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ソン・ガンホは作り手の恐れを突破させてくれる俳優『パラサイト 半地下の家族』ポン・ジュノ監督、ソン・ガンホ来日

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映画『パラサイト 半地下の家族』来日記者会見:ポン・ジュノ監督/ソン・ガンホ

映画『パラサイト 半地下の家族』来日記者会見:ポン・ジュノ監督/ソン・ガンホ

第72回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞し、ゴールデングローブ賞では監督賞、脚本賞、外国語映画賞3部門でノミネートされ、2020年2月に開催されるアカデミー賞では作品賞や監督賞にもノミネートされるのではないかと期待されている本作。この度、日本での劇場公開に先駆けて、ポン・ジュノ監督と主演のソン・ガンホが来日しました。

本作の着想についてポン・ジュノ監督は、「映画を観て頂くと、大学生の息子が裕福な家に家庭教師に行くというところからスタートしますよね。僕も1回大学生の時に本当に裕福な家で中学生の男の子の家庭教師をしたことがありました。その時に意図せず裕福な家の中の様子を隅々まで見る機会があったんです。そのアルバイトを紹介してくれたのは当時の彼女でした。その彼女は現在の私の妻でもあるんですね、だからなんとなく映画と似ているところがあるんじゃないかなと思います。幸いにも2ヶ月でクビになったので、この映画の後半の展開のようにおぞましい事件には至らなかったんですけども、シナリオを書いている時には当時の記憶が少しずつ蘇っていました。後半のお話については皆さんお話を控えて頂けると有り難いです」と、ネタバレに配慮しつつ振り返りました。

映画『パラサイト 半地下の家族』来日記者会見:ソン・ガンホ

この構想を初めて聞いた時のことをソン・ガンホは「約4年前だったと思います。ポン・ジュノ監督とは『殺人の追憶』から始まって、シナリオを書き終わってから渡すのではなくて、構想を練っている時から小出しにするという巧妙なやり方で私にお話をしてくださるんですね。4年前初めてこの作品について聞いた時は、貧しい家族、裕福な家族、2つの家族が出てくるお話だと聞いたので、私は当然のことながら裕福な家族のパク社長の役かなと思いました。私はそこそこの年齢ですし、その間に品位も高まりましたし、当然パク社長の役だと思っていましたが、まさか半地下に連れていかれるとは想像していませんでした」とユーモアたっぷりに回想。すると、ポン・ジュノ監督が日本語で「ホントスミマセン」と謝罪し、会場に笑いを沸かせました。

貧困と格差を描いた本作がこれだけ世界で受け入れられている状況について、監督は「是枝裕和監督の『万引き家族』や、ジョーダン・ピール監督の『アス』など、主題的に共通点のある映画が多く撮られているふうに思います。今回『パラサイト 半地下の家族』について多くの国でよく聞かれた反応は、この映画には、富める者と貧しい者に対する善悪の区別がない。悪党やヒーローに分かれているわけではないということでした。明確な悪党、明確な善人が出てこない、だからこそストーリー展開を予想するのが難しかったと聞きました。悪党は間違いなくこの映画には出ていないんですけども、終盤になるとおぞましい悲劇が起こる。そこがまさにこの映画が伝えようとしていることだと思います。善人と悪人に分かれていない、その方向性やこの映画が持つレイヤーというのが、この映画が共感を得ている理由ではないかと思います」と分析しました。

映画『パラサイト 半地下の家族』来日記者会見:ポン・ジュノ監督/ソン・ガンホ

ソン・ガンホは、「貧しい人と裕福な人の葛藤を描くだけではない映画なんですね。表面的にはそう見えるかも知れないんですけども、結局のところ監督が語ろうとしていたのは、私達がどう生きるべきかだと思います。韓国を始め、日本、アメリカ、ヨーロッパ、すべての人が同じように考えさせられる、今の時代を生きている人達にそのように考えさせてくれる、そういったところが多くの人々の共感を呼んだのではないかと思います」と話しました。

