今回は、『南極料理人』『横道世之介』などの作品を手掛け、最新作『モヒカン故郷に帰る』が4月9日に公開を控える沖田修一監督にお話を伺いました。数々の人間ドラマを手掛けてきた監督に、本作のアイデアの誕生秘話や人間ドラマのおもしろさについて直撃しました!
シャミ:
本作は故郷に帰って親に結婚報告をするところや、お父さんが病気で倒れてしまうところなど、シリアスな要素もありますが、笑えるところがたくさんあり楽しく観ることができました。
沖田修一監督:
ありがとうございます。テーマが看取りの話ではありますが、あまり重くしたくなくて、むしろ看取りの話だけど笑える映画にできたら良いなと思って作りました。
シャミ:
監督は本作の家族を通してどんなことを伝えたいと思ったのでしょうか?
沖田修一監督:
僕くらいの年代になると、親の具合が悪くなってしまうことが結構あると思うのですが、そういうときに実際どうしたら良いのかわからないというのが本音だと思うんです。それをこの映画で描いて、あたかも自分のことのように共感して頂きつつ、おもしろく観てもらえたら良いなと思いました。
シャミ:
では、監督ご自身は永吉(松田龍平)目線だったということですか?
沖田修一監督:
僕は完全に永吉目線でした。でも人によってはお母さんや由佳の目線で観たり、自分の置かれている状況に合わせてそれぞれ違う目線で観るようです。
シャミ:
なるほど〜。私は由佳目線で観たのですが、あんな風にお母さんと仲良くなれたら楽しいだろうなって思いました。
沖田修一監督:
状況が状況なので、仲良くならざるを得ないところもあったと思うのですが(笑)、普通だったら島に残らずに東京に帰りますよね。由佳だからこそ残ることができたような気がします。
シャミ:
本作は家族の日常が切り取ったように描かれていて、すごく親近感を持てたのですが、監督ご自身はこの家族の日常をどんな風に見せたいと思ったのでしょうか?
沖田修一監督:
特に日常の部分については考えていませんでしたが、撮影しているうちに生まれた良いシーンが結構ありました。例えば由佳と春子が料理をして、皆で食事をするシーンがありますが、そこは思いがけず良いシーンになったので、尺を長めにしました。ほかにもお墓参りの後に歩いているシーンでも、特に台詞があるわけではないのですが、グッとくるものがあったんです。だから特別に意識して日常を描いたというよりも、そういうシーンがあるからこそ日常を切り取っているように映ったのかも知れませんね。
シャミ:
監督は本作で脚本も担当されていますが、この物語のアイデアはどのように生まれたのでしょうか?
沖田修一監督:
まず父と子の話を作りたいというのがあったのですが、よく家族が病気をすると、普段話さないようなことを話すと聞きますよね。それが男同士だとなおさらあるんじゃないかと思い、それを映画として観たらとおもしろそうだなと思ったんです。
シャミ:
主人公がモヒカン頭の息子になったのは、どういうきっかけからだったんですか?
沖田修一監督:
モヒカン頭だと「この人何の仕事をしているんだろう?」とか、「この人が本当に親になれるの!?」って思えるキャラになると思ったんです。もちろん実際にはそうではないモヒカンの方もいるとは思いますが…。
シャミ:
松田龍平さんのモヒカンはビジュアル的にかなりパンチが利いていますよね!それに田舎にこんなモヒカン頭の人がいるっていうギャップもおもしろかったです。
沖田修一監督:
実際、撮影していた島のおばあちゃん達のなかには、松田さんの髪型を見てビックリされている方も結構いました(笑)。普通のモヒカンだとサイドをもっと刈って、綺麗なモヒカンにするはずですが、永吉なので日常生活を送っているうちに脇が生えてきてしまったという、生活感のあるモヒカンが良いなと思い、今回のヘアスタイルになりました。
シャミ:
確かに普通のモヒカンとはちょっと違うヘアスタイルですよね(笑)。ほかの作品も含め、普段はどんなときにアイデアが生まれてくるのでしょうか?
沖田修一監督:
一人で考え込むより、友だちとお酒を飲んでいるときに「それ、おもしろいね!」という話になってアイデアが生まれることの方が多いです。あとは寝ているときですね(笑)。脚本を書いている時期は、寝ているときに良いアイデアが思い付くことが結構あります。
シャミ:
そういえば、ある番組で寝ているときに頭の中の情報が整理されると聞いたことがあります。
沖田修一監督:
僕は以前、宮崎駿さんがドキュメンタリー番組で「困ったら15分寝ろ」と言っていたのを観たことがあります。だから案外寝ることも間違ってはいないのかも知れません(笑)。
シャミ:
煮詰まったときこそ睡眠をとることが大事なんですね!監督は今まで多くの人間ドラマを描いていますが、人間ドラマのおもしろさや、好きなところはどんなところですか?
沖田修一監督:
やっていることは意外とくだらないことで、崇高な何かを持って映画を撮っているわけではないんです。ただ自分で「これは、おもしろそうだな」と思いながら作ると、意外と何か考えるきっかけをくれる作品になったり、想像もしていなかった何かが生まれることがあるんです。そういうところが映画のおもしろいところだと感じています。あとは俳優さん達が、僕がイメージして書いた脚本とは違うイメージで演じてくださることがよくあるのですが、それもまたおもしろいんですよ。そうやって皆がそれぞれ持っているイメージが違うからこそ人間ドラマとしてのおもしろさが映像に表現されるような気がします。だから僕一人ではできない、俳優さん達が紡ぎ出してくれる何かが必ずあると思っています。
シャミ:
今後は、ほかのジャンルも撮ってみたいと思いますか?
沖田修一監督:
人間ドラマやコメディに寄ってしまうことが多いのですが、SFとかも撮ってみたいです。いろいろな作品にチャレンジしてみたいと思います。
2016年3月1日取材&TEXT by Shamy
2016年4月9日より全国公開(広島先行公開中)
監督・脚本:沖田修一
出演:松田龍平/柄本明/前田敦子/もたいまさこ/千葉雄大
配給:東京テアトル
モヒカン頭の売れないバンドマン永吉は、妊娠した恋人の由佳と共に、結婚報告をするために7年ぶりに故郷へ帰った。矢沢永吉好きな頑固親父と、広島カープの熱狂的ファンの母、そしてたまたま帰省していた弟の3人がおり、久しぶりの家族大集合。家族だんらんと思ったら親父のガン発覚。父の願いを叶えるため家族が繰り広げるドタバタを描く笑って泣けるホームドラマ。
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