>映画に隠された恋愛哲学とヒント集17

『ビフォア・サンライズ　恋人までの距離』から始まり、『ビフォア・サンセット』『ビフォア・ミッドナイト』と、9年ごとに制作されている本シリーズは３部作としてぜひ観てください。列車のなかで知り合った若いアメリカ人男性と、フランス人女性が一夜を共に過ごし、次の再会を誓います。それから9年後のストーリーが『ビフォア・サンセット』。この2作目で9年前にした約束が果たされたかどうかが明かされます。9年後の二人はだいぶ環境も変わっていて一緒になるのは難しい状況に見えますがやはり惹かれ合わずにいられない二人に何か心の変化が起きます。そして、そのまた9年後を描いたのが『ビフォア・ミッドナイト』。どうやら二人は一緒に暮らしているようですが、あんなにロマンチックだった二人も、一緒に生活するとずっとそんなムードでいるのも難しいようです。

哲学的セリフが散りばめられた本シリーズは、主人公のジェシーとセリーヌのかけあいが最大の見どころ。二人の価値観や考え方がセリフによく表れています。さらに、9年ごとに描かれている3部作を通して観ても、時間の経過に伴う心の変化も見受けられます。若いときはやはり恋愛に重点をおきがちだし、二人はまだ学生だったので自分の夢やキャリアと恋愛をリアルに天秤にかけなければいけない状況にはありません。それがまた9年後、そのさらに9年後になると、どんどん二人の生活はいろいろなことに縛られていきます。
『ビフォア・ミッドナイト』では、二人は一緒に暮らしていますが、二人が結ばれるためにそれぞれ犠牲にしてきたものがあるようで、そのことで大げんかに発展します。この大げんかが観客として観るにはとてもおもしろいのですが、これが自分のことになると相当まいってしまうほど衝突します。愛はあるけど生活もあるという状況がとても絶妙に描かれていて、そこには18年前、9年前のロマンチックな二人はいません。きっと長年一緒にいれば、誰もがこうなっていくのだろうとは思いますが、これはこれで素敵です。ロマンチックの先にある揺るぎない絆が芽生えたという状況なのではないでしょうか。こうなってこそ二人の絆が試されるといっても過言ではありません。本人たちはロマンチックだと感じられないかも知れませんが、ここまで突き詰めて向き合える相手がいるという事実は相当ロマンチックですよね。