ピンチのときこそチャンスというのは本当だと思います。逆にチャンスに見えてもピンチである場合もあります。今回は、そんなシチュエーションが登場する作品をご紹介します。
ツイートミリオンダラー・アーム
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<JB・バーンスタインのピンチとチャンス> |
大口クライアントになりそうだったスポーツ選手との契約を逃してしまったJBの会社は、ことごとく邪魔に入る大手に太刀打ちできず会社継続が困難な状況にまで陥ります。これが一つ目の大きなピンチなのですが、このピンチのおかげで彼は誰も手を付けていないところに目を向けざるを得なくなります。JBが目を付けた野球が未開の地インドは、人口の多さも別格で、野球そのものをインドに普及させることもメリットがあると考えたのです。このアイデアは画期的で斬新ですが、もちろん始めからうまくいくわけがありません。良い人材を見つけるまでにも長い道のりがありましたが、良い人材を見つけたあとが本当の勝負です。素質があるとはいえ、野球未経験のインド人をアメリカに連れてきて野球を覚えさせるのはとても大変。さらにインドの田舎から出てきた若者にとっては、アメリカの生活に馴染むこと自体がかなりハードです。そんないろいろな障害があるなか候補者たちは練習に励みますが、JBはそのあいだに新たなクライアントの獲得に奔走します。経営者であり営業マンであるJBにとっては当たり前のことで、彼が稼がなければ誰が稼ぐのかという状況で、彼は果たすべきことをきちんとやっています。だからこそ、次にくるピンチは素直に受け入れがたい部分があると思うのですが、この次のピンチがあったからこそ、彼独自のアイデアで始めた“ミリオンダラー・アーム”は、インド人初のメジャー・リーガーを生み出すことになるのです。そのいきさつは映画を観て頂くとして、一つの大きな夢や目標を叶えるとき、訪れるピンチは一度ではありません。でもそのピンチのレベルはだんだんと質の良いものになっていくはず。より高度な選択を要求してくるのがピンチで、それは当事者の心の奥にある意志を確かめるような役割を果たしているのではないかと思います。そこで正しい判断ができたときに、そのピンチの大きさに匹敵する、もしくはそれよりも大きなチャンスが巡ってくるのだと思います。 |
マダム・マロリーと魔法のスパイス
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<ハッサンのピンチとチャンス> |
ハッサン一家の大きなピンチは、まずレストランが火事になり母を亡くすという悲しい出来事。でも彼らはそれを乗り越えて新たな地を探して世界中を旅します。そして、インド料理が受け入れられるかわからない南フランスで、レストランを開業するという決断をします。ハッサンたちは懸念しますが、父は決意を変えません。さらに父がレストラン開業の場所に選んだのは、ミシュラン一つ星フレンチ・レストランの目の前。息子たちの猛反対にも折れずに父はここで開業準備を始め、家族も従わざるを得ない状況になります。こう見ると、ハッサンの父はピンチがやってくる前に喜んでこちらから向かっていくからこそ、迷うこともなく意志を貫けるように思えます。逆にこの一家のインド・レストラン開業に驚いたのは目の前でセレブを相手に営業しているフレンチ・レストランの方です。ここの経営者であるマダム・マロリーも黙って見ているわけにはいきません。インド・レストランに対抗意識を燃やし、あらゆる策を講じます。だからお互いにとっていろいろなピンチが訪れるのですが、この双方のピンチのなかでチャンスを得るのが、料理に純粋に思いを注ぐハッサンです。彼はインド料理も重んじていますが、料理への好奇心は底知れず、南フランスにやってきたからにはフランス料理も習得したいと独学をしています。彼のこの姿勢と思いが、このいがみ合う双方のレストランに奇跡をもたらします。ハッサン自身にも、その後ピンチが訪れますが、父譲りなのかピンチに焦ることなく、ちゃんと自分と向き合っているのが自然と伝わってきます。彼を観ていると、ピンチはチャンスに見える状況にただ流されるのを防いでくれるストッパーとも考えられます。 |
何がピンチで何がチャンスなのかは、同じ出来事が起こっても人によって捉え方が違うのではないでしょうか。そのときに世間の価値観や他者の視点で見てしまうのではなく、自分の直感を信じて意志を持つことが大切。ピンチは次にくるもっと大きなチャンスに気付かせてくれたり、チャンスに見えるけれど何か引っかかるような状況に疑問を投げかけ一時停止して考えるきっかけを与えてくれるものだと思えば、チャンスだけでなくピンチも歓迎できますね。
2014.10.14 TEXT by Myson