映画のお仕事は、監督・女優以外にも数え切れないほどの種類があります。プロデューサー、照明、音響、衣装、メイク、宣伝、劇場営業…。映画を作る現場から、映画をユーザーに届けるところまで、さまざまな現場で働く女性にお会いする機会があれば、お話を聞いて、現場の状況などを掲載できればと思います。
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今回は、“おさるのジョージ”の著者、ハンス&マーガレット・レイ夫妻についての長編ドキュメンタリーを撮った、山崎エマ監督監督にインタビューをさせて頂きました。すごく真っ直ぐで、明るくて、元気が良くて、謙虚で、お話を聞いていても、情熱がヒシヒシと伝わってきて、撮るべくしてこの作品を撮られたんだなと思いました。ここで描かれるレイ夫妻の人生もすごく壮絶かつ感動的なので、監督のお話にある作品完成までのいろいろな出来事に、不思議なパワーが影響したと感じずにはいられませんでした。
<PROFILE>
山崎エマ
日本人の母とイギリス人の父を持ち、神戸に生まれる。19歳で渡米し、ニューヨーク大学映画制作学部に進学、卒業した後、ドキュメンタリー業界に就職。2015年、編集と共同プロデュースを担当した長編ドキュメンタリー“CLASS DIVIDE”がアメリカ最大のドキュメンタリー映画祭DOC NYでグランプリを受賞。初長編ドキュメンタリー監督作となる本作では、クラウドファンデングで約2000万円を集めた。最近ではNHKのディレクターとしても活動し、ニューヨークと日本を行き来しながら様々なプロジェクトを手掛けている。
マイソン:
まず、本作を作ろうと思ったきっかけと、今回初の長編ドキュメンタリー監督作として、この題材を選んだ理由を教えてください。
山崎エマ監督:
私は高校まで関西に住んでいたんですが、ニューヨークの大学に行き、卒業して、そのままニューヨークのドキュメンタリー業界に入りました。主にドキュメンタリー映画や、アメリカのドキュメンタリーTV番組の編集マンとして仕事をしていたんですけど、徐々にいろんな経験をして、いろんなものに携わって、自分が監督した短編が世に出たりしたなかで、次は長編を撮るんだと思いました。長編を作るのはやっぱり大変なことで、それに全うできるくらい強烈に魅力のある素材、題材を見つけることが、すごく大事なんです。で、いろいろな本を読んだり、記事を読んだり、人と会っているなかで、“おさるのジョージ”の原作者であるレイ夫妻の話を知る機会があったんです。小さい頃に日本語の本を読んだことはありましたが、それ以降、特に“おさるのジョージ”のことを考えていたわけでもなく、この絵本は誰が描いたんだろうってことも考えたこともありませんでした。レイ夫妻については何も知らなかったので、関係者に実際に起こった事を聞いた時はすごい話だなと思いましたが、“おさるのジョージ”はすごく有名なので、もう絶対に映画があるはずだと思ってました。だから、過去の映画を観ようと思って探したんですが、検索をしてもしても無かったんです。Googleで何回確認しても無い!その時が「コレだ!」っていう瞬間でした(笑)。でもあまりにもすごい話なので、まだ映画を監督したことがない自分がこの話を預かって良いのか、スピルバーグみたいな人が作ったほうが良いんじゃないかとか、最初は悩みました。でも結局これを作った大半の人達は、私の大学時代の仲間で、彼らに後押しされてやろうって決めました。最初のうちはアイデアを盗まれるんじゃないかと思って、内内に進めていたりもしたんです(笑)。いろんな許可や関係者の賛同を得るまでは、大物監督に知られたら取られちゃうって思うくらい、すごいものに出会った感覚があって、そこから3年ちょっとかかったんですけどね。レイ夫妻の虜になって、2人のことを知れば知るほど、「この2人の人生経験と性格とパートナーシップがあったからこそ、“おさるのジョージ”っていうキャラクターは、75年以上経った今でも愛されていて、そういうシリーズが世にあるんだ」って実感したし、それを多くの人に伝えたいっていう想い一つでいろんな困難も乗り越えられました。とっくにこの世を去っている2人の映画を、どうやって情報を集めて、どうやって表現して作れば良いかは、最初からイメージできていたわけではありませんでしたが、コツコツやってきた結果が、去年世界で公開になってという感じです。
マイソン:
レイ夫妻のお話は本作を観て、すごくびっくりしつつ感動しました。“おさるのジョージ”に対するイメージも変わりました。膨大なアーカイブを集めたり、2人に何が起きたのかを調べたり、とても苦労したと思いますが、どこから始めていったんでしょうか?