今回で4度目のタッグとなる2人ですが、ソン・ガンホはポン・ジュノ監督について「韓国でこの作品の記者会見をした時にお話したのは、これはポン・ジュノ監督の進化の形だということでした。その理由なんですけども、私はデビュー作の『吠える犬は嚙まない』から、私が出演した『殺人の追憶』『グエムル−漢江の怪物−』、出演はしていませんが『母なる証明』や『オクジャ/okja』なども観てきて、彼は20年間ずっと監督として作家として自分が生きている社会を鋭い視点で見つめています。その視線が時に温かかったり、冷淡だったりすることがあるんですが、いずれにしてもそういう状況をすべて抱えて生きていかなければいけないという叫びを感じたんです。そして、監督の世界がどんどんと深まっていき、そして拡張していくという、そういう状況をずっと見守って20年になります。なのでこの『パラサイト 半地下の家族』という作品は、ポン・ジュノ監督の芸術家としての一つの到達点であり、一つ彼が成就した視点に達していると思いました。ですので、ポン・ジュノ監督の進化の終わりは果たしてどこなのだろうか。この作品の次にくるリアリズムの発展はどんなものになるのだろうか、それを考えると怖いようでもあり、でも心待ちにもしています。とにかくドキドキさせてくれる唯一の監督だと感じています」と絶賛しました。

映画『パラサイト 半地下の家族』来日記者会見:ポン・ジュノ監督

ポン・ジュノ監督は、ソン・ガンホについて「私は演出家、監督の立場からお話させて頂くと、ソン・ガンホという俳優の演技をこの世界で最も早くモニターの脇で目撃することができる立場にいます。それは本当にゾクゾクさせられる瞬間なんですけども、全く予想だにしなかったディテールや、動物的な本能のような生々しい演技が目の前で繰り広げられた時、その演技の瞬間を真っ先に目撃できる状況というのが、本当にゾクゾクさせられますし、撮影中毎日のように起こっていることですので、ここで一つ取り上げるのが難しいくらいです。根本的に驚かされていること、重要だと考えている点は、ガンホ先輩を撮影する前、シナリオを書く段階で既に感じられています。この作品のクライマックスで、議論にならざるを得ないとても曖昧な難しいシーンが描かれています。そのシーンのシナリオを書いている時に私はいろいろなことを考えて悩みました。果たしてこのシーンは観客を説得させることができるんだろうか、このシーンを一体観客はどう受けとめるだろうか、ということを悩みながら書いていて、キーボードで作業する手が止まってしまう瞬間があったんですけども、その時そのシーンを演じる俳優がソン・ガンホさんだということを考えた時に安心して、また書くことができたんです。ソン・ガンホであれば観客を説得できるであろうという信頼があったからこそ、書き進めることができたと思うんです。なので考えてみると、シナリオを書いている段階から、恐れですとか、躊躇してしまう、気が小さくなってしまう部分を突破させてくれると気付いた時に、自ら驚かされたんです。本当に根本的な意味で私にとってはそういう存在であり、良いモノを持つ俳優なんだなということに気付かされました」と、称えました。

映画『パラサイト 半地下の家族』来日記者会見:ポン・ジュノ監督/ソン・ガンホ

第一線を常に走ってこられたお2人が、お互いにとても尊敬し合い、すごく仲が良いんだなというのが伝わってきて、とても温かい気持ちになった会見でした。ネタバレ厳禁な作品なので、注意深く話されてましたが、どんな作品になっているのかぜひ劇場で皆さんの目でお確かめください。鳥肌ものですよ!

映画『パラサイト 半地下の家族』来日記者会見:
2019年12月26日取材 PHOTO&TEXT by Myson

映画『パラサイト 半地下の家族』ソン・ガンホ/イ・ソンギュン/チョ・ヨジョン/チェ・ウシク/パク・ソダム/イ・ジョンウン/チャン・ヘジン

『パラサイト 半地下の家族』
2019年12月27日よりTOHOシネマズ日比谷、TOHOシネマズ梅田にて先行公開2020年1月10日より全国公開
PG-12
公式サイト 映画批評&デート向き映画判定

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