映画のお仕事は、監督・女優以外にも数え切れないほどの種類があります。プロデューサー、照明、音響、衣装、メイク、宣伝、劇場営業…。映画を作る現場から、映画をユーザーに届けるところまで、さまざまな現場で働く女性にお会いする機会があれば、お話を聞いて、現場の状況などを掲載できればと思います。
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今回は、震災のあと、家族と離れ、地元で一人暮らす女性の生き様を描いた『生きる街』主演、夏木マリさんにインタビューさせて頂きました。夏木マリさんご自身の生き様もカッコ良いなと改めて感じた取材でした。
<PROFILE>
東京都出身。1973年“絹の靴下”で歌手デビュー。1980年代から演劇活動を開始し、芸術選奨文部大臣新人賞、ゴールデンアロー賞演劇賞、日本アカデミー賞助演女優賞などを受賞。コンセプチュアルアートシアター「印象派」の演出で、パリ・ルーヴル美術館での公演も成功をおさめた。映画出演作は『鬼龍院花子の生涯』(1982)『里見八犬伝』(1983)、『男はつらいよ』(1990)、『千と千尋の神隠し』(2001/声の出演)、『ピンポン』(2002)、『さくらん』(2007)、『パーマネント野ばら』(2010)、『陽だまりの彼女』(2013)、『モアナと伝説の海』(2017/声の出演)など多数。待機作は『犬ヶ島』(2018/5)、『Vision』(2018/6/8)。また、発展途上国の子ども達の教育や、働く女性達を支援する活動“One of Loveプロジェクト”に従事している。
マイソン:
いろいろな支援活動をされていますが、今回出演するというのも、そういう流れが関係あったのでしょうか?
夏木さん:
関係ないですね。ただ震災がテーマだったので、今7年経って忘れてしまう頃だし、上映する時期としては良いんじゃないかしらと思ったのが一つ。あともう一つは、等身大の女性というか、震災に遭いながらも普通に生きている女性の生き方を描く内容だったので、久しぶりにこういう役を演じてみようと思いました。
マイソン:
私自身も知人に被災された方がいて、震災直後はどう接したら良いのか、どう声をかけて良いのか悩みました。あれから時間は経ちましたが、この映画のように、まだ心を置き去りにされている方もいらっしゃると思います。その辺は演じられて、どんな感覚でしたか?
夏木さん:
震災を経験された方は皆、どこか固まっちゃったところがあると思うんですね。私達も最初ロケで行く時に、すごく気を遣ってたんですけど、逆にみんな、大きなことを受けとめて、強くなられてるんです。だから逆にこちらが元気をもらいました。事実として認めつつ、どうして生きてくのか考えて、皆未来に向かって生きてるから、慰めるっていうより、未来に向かっての話をするほうが良いと思いました。例えば民泊客のシーンは、千恵子さんの話を聞くんじゃなくて、自分のことをいっぱい話してくれるお客に、千恵子さんは癒されたような気がする。あの外国人のお客さんが、「漫画が好きで(日本に)来た」とかって、ああいうやりとりで、千恵子さんはすごく癒されたと思うんですよね。だから接している間だけでも、瞬間忘れさせてあげられるとか、そういうことが良いんじゃないかなと思いました。千恵子さんを通してそう思いましたけど、一緒にいる時くらいは何かそういう明るくなるような時間を一緒に持ってあげるのが、一番じゃないかと思います。
マイソン:
今のお話をお伺いして、おっしゃる通り頑張っている方達の姿を観て、逆にこちらが力を頂いているところはすごくあるなって思いました。
夏木さん:
そうですね。“One of Love プロジェクト”という支援活動をやっていますが、最初子ども達に会いに行った時は、何か元気にしてあげようっていうことで行ってたんですけど、こちらが元気にされて帰ってくるっていうか。シチュエーションは違いますけど、当事者はそれを受け入れている、というか受け入れざるを得ない。心配なんだけど、そう感じました。
マイソン:
こういった作品は、震災を忘れないようにという意味合いと、映画としてのエンターテインメント性の両方が要素として必要なのかなと思いますが、今回の映画は、夏木さんにとってどういう位置づけだったのでしょうか?