山崎エマ監督:
2人に直接お話を聞くことはできませんが、2人が生きている間に残した言葉は、当時の新聞記事であったり、彼らの手紙や日記であったり、そういうところにたくさん残っていたので、2人の表現の仕方、2人が周りの人に伝えていた人生の経験を大事にしたいって思いました。あと2人をよく知る方達の記憶、2人がどういう人で彼らからどういう話を聞いたかっていう、その2つを軸に組み立てていこうって思ったんです。だから、100人以上にお話を聞いて、インタビューさせてもらう人を選んで。あとはミシシッピ州の大学に、300箱ほどの遺品、手紙とか日記とか、世に出ていない“ジョージ”のスケッチ、“ジョージ”以外のものも保管されていたので、そこに行って研究をしたり、情報を集めて、それをどう映像にするかを考えていきました。そのなかで、2人がこの世界に残してくれたものっていうのは、ジョージのこういう絵の世界観だから、情報ドキュメンタリーだけではなくて、エンタテインメントもあるというか、その世界観に影響されたドキュメンタリーを作ろうって思って。たくさんの情報の中で、レイ夫妻が自分自身だったら、どう自分達の話を世に出したいかなっていうところに視点を置いて、2人だったら明るく楽しく好奇心溢れるような感じが映像に出るんじゃないかなと思ったんです。レイ夫妻が生きていてこの作品を観たら、「そうだ!これが私達の人生だ」って思ってくれるようなものにしたいと思って作りました。
マイソン:
本当にコツコツと丁寧に作られたのが映画を観ても伝わってきました。どれくらいの年月がかかるかは、計算されていたんですか?
山崎エマ監督:
してないです!3年で終わって良かったなって感じです(笑)。最初の頃はずっとこの作品にかかりっぱなしという状況にはできなくて、1万5千枚以上のアニメを描いてくれたジェイコブ君の分と、私の生活費を稼がなくてはいけないので、私は他の編集の仕事もしていました。彼が生きていく最低限のお金を毎週渡して、彼はそれを2年間やり続けてくれました。2年経った時に、やっぱり自分のお金だけでは無理だという事態がになって、クラウドファンディングで集めたお金で一気に加速していきました。もらったお金で自分は一旦他の仕事を辞めて、これだけをできる期間が3年目にあって、一気に完成に向けて進んでいけたんですけど、「何とかなるだろう」「とりあえずやろう」って気持ちだけで、どうやって世に出るとか、全くわからずにずっとやっていましたね(笑)。こんなに良いものを作ったら、絶対誰かが観たいだろうっていう、それは自分に対する自信ではなくて、レイ夫妻の魅力に対する自信だと思うんですけど。だからそこに不安はなかったし、今こうなっているというイメージはできなかったですけど、それは映画の力っていうよりレイ夫妻の力だと思ってます。
マイソン:
「3年間もどうやってモチベーションを保ったんだろう?」って思ったんですけど、「ああ、ダメだ!」って思う時はなかったですか?
