2012年6月26日、本作のPRで来日したリュック・ベッソン監督に単独インタビューをさせて頂きました!数々のヒット作を生み出してきたベッソン監督の映画への思い、本作についてお話をお聞きしました。
1959年、フランス生まれ。17歳で学校を中退し、ゴーモン社でニュース映画のアシスタントとして働き始める。短期間ながらハリウッドで映画製作に関わったのち、製作会社を設立、短編映画『最後から2番目の男』(1981年)で注目され、これを長編映画化した『最後の戦い』(1983年)でアヴォリアッツ映画祭審査員特別賞と批評家大賞を受賞。その後、『サブウェイ』(1984年)、『グレート・ブルー』(1988年)、『ニキータ』(1990年)、『アトランティス』(1991年)、『レオン』(1994年)と立て続けにヒットを記録。1998年にはSF大作『フィフス・エレメント』(公開は1997年)でセザール賞監督賞を受賞。
2012年7月21日より全国公開
監督:リュック・ベッソン
出演:ミシェル・ヨー/デヴィッド・シューリス
配給:角川映画
ビルマ民主化運動のリーダーであり、その非暴力による民主化・人権をめざす闘いを評価され、1991年にアジア女性として初めてノーベル平和賞を受賞したアウンサンスーチーの半生と、知られざる家族との愛の物語。
『最後の戦い』『サブウェイ』『神風』『グラン・ブル−』『ニキータ』『アトランティス』『レオン』『フィフス・エレメント』『ジャンヌ・ダルク』『アンジェラ』『アーサーとミニモイの不思議な国』『アーサーと魔王のマルタザールの逆襲』『アデル/ファラオと復活の秘薬』『アーサーとふたつの世界の決戦』『The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛』ほか
『TAXi』『ダンサー』『TAXi2』『WASABI』『キス・オブ・ザ・ドラゴン』『トランスポーター』『TAXi3』『ミェル・ヴァイヨン』『クリムゾン・リバー2』『アルティメット』『リボルバー』『ダニー・ザ・ドッグ』『TAXi4』『トランスポーター3 アンリミテッド』『96時間』ほか
マイソン:
ミシェル・ヨーさんからオファーを受けたとき、初めはプロデューサーとして御願いされたそうですが、ご自分で監督をしたいと思われた一番の理由は何ですか?
ベッソン監督:
まずこの物語を読んでみて、涙を流しました。本当に感動したので自分で撮りたいと思ったし、他の監督が撮ったら失敗するんじゃないかと思いました(笑)。
マイソン:
ハハハ、なるほど。今作はスーチーさんだけではなく、家族として、特に夫婦としての物語にとても感動しました。
ベッソン監督:
ロミオとジュリエットと同じですよね。ビルマというのはイギリスに支配されていて、それを追い払ったのがアウンサン将軍で日本の助けもありました。その将軍の娘であるスーチーさんが敵対する国のイギリス人と結婚するというのは、ロミオとジュリエットの世界で、シェイクスピア的な映画なんです。
マイソン:
スーチーさんだけが主役ではなく、夫婦2人に焦点を当てる描き方で難しかった点はありましたか?また同時に夫婦両方を深く描くことでより成功したと思える点はありますか?
ベッソン監督:
これは男と女2人で闘った話なんです。両方とも戦士なのですが、女の方は光の中にいて、でも閉じ込められている。男の方は暗いけれど閉じ込められてはいない、そういった裏と表の世界を描きたかったんです。
マイソン:
女性が主役の映画を多く手がけてきた監督は、普段から女性を注意深く観察しているのでしょうか?
ベッソン監督:
男の人だって同じように観察してますよ。ここ30年くらい男性が中心の映画が多いですよね。だから私は女性に注目してますが、普段から観察しているのは男性、女性の両方です。私が今回描きたかったのは人間的側面なんです。アウンサンスーチーさんは伝説的な人と思われていますが、我々も彼女も同じです。誰も彼女のような目には遭いたくない。でも彼女はそれに耐えました。彼女は旦那、家族をとるか、国をとるか選択を迫られました。でも、選ぶことなんてできないんです。愛情というものに隔たりはなく、夫と子ども、祖国、同じように愛することができます。
マイソン:
監督にとって美しい女性とはどんな女性のことを言いますか?
