映画のお仕事は、監督・女優以外にも数え切れないほどの種類があります。プロデューサー、照明、音響、衣装、メイク、宣伝、劇場営業…。映画を作る現場から、映画をユーザーに届けるところまで、さまざまな現場で働く女性にお会いする機会があれば、お話を聞いて、現場の状況などを掲載できればと思います。
TOP > 映画界で働く女TOP > 映画界で働く女性にインタビュー&取材ラインナップ > HERE
フラメンコ発祥の地と呼ばれるスペインのアンダルシア地方にある村、サクロモンテ。ロマ(移民)が集うこの地で生まれた“洞窟フラメンコ”と、激動の黄金時代を生きたサクロモンテのフラメンコ・アーティスト達のルーツと真実を記録した本作。チュス・グティエレス監督にお会いして、撮影過程で感じたことや映画製作にかけた熱い思いについて伺いました。
ツイートミン:
本作は民俗文化的にも芸術的にも大変貴重な記録映画だと思います。本作の案内役を務めたクーロさんからは、どういったドキュメンタリーにしてほしい、または、こういった描き方はしないでほしいといったようなリクエストはありましたか?
チュス・グティエレス監督:
クーロが映画の内容について直接意見することはありませんでしたが、ガイドとして常に私を引っ張っていってくれました。例えば、「この場所ではこれとこれが見られるけど、どれが良い?」という感じで提案をしてくれて、私はそこから興味のあるものを選んで撮影をしました。一つだけ言えるのは、彼がいなかったらこのドキュメンタリーは撮れなかったし、撮っていなかったと思います。
ミン:
現地で撮影を進める過程で作り上げていった部分が大きいのですね。ある程度は作品の方向性を決めてから撮影に臨まれたのか、製作や編集の過程で大きく軌道修正をした部分はあるのかというところをお聞かせください。
チュス・グティエレス監督:
本作は私にとって初のドキュメンタリー作品ですが、おおまかな台本や撮影の順序立てもなく、ほぼ“野生の勘”だけで撮影を進めていきました(笑)。自分でカメラを回し、発見し、驚きながら、自由に撮影をしていき、編集の段階で集めた素材を見ながらドキュメンタリー作品としての方向付けをしていったという感じです。
ミン:
激動の時代を生き抜いたかつてのサクロモンテのフラメンコ・コミュニティの人々が、洪水前の暮らしを語るときの明るくチャーミングな笑顔が印象的でした。貧しくとも助け合い、人として大切なことを経験から学び、フラメンコに情熱と生きがいを見出した彼らのシンプルな生き方には、気づかされることも多かったのですが、監督は彼らのコミュニティとしての在り方や生き方についてどのようなことを感じましたか?
チュス・グティエレス監督:
コミュニティでの思い出を語るとき、彼らは感情的でとても幸せそうでした。ただ、それは、彼らにとって子ども時代の思い出であることも大きいと思います。衣服に困っても空腹でも、美しい自然のなかで子どもとしての自由な時間を生きることができた。その記憶がノスタルジックに思い出されたのでしょう。もちろん、親達は身を粉にして働き、誰もが貧困にあえいでいたけれども、コミュニティでは互いに助け合い、一人ではなく皆で一緒に生きていたんです。そして、一度コミュニティを出てしまった彼らにとって、そこは二度と戻れない場所でもあり、その痛みや寂しさのような感情もインタビューからは伝わってきました。
ミン:
野性的で素朴でエネルギッシュな彼らのフラメンコには、心を鷲掴みにされたような衝撃を覚えました。監督が感じる彼らのフラメンコの魅力を教えてください。
チュス・グティエレス監督:
まず、彼らのような高齢のフラメンコダンサーや演奏者のパフォーマンスを見ること自体があまりないですよね。フラメンコといえば激しい踊りが多く、ほとんどのダンサーは年齢を重ねると身体的な問題で引退してしまいます。しかし、彼らの場合は体が動かなくなれば、別の表現方法を見付けていくんです。踊れなくなるのではなくて、どう踊っていくか。年を取るにつれ、どう進化していくかを追い求めている。そこが私にとって一番興味深いところでした。
ミン:
まさに、学ぶべき文化だと思います。最後に、日本で映画製作や監督を志す若者達に、何かメッセージを頂けないでしょうか?
チュス・グティエレス監督:
私が本作を撮った目的は、サクロモンテで育まれた素晴らしい文化とそこに生きた人々の姿を映画として残すことでした。日本でもサクロモンテのように差別された部落があるそうですね。そして、彼らにも素晴らしい伝統文化や芸能があるのに、それが世間に認知されることはほとんどないという話を聞きました。日本で映画製作を志す若い人達や、映画監督には、ぜひそういった文化を記録し、消えないように守ってほしいと思います。誰かが探ろうとしない限り知り得ないようなことや、小さなコミュニティに目を向けることも、映画人としてできることの一つではないでしょうか。
2017年2月16日取材&TEXT by min
2017年2月18日より全国順次公開
監督:チュス・グティエレス
出演:クーロ・アルバイシン/ライムンド・エレディア/ペペ・アビチュエラ/ハイメ・エル・パロン/フアン・アンドレス・マジャ/チョンチ・エレディア/マノレーテ
配給:アップリンク
スペインのアンダルシア州グラナダ県サクロモンテ地区では、かつて迫害を受けたロマ達が集い、洞窟を住居にしながら独自の文化を育んでいった。そのなかで生まれたフラメンコの歌と踊りは、力強く情熱的で世界中を熱狂させる。一時は隆盛をきわめたサクロモンテだが、1963年の水害により人々は住む場所を追われてしまう…。伝説のフラメンコ・コミュニティで激動の時代を生き抜いてきたダンサー、歌い手、演奏者達を再びその地に集め、彼らのインタビューとパフォーマンスを通して、その文化と大地に根付く魂を記録していくドキュメンタリー。