映画のお仕事は、監督・女優以外にも数え切れないほどの種類があります。プロデューサー、照明、音響、衣装、メイク、宣伝、劇場営業…。映画を作る現場から、映画をユーザーに届けるところまで、さまざまな現場で働く女性にお会いする機会があれば、お話を聞いて、現場の状況などを掲載できればと思います。
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今回は、実写映画化不可能と言われ続けてきた禁断の漫画「少女椿」を、7年かけて映画化したTORICO監督を取材。ファッション界でも大活躍の女性監督ならではの描写が印象的な作品となっていますが、映画化を実現するにあたり、どんな苦労があったのか、聞いてみました。
<PROFILE>
映画監督、ファッションデザイナー、ファッションブロガーとして活躍する多才な人物。短編映画『ミガカガミ』(2004)が東京ファンタジア国際映画祭、ゆうばり国際映画祭など、国内映画祭で高い評価を受けたのち、新人監督の登竜門として知られる第7回インディーズムービーフェスティバルにて準グランプリを受賞、モントリオールなど7カ国11カ所の映画祭にも招待上映された。さらに劇場映画デビュー作『イケルシニバナ』(2006)は7カ国の映画祭に正式招待。その他、写真集「不思議ノ国ノ」の企画・出版や、数々のクリエイターの作品に女優として多数参加。2012年にはインターナショナルモード誌「NumeroTOKYO」のブログを開始し、ファッション業界で人気のブロガーとしても知られるようになる。2013年11月にアーティスト明和電機が立ち上げたブランド“MEEWEE DINKEE”のデザイナー&ディレクターに就任。40誌以上の媒体に取り上げられ話題となる。
マイソン:
原作に出会った時の印象と、本作を監督することになった経緯を教えてください。
TORICO監督:
原作を読んだのは、ちょうど7年くらい前で、最初は見てすぐに本を閉じてしまいました。見てはいけないものを見てしまった感じで(笑)。それから、自分でプロデューサーを巻き込んで、出版社に行きましたが、最初「できればやめて欲しい」と言われたんです。アニメーション化されたときにものすごく大変なことになってしまい、長らく仕事ができないくらいになってしまったからだそうで、それでも映画化したいのであればということで、NGな表現や言葉を全部言ってくださって、「これ以外のことで撮るんだったら権利をお渡しします」と、映画化権を頂きました。それからいろいろな会社を回って資金集めをしているうちに7年経ってしまいました。
マイソン:
タブーな表現以外に、ここは本当はもっと残酷なシーンだったんだろうと思うところもありました。でもそういったところもうまく描写されていて、脚本の段階でかなり工夫されたのではないですか?
TORICO監督:
とにかく上映できる状態にしなくてはいけないっていうのがありました。原作のまま映画にしたら完全にアウトなので、一生懸命うまくかわしてゴールしたという感じです(笑)。原作に書いてあるようなことが実際に昔あった事実に見えるとまずダメらしいんですね。だから「日本は日本なんですけど架空なんです」という設定にすることでちょっと制限が緩くなったんです。そうやって表現できるよう切磋琢磨しましたね。
マイソン:
脚本作成はどれくらいかかったんですか?
TORICO監督:
7年くらい。
マイソン:
じゃあ最初からずっとなんですね!
TORICO監督:
都度プロデューサーに見てもらって、何度も書き直しました。1回書いたものを壊すのって結構時間がかかるじゃないですか。たぶん20回以上書き直したと思うんですが、原作からものすごく離れてみたり、ものすごく寄ってみたり、自分のなかでこれがおもしろいのかおもしろくないのか判断できないくらい没頭してしまっていたので、ある時1年間一切、手を付けなかったんですね。その後にもう1度書き直して、やっと「これならおもしろい」と言われて、そこからまた再スタートで、いろいろな会社を回って、資金集めをしていきました。
マイソン:
すごい!
TORICO監督:
ガッチリとした世界観で完結されている原作なので、このまま実写化した場合30分くらいになるんですけど、それを90分にしなければいけないのは難しい作業でしたね。
マイソン:
途中、未来なのかなと思う町のシーンがあって、でも映っているオリンピックの年が今でも過去でもないという設定になっていましたが、その辺がさきほどおっしゃっていた設定を変えるということだったんですね?