ベッソン監督:
美しさというのは主観的なものですよね。私が綺麗だと思っても、他の人は綺麗だと思わないかも知れないし、外的な美しさと内的な美しさの両方がありますから。ただ、おもしろいのは、内面的に美しい人はそれが外に出てくる。でも、外見的に美しい人が心が美しいかというとそうではない。
マイソン:
フフフ、そうですね。では、男性の強さと女性の強さの違いについて、監督はどう考えていますか?
ベッソン監督:
スーチーさんは体重50sくらいの小柄な女性ですが、20年間ものあいだ、20万の軍勢と(精神面で)闘った、それこそが強さだと思います。マイケルについても同じような強さがありますが、彼の場合は何より彼女に対する愛ですよね。この映画は、愛というものは何であるかを再定義しています。現在は消費社会で、私の車、私の家、私の妻といった考えの人が多いですが、彼女たちのあいだにある愛はとても純粋なものです。彼は奥さんのために、彼女が幸せになれるような愛を持っています。彼にとっては大きな犠牲になるかもしれないけれど、彼女のためにやる。自己中心的な愛ではないのです。
マイソン:
今回この映画で描きたかったのはスーチーさんの偉大さもあると思うんですが、今おっしゃったような人間愛なのでしょうか?
ベッソン監督:
もちろん、そうです。愛がなければ彼女は死んでいたと思います。この映画を観て、世の多くのご主人がきっと目覚めてくれることを祈っています。ですから、女性の方に言いたいんですよね、この映画は旦那を連れてきてくださいねって、ハハハ(笑)。こうやって女の人に接するんだよって言いたいです(笑)。
マイソン:
本当ですね(笑)。
マイソン:
では、監督にとって、映画の成功とは何ですか?
ベッソン監督:
段階がありますが、1つ目は、できる限りのことはやったという自分に対する満足感。自分が最初に思っていたのと同じくらいやりたいという思いで達成できて、自分と映画が相対することができれば、それが最初の成功、満足感ですね。2つ目の成功は、自分の満足感を他の人と分かち合うこと。もちろん、人それぞれ個性が違いますから、この映画を誰が好きで誰が嫌いと言うかはわかりませんけど。
私は韓国の70歳の老人がこの映画をとても気に入ったというのを聞いたし、フランスの10歳くらいの女の子がこの映画が良かったというのを聞きましたが、この2人に共通点は何もありません。なぜ好きかはわからないし、どこが好きなのかも違うと思うんですよね。でも、いろいろな人の共感を得られたということです。先日、韓国でこの映画を上映をしたとき、鶏冠(とさか)みたいな現代的な髪型をした18歳の少年がすごく気に入って、この映画を30回も観たと言っていました。彼はこの出来事が起きていた当時はまだ生まれていなかったわけですが、そういった人たちでもこの映画が好きだという感覚は想像できないことです。チャーリー・チャップリンも私が彼の映画をどんなに好きだったかわからなかったのと同じことだと思います。それと映画を観た人が、その映画の持ち主です。作った人ではないのです。
マイソン:
監督が映画を撮る、作りたいと思う原動力は何ですか?
ベッソン監督:
やはり表現したいという気持ちですね。そして、それを他の人と共有したいということですね。
マイソン:
監督が以前テレビのインタビューで「人がどう思うかではなく、自分が思うとおりにやるのが大事」とおっしゃっていた言葉に感動して、今日お会いして、お話ができて本当に感激でした。ありがとうございました!
ベッソン監督:
誰かは私の作品を気に入るかも知れないし、気に入らないかも知れない。でも、私は自分がやりたいからやってきたんです。アーティストの役割は“ドア”をオープンすること。ピカソが目と鼻をあんな風に描いたとき、当時はスキャンダルだと言われたけれど、今では芸術作品ですよね。彼が自分の好きなように描いていなかったら、あの絵は生まれなかったと思います。僕がピカソくらいすごいと言っているわけではないですよ(笑)。
マイソン:
今日は本当にありがとうございました!
とても柔軟な考えを持ちながら、強い意志のもと作品を作っている監督のお話にとても共感し、感動しました。少し気むずかしそうな印象があったので始めは緊張しましたが、とてもにこやかにラフな感じで取材に応じてくださり、こちらもリラックスしてお話できました。こちらの質問にいろいろな表現で一生懸命お話をしてくださったのがとても嬉しかったです。監督が自ら撮らなければと思っただけあって、本当に良い映画ですので、ぜひ多くの方に観て欲しいと思います。
2012.6.26 取材&TEXT by Myson