映画のお仕事は、監督・女優以外にも数え切れないほどの種類があります。プロデューサー、照明、音響、衣装、メイク、宣伝、劇場営業…。映画を作る現場から、映画をユーザーに届けるところまで、さまざまな現場で働く女性にお会いする機会があれば、お話を聞いて、現場の状況などを掲載できればと思います。
TOP > 映画界で働く女TOP > 映画界で働く女性にインタビュー&取材ラインナップ > HERE
誰にも言えない秘密を心に抱えた正反対のタイプの女子高生2人が、認知症のおばあさんとの出会いをきっかけに、ぶつかり合いながらも認め合っていく姿を描いた青春映画『ハローグッバイ』。本作でダブル主演を務める萩原みのりさんと久保田紗友さんにインタビューしました。抜群の存在感で今年ブレイク必至と称される二人の若き女優に、本作に込めた思いや、繊細な感情表現を見事に引き出した菊地健雄監督の演出などについて語って頂きました。
ツイート久保田紗友
2000年、北海道生まれ。2013年にドラマ『神様のイタズラ』『三人のクボタサユ』で主演を務め、2015〜2016年に放送されたNTTドコモ「iPhone・iPad」のCM で注目を集める。2016年にはドラマ『世にも奇妙な物語』『模倣犯』、2017年にはNHK連続テレビ小説『べっぴんさん』に抜擢。現在はドラマ『過保護のカホコ』にレギュラー出演中。主な映画出演作品は、『僕は友達が少ない』(2014)、 『アゲイン 〜28年目の甲子園〜』(2014) 、『先生と迷い猫』(2015)
、『疾風ロンド』(2016)など。
ヘア&メイクアップ:宇賀理絵 スタイリスト:瀬川結美子
<衣装クレジット>
萩原みのり ブランバスク/バスク 03-5721-7371
RAINBOW下北沢店 03-6804-9504
久保田紗友 NAIFE 03-5432-9077
ミン:
撮影前の準備期間として、菊地監督とコミュニケーションを取る時間がたくさん設けられたそうですが、具体的にどういったことをされたのでしょうか。
久保田紗友さん:
みのりちゃんとお芝居を合わせたりもしましたし、監督と一対一で話し合う時間を設けていただきました。私は、演技に入る前に、葵として自己分析をするという課題を出されたのですが、“葵はこういう子です”という説明は一切なくて、大事なところだけ監督が言葉を掛けてくださる感じでした。葵は孤独を抱えた子なので、意図的に放っておかれたのだと思います。
ミン:
具体的な演出をするのではなく、演者自身に委ねる部分が大きかったのですね。
久保田紗友さん:
はい。撮影に入ってからも何も言われなくて、不安になることもありましたが、その孤独感を抱えたことで、さらに葵に近づけたと思います。葵として過ごす時間が増えるほど、自分が葵になっていくようでした。芝居しようという感情ではなく、その場で葵としてリアルに感じたことを、撮っていただいたという感じなんです。
萩原みのりさん:
私が最初に監督から指示されたのは、クラスの仲良しグループ役の子達でSNSグループを作ることでした。映画の中に出てくるSNSグループを実際に作り毎日動かして、皆でゲームをしたり、リハーサル終わりにご飯に行ったり。友達同士の雰囲気や距離感が、そこで自然に作られたと思います。でも、紗友ちゃんには敢えて壁を作るようにしていました。
ミン:
そういった役へのアプローチがあってこそ、リアルで瑞々しい演技が生まれたのですね。
萩原みのりさん:
はい。監督は、登場人物一人ひとりとの距離感を丁寧に作ってくださいました。例えば、元カレ役の小笠原海くんとのリハーサルでは、2人が付き合っているという設定のエチュードをやって、その上で別れた後のエチュードをしました。そうすることで2人の微妙な距離感や、ちょっとモヤモヤするような感情も自然と生まれてきたんです。ほかにも、「目をつむってお互いに歩いて、匂いとか、何となく感じる体温で、相手が目の前に来たと思ったら止まって」という課題を出されたんですが、現場でもそういうことを感覚的に意識することができました。気がつけば、自然にはづきとして現場にいることができたんです。
ミン:
微妙な関係性や複雑な感情を撮影前に作り上げるなんて、菊地監督、素晴らしい演出ですね!
