映画のお仕事は、監督・女優以外にも数え切れないほどの種類があります。プロデューサー、照明、音響、衣装、メイク、宣伝、劇場営業…。映画を作る現場から、映画をユーザーに届けるところまで、さまざまな現場で働く女性にお会いする機会があれば、お話を聞いて、現場の状況などを掲載できればと思います。
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トルコの小さな村を舞台に、封建的な習慣によって自由を奪われた5人姉妹の葛藤を美しい映像で描いた『裸足の季節』。2015年カンヌ国際映画祭をはじめ、世界各国の映画祭と映画賞を席巻した本作で、初監督とは思えない才能を発揮したデニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督と、圧倒的な存在感を放つ5人姉妹のうち、末っ子ラーレ役のギュネシ・シェンソイさん、四女ヌル役のドア・ドゥウシルさん、三女エジェ役のエリット・イシジャンさんにインタビューをさせて頂きました。
<PROFILE>
デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン
1978年、トルコ・アンカラ生まれ。フランス、トルコ、アメリカで育つ。ヨハネスブルグ大学院修士課程を経て、フランス国立映画学校(La FEMIS)の監督専攻で学ぶ。本作で2015年カンヌ国際映画祭監督週間のヨーロッパ・シネマ・レーベル賞を受賞したほか、トルコ出身の女性監督によるトルコ語作品ながら、アカデミー賞フランス映画代表に選出される。自国語以外の作品がフランス代表となったのは『黒いオルフェ』(1959)以来、56年ぶり2度目となる。
ギュネシ・シェンソイ
2001年、トルコ・イスタンブール生まれ。オーディションでラーレ役を獲得。現在、アメリカのエージェントと契約中。今後の活躍が期待される。
ドア・ドゥウシル
2000年生まれ。ギュネシ同様、演技未経験ながらオーディションによって監督に見出された。
エリット・イシジャン
1994年、トルコ・イスタンブール生まれ。5人姉妹役のなかで唯一の演技経験者。東京国際映画祭で上映されたレハ・エルデム監督の『時間と風』(06)に出演、『マイ・オンリー・サンシャイン』(08)では主演を務めた。
ミン:
トルコでは現在でも児童婚や強制結婚という保守的な慣習があるということに驚きました。これは、一部の地域や人々に限ったお話なのでしょうか?
デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督:
もちろん一般的な話ではありません。ですが、トルコはとても多様性のある国です。近代的な生活を送る人々がいる一方で、映画に出てくるような古い慣習に対して保守的な人もいます。そういった人々の間で、現在でも児童婚が行われているのは事実なのです。
ミン:
本国でこの作品が公開された際には、保守派の人々から批判的な反応もあったのではないでしょうか?
デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督:
児童婚のような古い慣習に疑問を抱く人々から多くの支援を受けた反面、保守派の人々からはもちろん強い反発もありました。この映画が世に出ることによって、自分たちの思想や文化を裁かれたような気持ちになったのでしょうね。ただ、本作はあくまでラーレの立場になって、この状況を訴えるものです。彼女がどう感じて、何を見たのかということを客観的に描くようにしました。
ミン:
エリットさん以外は、本作が初映画出演で、本格的な演技も初めてということですが、どの様な経緯で出演が決まったのですか。
エリット・イシジャンさん:
私はこれまでに2本の映画に出演したことがあり、それを観たデニズ監督が連絡をくださったんです。本作が女性に関する映画、そして自由を求めて駆け出していく内容だと知り、喜んでオファーを受けました。
ドア・ドゥウシルさん:
私は芸能プロダクションを通じて小さい頃からオーディションを受けていて、その関係でデニズ監督と知り合いました。この作品に参加できたことや、ほかの女優たちと一緒にお芝居をしたことは、とてもすばらしい経験でした。
ギュネシ・シェンソイさん:
私も芸能プロダクションに所属していて、オーディションでデニズ監督に選んでいただきました。力強い女性の物語に参加できて、うれしく思っています。
ミン:
姉妹役の皆さんは、本作を通して世界各国の映画祭で女優賞に輝いたり、「シャネル(CHANEL)」の衣装提供を受けて舞台に立ち、多くの取材陣に囲まれたりもしています。家に閉じ込められている5人姉妹から見れば、想像もできないような世界が目の前に広がっていると思うのですが、皆さん自身は今回得られた経験をどのように感じていますか?
エリット・イシジャンさん:
もちろん、映画の中の生活は実際の私たちとの生活とは大きく異なっています。また、美しい衣装を着て、世界中を回るという幸運にも恵まれています。しかし、それはあくまで娯楽要素の一つであって、この映画に関わることで私たちに課せられた責任というものも、非常に意識しています。
ミン:
出演者である皆さんに課せられた責任というのは、具体的にどういうものだと感じていますか?
エリット・イシジャンさん:
この作品は、世界中の女性に訴えるテーマ性を含んでいると思います。5人姉妹はそれぞれ別の存在で、別の問題を抱えている。なので、置かれている状況は違っても、どこかに自分を重ねて観ていただけると思いますし、さまざまな問題を抱えている女性たちに、あなたたちは決して一人ではない、誰もが特別な存在だと知ってもらえる機会になればと思っています。そういった思いを伝えることが私たちの使命だと思います。
ミン:
とても、すばらしいご意見だと思います。ギュネシさんとドアさんはいかがですか?
ギュネシ・シェンソイさん&ドア・ドゥウシルさん:
私たちも同じ意見です!
ミン:
最後に監督にうかがいます。映画の結末の先には、姉妹たちにどんな未来が待っているとお考えですか?
デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督:
映画の結末が示唆しているのは、ポジティブな彼女たちの未来です。安全地帯に辿り着いたラーレとヌルには、きっとすばらしい人生が開けているでしょう。
2016年6月10日取材&TEXT by min(取材場所:ポニーキャニオン本社)
2016年6月11日より全国順次公開
監督:デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン
脚本:デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン、アリス・ウィノクール
出演:ギュネシ・シェンソイ/ドア・ドゥウシル/トゥーバ・スングルオウル/エリット・イシジャン/イライダ・アクドアン/ニハル・コルダシュ/アイベルク・ペキジャン
配給:ビターズ・エンド
13歳のラーレは5人姉妹の末っ子。10年前に両親を事故で亡くし、いまは祖母の家で叔父とともに暮らしている。学校生活を謳歌していた美しい姉妹たちはある日突然、家に閉じ込められてしまう。古い慣習と封建的な思想のもと、電話を隠され、扉には鍵がかけられ、 自由を奪われた“カゴの鳥”となった彼女たちは、一人ひとり見知らぬ男のもとへと嫁がされる。ラーレは自由を取り戻すべく、ある計画を立てる…。
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