夏木さん:
時期とやりたい役が合致したので、勇気を持ってやらせて頂いたんですけども、震災があってから、私達はどういう支援に関わったら良いか考えますよね。最初は炊き出し、物資、お金って考えるけど、時間が経つとそういうものはある程度揃っていて、今何を支援しなきゃいけないかっていうと、やっぱり気持ちなんですよね。こういう仕事をしてるので、唄ったり、映画で残したりして、元気づけるのが一番真っ当なやり方だと思ってます。
マイソン:
そうですね。俳優さんのお仕事で凄いなと思うのが、役柄になりきりつつ、演じているのはご自身ということで自分らしさも出ると思うのですが、そのバランスの取り方です。そのバランスはどう取っているんでしょうか?
夏木さん:
いつもはね、自分の作品は、見たこともないような「なんじゃこりゃ!」っていうものを作りたいんだけど、千恵子さんの場合は、見たことのある人をやりたかったの。だからそういう意味では、今回アプローチが逆だったので、いつもとは違って、難しさはありました。千恵子さんという人物は、取材を受けてくださったいろんな人を集めて作った代表者みたいなキャラクターなんです。だけど、一人の人間として演じないといけないから、難易度は高かったですね。
マイソン:
では少し話題が変わりますが、私は夏木マリさんと言えばカッコ良い女性の代表格だと思っているんです。女性としては、年齢を重ねる毎に、歳を聞かれるのが嫌になってくる人も多いと思いますが、夏木さんはこれまでそういう感覚になったことはありますか?
夏木さん:
私は年齢は記号だと思ってるんですよ。だからあんまり気にしないんです。「病は気から」って言葉があるでしょ。今65なんですけど、65だと思って朝起きると腰が痛いですよね。だけど、その記号を意識しなければ元気に起きれます。若くてもしっかりして素敵な人もいるし、歳を重ねてもだらしない人もいる。年齢はそんなに関係ない、その人の生き方だなって思います。
マイソン:
私も年齢は記号だと思うようにします!最後にトーキョー女子映画部の女性読者に向けて、強く美しく生きるコツというか、夏木さんのポリシーみたいなものがあれば、教えてください。
夏木さん:
生きることって、息をしてることじゃなくって、動くこと。だからとにかく動いたほうが良い。動かないと何も発見できない。私は動き過ぎなところもあるんですけど、でも動いて失敗して、動いて失敗してっていう感じで、わかることがいっぱいあって、頭の中で考えてるだけじゃわからないんですよね。女性誌で悩み相談をやらせて頂いて本にもしましたが、やっぱり悩んでる人って動かないよね。頭の中だけで妄想しちゃって。動くって、友達に話しかける行為でもいい、とにかく行動を起こすこと。ひとつ動けば、解決に向かいますよ。「苦しい時ほど笑ってろ」って感じなんだけど、そして笑うことも行動だからね。
マイソン:
素敵なお話とアドバイス、ありがとうございました!
2017年12月21日取材&TEXT by Myson
2018年3月3日(土)より新宿武蔵野館、ユーロスペース、イオンシネマ石巻ほか全国順次公開
監督:榊英雄
出演:夏木マリ/佐津川愛美/堀井新太/イ・ジョンヒョン(CNBLUE)
配給:アークエンタテインメント、太秦
佐藤千恵子は生まれ育った海沿いの町で、夫と2人の子どもと暮らしていたが、2011年3月11日に震災が起き、夫は津波に流されてしまう。だが、夫が帰ってくると信じ続ける千恵子はこの町に残り、娘と息子は町を出て、離ればなれに暮らしていた。だがある日、かつてこの町に住んでいたドヒョンがある人から手紙を託され、千恵子のもとに訪れる。その手紙がきっかけで、千恵子達家族の止まっていた時間がゆっくりと動きだし…。
©2018「生きる街」製作委員会