久保田紗友さん:
本当に、監督はすごいです。これまでにも、芝居をしているときに、(自分と役が)リンクしていると思うことがありましたが、この作品では、その感覚ともまたちょっと違っていて、朝から夜まで葵でいることができたんです。菊地監督の演出は、直接的な説明をするのではなく、例えば、はづきが部屋に入ってきたときに、「はづきの目を見て」とだけおっしゃるんです。そういうちょっとした動きで、全く違う感情が湧き出てくるんですよね。監督の魔法にかけられました(笑)。
萩原みのりさん:
監督が「じゃあ、次はこの動きを1つ足して」と言うだけで、私達2人の感情が全く変わることもたくさんありました。その感情の一つひとつが映像にちゃんと映っているのが嬉しくて。自分の演技に満足することは一生ないと思いますけど、客観的に自分を見て「芝居しているな」とか「今の演技はイヤだな」とか、この作品に関してはそういうのを一度超えてしまっているんです。撮影現場での自分自身に嘘はなかった、芝居くさいことはしていないって胸を張って言えます。
ミン:
お二人とも、菊地監督のステキな魔法にかかったんですね!撮影が終わった後、萩原さんから久保田さんに「葵役が紗友ちゃんで良かった」というメールを送られたそうですね。どういう気持ちで送ったのですか?
萩原みのりさん:
紗友ちゃんが常に葵でいてくれたから、私もはづきでいられたんです。最初から仲の良い子だったら、全然違う空気感になったでしょうね。お互いに知ってはいるけど、あまり話したことがなくて。だからこそ、撮影前に距離を作ることもできたし、撮影中の距離の縮まり方もリアルに表現できたと思うんです。
ミン:
もたいまさこさん演じる悦子さんと知り合うことで、はづきと葵の関係に微妙な変化が生まれますね。役者の大先輩であるもたいさんとの共演はいかがでしたか。
久保田紗友さん:
演技の上で助けていただいた部分は、もちろんとても大きいですが、現場での在り方も、芝居に入るときの姿勢も、とにかくステキで尊敬してしまいました。常に周囲に気を使われて、その場を和ませてくださるんです。私達が「○○って、おいしそう!」という話をしていたら、さりげなくそれを買ってきてくださったこともありました。
萩原みのりさん:
積極的に私達に話しかけてくださって、もたいさんのほうから仲良くなるきっかけをたくさん作ってくださいました。そのおかげで本番以外の時間も、自然と3人で過ごしていました。もたいさんからも私達のそばに来てくださるし、私達ももたいさんのそばに行きたいし。とにかく、もたいさんのことが大好きで、それが、悦子さんに対する思いとも重なりました。もたいさんは後ろ姿だけでも悦子さんの心情を表現できるのが凄いと思いました。私も、もたいさんのような女優になりたい、もたいさんのような女性になりたいと思いました。
ミン:
映画と同様に、ステキな関係を築かれたのですね。お話を伺うなかで、お二人の作品への強い思いが伝わってきましたし、お芝居に対する真摯な姿勢を感じました。最後に、今お二人が思う、女優という職業の魅力を教えてください。
萩原みのりさん:
普通に生活しているなかでは出会えない感情に出会え、普通なら出会えないような人にも出会える。そして、年齢が離れた人とも、こんなに密にお話ができる職業って、ほかにあまりないと思います。作品ごとに現場の雰囲気が変わるのも、全く違う女の子になれるのも楽しいです。自分とかけ離れた人物像を作り上げるのも、自分自身を深く掘り下げる作業も興味深くて。やればやるほど、女優という仕事と芝居を好きになっています。
久保田紗友さん:
悲しいことや辛いことも、「この経験と感情を仕事に生かそう」って、前向きな力に変えることができます。自分と同じ年齢ではなかなかできない経験や感情を知ることができるのも、この仕事の魅力だと思いますし、今、演じることがすごく楽しいです!
ミン:
お二人とも、とてもキラキラしていて、今後の活躍もますます楽しみです。本日はありがとうございました!
2017年5月17日取材&TEXT by min
2017年7月15日より全国順次公開
監督:菊地健雄
出演:萩原みのり 久保田紗友 渡辺シュンスケ 渡辺真起子
小笠原海(超特急) 岡本夏美 松永ミチル 望月瑠菜 桐生コウジ
池田良 川瀬陽太/ 木野花 / もたいまさこ
配給:アンプラグド
高校2年生のはづきと葵は、同じ教室にいながら交わることのないクラスメート。一見、優等生の葵は人知れず孤独を抱え、その寂しさを紛らわせる為に万引きを繰り返している。一方はづきは、クラスでも目立つ存在だが、元カレとの間に子どもが出来てしまったのではないかと一人悩んでいた。そんな二人は、あるとき偶然に認知症のおばあさんと出会う。初恋の人にラブレターを渡したいというおばあさんのために、はづきと葵は一緒に初恋の人を探すことにするが…。