山崎エマ監督:
いろいろ悩みながら出来上がったんですけど、やっぱり仲間が自分と同じようにリスクを背負ってくれて、他の安定した仕事を辞めて短い期間なのにこの作品にかけてくれた人達とか、支払いは後回しで良いからとりあえず撮影してくれた人達とか、そういういろんな人達の想いもあったり、クラウドファンディングをしてからは何千人っていう人達の支持を受けてやっていたので、やめるって思ったことは1度もなかったです。ただ何か困ると、レイ夫妻の新たな情報を知ったり、素敵な話を聞いたりすることで、とにかくこの2人は絶対世の人に知られるべきだっていうことが、一番の支えだったと思います。自分が始めたからにはやり切らないとっていう責任と、クラウドファンディングした後はさらにいろんなプレッシャーと責任を感じましたが、「作品ができあがるだけじゃダメだ。良いものにしないといけない!」っていうことを強く思って毎日やっていましたね。
マイソン:
すごいプレッシャーがあったでしょうね。本当にすごいと思います!あと、サム・ウォーターストンさんがナレーションをやられていましたが、起用のきっかけは何ですか?
山崎エマ監督:
すごい方なんですよね!この映画のナレーションは、老人だけれど子ども心をまだ持っている方にやってもらいたかったんですが、まさかという…。できれば有名人っていうのはもちろんありましたが、無名な人達で作っている映画に出てもらうのは難しいかなと思っていました。でも、たまたまサムさんのお姉さんが、映画に出てくる、ハンスとマーガレットが年老いてから過ごす山奥のウォータービルバレーにずっと住んでいて、レイ夫妻をすごく知っていたんです。そこに足を運んで取材を重ねていると、いろんな案内をしてくれる方がいて、その時はサムさんのお姉さんだとは知らずに、いろいろ良くしてもらってたんです。ある日、サムさんのお姉さんだと知って、協力して頂きました。ハリウッドは直接じゃないと、事務所を通しては難しいと思ったんですけど、直接彼に「ご興味ありませんか?」っていう機会があって、連絡取ったらすぐにやってくれるって言ってくれて。プレミアで完成した映画を観た時は横に座ってくれて、喜びながら観ている彼を見て、やっぱり彼はハンスみたいに子どもみたいな心を持っている方だと思いました。お金にもならないような仕事を全然気軽にやってくれましたが、それもレイ夫妻のおかげでできた繋がりだなと感じます。
マイソン:
レイ夫妻も“おさるのジョージ”の絵で助かった場面もありましたが、監督にもたくさんのミラクルが起こってますよね(笑)!
山崎エマ監督:
もう奇跡です、奇跡(笑)。でも、この映画を観る度に思うんですけど、自分が監督なんですけど、自分の映画じゃないっていう感覚なんです。チーム全員がそれぞれの役割をやってくれたからこそ、自分の想像を超えてくものができて、どの分野においても、こうして欲しいと言えばそれ以上のものが返ってくる。それは映画作りの良いところであって、上手くいく時はこのように絶対1人では成し遂げられないビジョンができると思うんです。これは1作目なので、これから一生かけてそういうレベルの高い経験をしていきたいと思っています。
マイソン:
すごい!では最後に、今後ドキュメンタリーを撮る際に一貫しておきたいと思うことはありますか?
山崎エマ監督:
やっぱり自分は日本を離れて日本がやっと見えたっていう部分があるんです。この作品を作って、アメリカでアメリカ人のためにモノを作ったなかで感じたのは、日本のことを何かしたいということでした。もしかしたら自分の立場や経験上、人よりも貢献できる部分は、日本人のために何か作るのではなく、日本のことを世界の人に伝えたり、世界のことを日本に伝えたりっていうことかなって。もっと大きい話をすると、世界中の無関心を減らす、関心を増やすために、私は映画を通してより良い世界に貢献できればといつも思っています。
マイソン:
ありがとうございました!
2018年7月17日取材&TEXT by Myson
2018年7月16日より全国順次公開中
監督:山崎エマ
出演:ハンス・レイ/マーガレット・レイ
ナレーション:サム・ウォーターストン
配給:エスパース・サロウ
世界中で愛されている“おさるのジョージ”の生みの親、ハンス・レイとマーガレット・レイ夫妻。ユダヤ人の2人がナチス・ドイツの侵攻を逃れ、いくつもの国を渡り歩きながら送った波瀾万丈な人生を、世界中から集めた膨大なアーカイブ映像と、貴重な原画の数々、製作期間3年で描いた15,000枚の手書きのアニメーションで完成させたドキュメンタリー。
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