悪に染まりたくはないけれど、悪に惹かれることもあるー。
でも悪を自覚して悪になる人と、知らぬ間に悪になっている人、悪にならざるをえない人がいます。今回は、悪の定義について考えてみます。
悪の法則
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<本作に観る悪の定義> |
本作に登場するメイン・キャラクターは一人を除いて全員が何らかの形で悪に手を染めています。悪行をビジネスと割り切って関わっている者、悪行をやっておきながら善人であろうとする面を持っていて悪の世界でもがくことになる者、悪行が生きる糧のごとく獲物を狙う根っからの悪人…。最終的に誰が陰謀の糸を引いていたのかが明かされますが、ラストのその人物のセリフの意味を考えてみると、結局何が一番悪なのかを考えさせられます。 もちろん、非人道的に人を傷つける一番の悪党と呼べるキャラクターは明らかにいますが、悪の受動者だからか当事者意識に欠ける人間のほうがタチが悪いかも知れません。本作で登場するチーターが隠喩になっていると考えると、動物は善悪という概念に囚われず、生きるために獲物を殺します。人間の場合は生きるためではなく、欲望を満たすためにあらゆるものを傷つけます。「悪って一体何?」と聞かれたとき、人間の日々のあらゆる行動に悪があるとも言えます。だから、誰しも悪になりうるし、“見た目の悪”が“一番の悪”とは限らないですね。 |
キャプテン・フィリップス
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<本作に観る悪の定義> |
本作に登場する海賊は根っからの悪党というわけではありません。彼らはソマリアという貧しい国で生きる術がないために海賊を業としています。だからなのか、彼らにはあまり罪悪感が見られません。もちろん頭ではわかっていると思いますが、あたかも当たり前の職業かのように淡々と任務をこなそうとする姿には恐ろしさを感じます。主演のトム・ハンクスが来日会見で話していましたが、「生きる目的を持たない若者に銃を持たせるのが一番危険なことだ」というのはそのとおりだと思います。何も失うものがない彼らはあまりにも無謀で、粗野な彼らには船長救出のための交渉もあまり効力がありません。彼らは海賊行為を犯す悪の能動者ですが、一方で先進国に資源を搾取されている国に住む犠牲者の一面も持っています。だから「俺たちがこうなったのは、お前達のせいだ」という主張があっても仕方がないとは思いますが、とはいえ海賊行為が許されるわけではないという複雑な状況です。 こういった状況から生まれる悪は世の中にたくさんあります。となると私たちも知らず知らずに悪の能動者に荷担しているのかも知れません。 |
善悪の区別はきれいごとではないですね。自覚して悪に染まるとき、知らない間に巻き込まれているとき、悪を知りながら見て見ぬ振りをするとき…。悪は誰にとっても近くにあるという現実を感じます。そういう状況のなかで自分はどういう生き方ができるのか、とても考えさせられます。
2013.11.11 TEXT by Myson