昨今、性暴力被害に関するニュースに世の中の関心が向き始めています。そんななか、これまでは封印されてきた事件、何年も前に起きた事件を振り返る内容の映画も作られています。この特集では、その中でも性的同意に焦点を当てて、性的同意とは何かを考えるきっかけとなる作品をご紹介します。
性的同意は法的にどう定められているのか
性的同意がなされているかの判断の1つに、年齢があります。国によって異なりますが、法律では「性交同意年齢」が定められています。
性交同意年齢とは
性的な行為に対して同意をする能力がないとみなされる年齢の下限です。たとえば「13歳未満」とされていた場合、13歳未満の人は性的同意ができない年齢とみなされるという意味です。
【日本】
法務省「性犯罪関係の法改正等 Q&A」には、性犯罪についての法律を簡単に説明したガイドが載っています。その中で、イヤだと思うことを言うこと、それを貫くことが難しい状況で性的行為をされた場合は、「不同意わいせつ罪」「不同意性交等罪」という犯罪の被害にあたると説明されています。そして、イヤと言えない要因として、暴力、脅迫、アルコール、薬物、障害、睡眠、フリーズ状態、虐待、立場による影響力が例として挙げられています。
また、上記のような要因がなくても、「13歳未満の子どもに対して、性的な行為をした場合、あるいは13歳以上16歳未満の子どもに対して、その人より5歳以上年上の人が性的な行為をした場合、その子どもがイヤと思っているかどうか(同意しているかどうか)にかかわらず、「不同意わいせつ罪」「不同意性交等罪」が成立」するとあります。
他にも、下記のような犯罪があります。
■「撮影罪」「提供罪」:人の性的な部位や下着を撮影する行為(被害者が16歳未満の子どもの場合は同意しているかにかかわらず)
■「面会要求等罪」:16歳未満の子どもに対して、性的な行為を目的に、金銭等をあげると言ったり、嘘をついて、会うことを要求したり、性的な画像や動画を送るよう要求する行為(被害者が13歳以上16歳未満の場合は、5歳以上年長の時に犯罪が成立)
詳細はこちら→法務省「性犯罪関係の法改正等 Q&A」
【海外】
以下、法務省「いわゆる性交同意年齢に関する主要国の法制度の概要等」より、抜粋して掲載します。
●アメリカ(州法)
ミシガン州刑法:性交同意年齢を16歳未満としています。なお「13歳以上16歳未満の者に対する性的接触で,行為者が被害者の5歳以上年長者である場合を第四級性犯罪」とするとあります。
ニューヨーク州刑法:「性的行為が被害者の同意なくして行われることが,全ての性犯罪の要件である」とされています。また、被害者が17歳未満である場合には,同意する能力がないとみなされます。
カリフォルニア州刑法:配偶者を除き、未成年(18歳)未満の相手に対して性交を行うと「不法な性交」となります。「行為者よりも3年を超える年少の未成年を相手に,不法な性交を行った者は,軽罪又は重罪のいずれかで有罪」とされています。
●イギリス(イングランド・ウェールズ):性交同意年齢は16歳未満。
●フランス:性交同意年齢は15歳未満。18歳以上の成人が15歳未満の者に性的行為を行うと犯罪。
●ドイツ:性交同意年齢は14歳未満。
●韓国:性交同意年齢は13歳未満。
ネタバレ注意!
映画を観て、性交同意年齢を考える
『コンセント/同意』は実話を基にしており、『メイ・ディセンバー ゆれる真実』は実話をそのまま映画化していないものの基となる実際の事件があります。
コンセント/同意
2024年8月2日より全国公開中
R-15+
監督・脚本:ヴァネッサ・フィロ
出演:キム・イジュラン/ジャン=ポール・ルーヴ/レティシア・カスタ/エロディ・ブシェーズ
REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
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まず、『コンセント/同意』は、社会的立場と年齢的に優位に立つ大人が、幼い子どもの心を巧みに操り、性的搾取を行った実際の出来事を、被害者である女性が大人になってから書籍として暴露し、その小説を原作として映画化されました。告発されたのは、フランスで芸術文化勲章を受賞した経歴を持つ著名な作家ガブリエル・マツネフです。被害を受けたヴァネッサ・スプリンゴラ氏が彼に会ったのは14歳の時で、調べてみると当時のフランスでは性交同意年齢が13歳でした。14歳の彼女が法的に同意ができる年齢とされていたとはいえ、当時50歳のマツネフを相手に対等な関係を築けるとは思えません。マツネフは社会的地位もあったことで、咎められなかったと思われる状況も見てとれます。本作を観ると、法律で子ども達を犯罪から守るのは当然でありながら、それだけでは子どもを守れない難しさを感じます。
メイ・ディセンバー ゆれる真実
2024年7月12日より全国公開中
R-15+
監督:トッド・ヘインズ
出演:ナタリー・ポートマン/ジュリアン・ムーア/チャールズ・メルトン
REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
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『メイ・ディセンバー ゆれる真実』は,1996年に実際に起きた通称“メイ・ディセンバー事件”の当事者のその後を描いています。モチーフとなった実際の事件では、教師をしていた34歳のメアリー・ケイ・ルトーノーが、当時12歳だったヴィリ・フアラアウと不倫をし、懲役7年の実刑判決を受けました。ルトーノーはフアラアウとの関係で妊娠し、獄中で出産しています。この事件は犯罪とされ、ルトーノーは実際に服役したものの、ルトーノーは夫と離婚し、出所後にフアラアウと結婚しました(2018年に離婚)。