TORICO監督:
そうですね。昭和90年としていて、もし昭和が終わらなかったらという設定なんです。私は昭和初期がものすごく好きで、いろいろな文献を調べました。「昭和初期は皆が思うようなセピア色ではなく、極彩色だった」というのが原作の丸尾先生との共通認識で、この作品を映像化することで、ああいう世界観になりました。ものすごくアバンギャルドで極彩色でとがっていた時代だけど、それが絵でしか残ってなくて、写真もないんですが、すごくおもしろい時代だったと思います。
マイソン:
なるほど。この映画はエロとグロとカワイさが融合された作品で、世間で長らくもてはやされている“キモカワ”に通じる部分がありましたが、監督はキモカワが支持されるポイントは何だと思いますか?
TORICO監督:
エログロって日本ではすごくマイナスなイメージで括られていますが、ヨーロッパではエログロっていう文化をアートとして見ていて、それを芸術として表現しているというお話を丸尾先生としたことがありました。それは私もずっと思っていて、汚い、気持ち悪い、人にイヤなダークな重い気持ちを与えるものに、美しい絵や映像、衣装をミックスさせることによって、それがアートに変わっていく。重くのしかかる気持ちを持ったまま美しいものを見ると、奥行きができるという感覚を、丸尾先生の漫画にも感じてすごく好きになったんです。そこがたぶん今の日本の方達が言うキモカワに通じるんじゃないかなと思います。だからエログロというものをアートとして、その分野を活性化させていけたら良いと思います。
マイソン:
監督が得意なところが全部この作品にリンクしているような気がしました。エログロという点でいうと、女性監督が撮っている分、観やすかったし、たぶん男性が絡みのシーンを撮ったら、もっといろいろ余計なことをしちゃっただろうと思いました。
TORICO監督:
この原作は女の子にもすごくファンが多いと思うんですけど、鞭棄がみどりに迫るシーンの撮影で、ベテランの男性助監督が「これはエロくないよ。もっと性欲出した方が良いよ」とおっしゃって、私は女子目線で撮りたいので「いや、ここは性欲出しちゃダメなシーンだから」みたいなやりとりは1回ありました(笑)。
マイソン:
あれくらいでちょうど良かったです(笑)。では最後に、映像業界、ファッション業界と幅広く活躍する多才な監督に憧れる女子がたくさんいると思いますが、やりたいことを実現するコツがあれば教えてください。
TORICO監督:
私も実現できてないことはいっぱいありますが、とにかく動く、やってみる。何か事を起こすって、そこに行き着くまでがすごく大変だと思うんですが、腰を上げたらやらないと終われないので頑張るしかないですね。あとは人によってはスロースターターのほうが継続できる方もいるかも知れないですが、自分に合わせてやってみるということくらいかな。
マイソン:
先ほど監督はお友達に映画監督をやってみればと言われてやってみたということだったんですが、やってみればと言われればやってみるタイプですか?
TORICO監督:
いろいろな事に興味があって、いろいろな事をわかりたい、知りたいと思うタイプなので、とりあえず手は出しますね。
マイソン:
じゃあ、やってみてこれは違うなっていう事も沢山ありましたか?
TORICO監督:
いっぱいありますね。やりたくなくてもやってる事だってあるし、すべてにおいてそうですね。お友達とかでも嫌いな人とも仲良くするし、それはいろいろ知りたいからでしょうね。
マイソン:
でもそうやっていかないと、自分に合うものがわからないかも知れないですね。
TORICO監督:
自分に合うものって意外に自分でわかってなかったりするかも知れないですからね。
2016年4月7日取材&TEXT by Myson
2016年5月21日よりシネマート新宿ほか全国順次公開
監督・脚本:TORICO
出演:中村里砂/風間俊介/森野美咲/武瑠(SuG)/佐伯大地/深水元基/中谷彰宏
配給:リンクライツ
母親を病気で亡くしてから1人ぼっちだったみどりは、赤猫サーカス団団長に拾われ、個性的な団員たちと暮らしていた。そこへ、西洋奇術と称する超能力を使うワンダー正光が入団してきたことで、資金難だったサーカス団は連日大賑わい。そうしてワンダー正光が団員のなかでも発言力を持つなか、みどりをお気に入りとして目をかけるようになる。だが、その状況を気に入らない他の団員達は…。
©2016『少女椿』フィルム・パートナーズ