと思いました。だから皆さんも怖がらずに観てください。
2015年10月23日取材&TEXT by Shamy
2015年11月13日よりHulu/J:COMにて全6話一挙独占配信
演出:村上正典(共同テレビジョン)
原作:真梨幸子「殺人鬼フジコの衝動」(徳間文庫)
出演:尾野真千子/谷村美月/丸山智己/リリー・フランキー/浅田美代子/真野響子
製作著作:Hulu /共同テレビジョン
製作協力:アスミック・エース/ジュピター・テレコム
10歳でクラスメートを殺害し、生涯で十数人もの人間を殺害した稀代の殺人鬼フジコ。ジャーナリスト高峰美智子は、フジコの壮絶な人生に迫るべく、拘置所にいる彼女へインタビューを始める。だが取材のもう一つの狙いは、38年前の未解決事件「中津区一家惨殺事件」の真実を暴きだすことだった。家族を目の前で惨殺されたこの事件のただ一人の生き残りがフジコだった。美智子とのインタビューを重ねるうちに、封印されていたフジコの記憶が紐解かれていき…。
©HJホールディングス/共同テレビジョン ©真梨幸子/徳間書店