『メイ・ディセンバー ゆれる真実』は事件の2人をモデルとしたグレイシーとジョーというキャラクターの物語として描かれており、実際の事件の当事者の物語ではないものの、親子ほど年が離れた男女で、男性は当時子どもだった状況で、その時の感情はどのようなものだったのか、それがわからないまま戸惑う姿が描かれています。本作を観ていると、行為が事件として扱われ、大人が実刑を受けたとしても、そして、2人が結婚したとしても、当時子どもだった側にとっては、人生を大きく狂わされ、子どもだった頃の本心を自分でも理解できないまま苦しみ、過去から解放されることはないのだろうと想像させられます。
先生の白い嘘
2024年7月5日より全国公開中
R-15+
監督:三木康一郎
出演:奈緒/猪狩蒼弥/三吉彩花/田辺桃子/井上想良/小林涼子/森レイ子/吉田宗洋/板谷由夏/ベンガル/風間俊介
REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
『先生の白い嘘』は、主人公が苦しめられる性暴力被害と合わせて、他のキャラクターの経験にも性的同意とは何かが問われるシーンがあります。ある生徒がアルバイト先の年上の女性との関係を問われるシーンがあったり、生徒と先生という立場で私的な交流があったり、そうした場面で、どちらが強い立場なのかが考え方によって変わることや、フリーズ状態で拒絶できない状況に追い込まれるシーンなども描かれています。そして、加害者の歪んだ思考も語られていて、社会の歪みも性加害を生む要因の一つであるとわかります。
どんな関係でも性的同意は必要
さまざまなシチュエーションで考えます。
HOW TO HAVE SEX
2024年7月19日より全国公開中
PG-12
監督・脚本:モリー・マニング・ウォーカー
出演:ミア・マッケンナ=ブルース/ララ・ピーク/サミュエル・ボトムリー/ショーン・トーマス/エンヴァ・ルイス/ラウラ・アンブラー
REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定
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高校卒業を目前にして友達と旅行に来ていたタラは、この旅行で初体験をしようとワクワクしています。そんななか、ホテルの隣の部屋の若者達と仲良くなるものの、タラは望まぬ体験をすることになります。本作では、行為に至る前に、相手から口頭による同意の確認がされています。もしかしたら、観ている方々の中にはタラが拒否したように見えないと感じる方もいるでしょう。そして、その場を去るチャンスはあったはずだと見えるかもしれません。本作を観ると、同意があったか否かの判断の難しさがわかります。まず、タラはフリーズ状態になったと考えられます。さらに、他の友達も含めてグループ同士の関係性ができていたり、そもそも自分が初体験を望んでいたのを周囲に知られていたり、タラは本気で拒否していると示すのが難しい状況に追いやられています。恋愛経験自体も少なく、友達との人間関係もデリケートな思春期には、こうした問題が起こり得ます。万が一、こういう状況に陥った場合に備えて、本作を観て客観的な視点を持って欲しいと思います。
ラ・メゾン 小説家と娼婦
R-18+
監督:アニッサ・ボンヌフォン
出演:アナ・ジラルド/オーレ・アッティカ/ロッシ・デ・パルマ/ヤニック・レニエ/フィリップ・リボット/ジーナ・ヒメネス/ニキータ・ベルッチ
ウラから眺める【視野を広げる・視点を変える】映画特集
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本作は、小説を書くために高級娼館に潜入し、正体を隠して娼婦として2年間働いていたエマ・ベッケルの自伝小説“La Maison”を映画化した作品です。お金を払ってサービスを受ける客は、店で働く女性達に危険な行為を強要します。でも、飲食店など他の業種で考えてもわかる通り、サービスの範囲は決まっているし、何をやってもいいわけがありません。それでも、金さえ払えば何でもできると勘違いした客が、女性達を傷つけます。この背景には、風俗業への偏見と同時にやはり性差別もあるように感じます。
追想
監督:ドミニク・クック
出演:シアーシャ・ローナン/ビリー・ハウル/エミリー・ワトソン/アンヌ=マリー・ダフ/サミュエル・ウェスト
REVIEW/デート向き映画判定/キッズ&ティーン向き映画判定 【映画に隠された恋愛哲学とヒント集】性的プレッシャーの罠
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本作は初夜を迎える新婚夫婦が主人公です。愛し合って結婚した2人ですが、それぞれに抱えているものがあります。夫婦だからといっていつでも好きなようにしていいわけがないし、初夜だからといって夫婦の営みを強制することもできません。お互いの関係が悪いわけではなくても、性的行為が絡むと簡単にいかないこともあります。そんなことを考えさせられる作品です。
引用文献
法務省(2023)「性犯罪関係の法改正等 Q&A」
法務省(n.d.)「いわゆる性交同意年齢に関する主要国の法制度の概要等」
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情報は2023年12月時点のものです。最新の販売状況や配信状況は各社サイトにてご確認ください。
TEXT by Myson
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©2024「先生の白い嘘」製作委員会 ©鳥飼茜/講談社
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