2016年10月14日より全国公開/PG-12
アスミック・エース
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ある日突然、当たり前のようにそばにいた人を亡くすとは、どういうことか。愛すべき人をきちんと愛してこなかった代償とは、どんなものか。目をそらしていた感情に鋭利に切り込んでくるような、西川美和監督の深い人間洞察を感じる作品です。主人公の人気作家、津村啓こと衣笠幸夫を演じるのは、『おくりびと』以来7年ぶりの主演となる本木雅弘。人と深く関わることを避けながらも、外ヅラばかり気にしている器の小さい男を、情けなくもチャーミングに演じています。そんな幸夫が、妻の死を通してある家族と出会い、“人生とは他者との関わりのなかに存在する”と感じるまでに変わっていく様子を、季節の移ろいとともに、実際に1年をかけて撮影した本作。16ミリフィルムのどこか懐かしい質感も、味わい深く印象的です。幸夫と対照的な個性をもつ陽一役の竹原ピストルや、無骨だけれど鋭い視点をもつ津村啓のマネージャーを演じた池松壮亮など、俳優陣の個性が際立つキャスティングもお見事。幸夫の生き方に影響を与える子ども達の演技も自然で、違和感なく幸夫の感情に寄り添うことができました。誰もが経験する大切な人との別れをユーモラスで辛辣に描き、観た人の心を静かにかき乱す力強さと、優しい余韻の残る作品です。 |
人は、当たり前にある幸せを忘れてしまいがちです。失って初めて大切な人の存在と、その大きさに気付くことすらあるでしょう。そんな後悔を人生に残さないよう、付き合いの長いカップルやご夫婦にこそ、一緒に観ていただきたい作品です。“最近、お互いを大切にできていないな”と感じているカップルは、鑑賞中に我が身を振り返り、居心地の悪さを感じてしまうかもしれませんが、ぜひ禊(みそぎ)としてご覧いただければと思います(笑)。 |
PG-12作品ですので、12歳未満のお子さんが鑑賞する際は保護者の助言と指導が必要です。主人公の幸夫が、妻の旅行中に自宅に愛人を招き入れるシーンなど、際どい描写も出てきます。子ども達の存在が主人公の内面に大きな影響を与えるという内容ですが、ストーリー自体はかなりビターで大人向け。しかし、中学生以上であれば、深い恋愛の部分は理解しきれなくても、大切な人を失うことの悲しみを感じることはできると思います。自分に無償の愛を注いでくれている親や周囲の人々の存在は、当たり前ではなく、とても尊いものです。反抗期バリバリの子ども達にも、本作を観て、そのことを噛みしめてほしいなと思います。 |
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2016.10.5 TEXT by min