気難し屋の老人オーヴェの日常とその半生を描き、本国スウェーデンでの劇場公開時には『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』を抑えて5週連続1位の大ヒットを記録した『幸せなひとりぼっち』。
本作の脚本と監督を務めたハンネス・ホルム監督にインタビューをさせていただきました。俳優でもあるホルム監督。実際にお会いすると、その素顔はプロフィール写真の印象よりも数倍ハンサム!突然早くなる自分の鼓動に戸惑いつつも(笑)、本作の見どころや作品に込めた思いなどをじっくり伺ってきました!
PROFILE
ハンネス・ホルム(監督・脚本)
1962年スウェーデンに生まれる。17歳で俳優デビューし、映画やテレビシリーズに出演。テレビのコメディシリーズ『S*M*A*S*H』(1990)では、出演、監督、脚本をこなし、『One In a Million』(1995)で長編監督デビュー。『Adam & Eve』(1997)ではスウェーデン映画史上興行成績ナンバー1に輝く。その後もコメディ作品を中心に脚本と演出を手がけ、マルティナ・ハーグ原作のベストセラーを映画化した『青空の背後』(2010)は、トロント国際映画祭や日本で開催された2014年のスウェーデン映画祭で上映された。スウェーデンの人気小説家フレドリック・バックマンの小説を映画化した本作で、2016年のゴールデン・ビートル賞の6部門にノミネート。観客賞など3部門を受賞。
ミン:
ホルム監督があまりにハンサムなので、私、今とてもドキドキしています(笑)。
ハンネス・ホルム監督:
ははは(笑)!ありがとう。僕の初恋の人がハーフの日本人だったので、日本の女性にそう言っていただけるのはとても光栄です。
ミン:
本作はスウェーデン映画史上3位という大ヒットを記録しましたが、映画化する過程で“ヒットの予感”や手応えのようなものは感じられましたか?
ハンネス・ホルム監督:
実は宇宙からサインがあってね…。
ミン:
う、う、宇宙からのサイン!?
ハンネス・ホルム監督:
というのは嘘だけど(笑)。スウェーデンでの公開日がちょうど2015年のクリスマスで、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の公開時期と重なっていたんだ。それで、子どもたちには「パパの映画はスター・ウォーズよりもビッグヒットになるよ!」って冗談で言っていたんです。そしたら、それが現実になってしまって。本当にビックリしました(笑)。ただ、監督をしているときは、ヒットするかどうかを気にし出すと作品に集中できないので、撮影現場では自分が観たいと思う映画を撮ることに専念していました。
ミン:
そうだったのですね!ところで、本作の主人公オーヴェは、サーブ車以外に乗っている人を認めないというガンコ者です。実際にスウェーデンでは「サーブか、ボルボか」という論争が人々のあいだでよく起こるそうですね。この論争では、サーブはブルーカラーの人が乗る車、ボルボはホワイトカラーの人が乗る車として人々の階級を象徴しているそうですが、監督はこのシーンにどういった思いを込められたのですか?
ハンネス・ホルム監督:
この論争は60〜70年代に男性同士でよく繰り広げられていたもので、原作小説にも出てきます。ただ、小説ではオーヴェが何かにきちんと愛情をもてる人間ということを示すための描写で、映画ではラブストーリーのなかにオーヴェの愛情深さを描いていますので、入れなくても良かったのかも知れません。ですが、さまざまな年代の方にこの作品に共感をもってほしいという意図と、私自身がこの場面をとても気に入っているので、敢えて脚本に入れることにしました。
ミン:
ある年代の人にとってはノスタルジーを感じるような、時代を象徴する論争ということなのですね。
ハンネス・ホルム監督:
そうですね。今ではサーブは生産中止になっていますし、ボルボは中国企業の傘下に入ってしまいました。この論争は、ある意味で“古き良き時代のスウェーデン”を象徴していると言えます。
ミン:
なるほど!ちなみに、ホルム監督はどこのメーカーの車に乗っているのですか(笑)?
ハンネス・ホルム監督:
えぇっと…。ずっと日産車に乗っていたんだけどね、今は“たまたま”ベンツに乗っています(笑)。
ミン:
本作では、オーヴェ役のロルフ・ラスゴードさんがスウェーデンのアカデミー賞と言われる “ゴールデン・ビートル賞”の主演男優賞を受賞されましたね。
ハンネス・ホルム監督:
はい。彼はとても素晴らしい俳優で、今作の彼の演技は100パーセント満足できるものでした。キャスティングできたことに、心から感謝をしています。
ミン:
偏屈だけれど心根の優しいオーヴェを見事に演じられていて、素晴らしかったです。さらに、ソーニャ役のイーダ・エングヴォルさんも、とても魅力的でした。瞳の強さと輝くような明るい笑顔が、まっすぐで優しさに溢れたソーニャにぴったりだと思いました。彼女を起用した理由を教えてください。
ハンネス・ホルム監督:
ソーニャは登場シーンやセリフも決して多くはありません。しかし、そのなかでオーヴェと愛し合い、辛い悲劇にも見舞われる。この役を演じるのはとても難しかったと思うんですが、イーダは豊かな表現力で見事に応えてくれました。小説においても、映画においてもオーヴェはとても強い女性に守られている。そこが私は気に入っています。
ミン:
たしかに、彼女の登場シーンはそんなに多くはないんですよね。でも、そんな気がしないほど印象的で、どんな辛い場面でさえ、彼女が登場するシーンではオーヴェの人生が華やいで見えたんです。それは、彼女の外見から受ける印象も大きかったのですが、彼女のルックルもキャスティングに大きく影響したのではないでしょうか?
ハンネス・ホルム監督:
外見的なことで言えば、イーダは小説に出てくるソーニャの印象とはかなり違っているんです。でも、自分のなかではソーニャ役には、キャサリン・ヘップバーンのような雰囲気の女性を思い浮かべていました。それで、メイキャップ担当にはキャサリンの写真を見せて役のイメージを伝えたんです。
ミン:
なるほど!たしかに、キリッと描かれた眉や、明るい色の口紅などが往年のアメリカ女優的というか、キャサリン・ヘップバーンさんのイメージと重なるところがありますね!
続きを読む>>>>> 1 2:心豊かに年を重ねるためには、好奇心を持ち続けることが大切
2016年12月17日より全国順次公開
監督・脚本:ハンネス・ホルム
出演:ロルフ・ラスゴード/イーダ・エングヴォル/バハー・パール
配給:アンプラグド
59歳になるオーヴェは、かつては町内の自治会長を務め、近所では規律に厳しい人間として知られていた。しかし、年を取るごとに気難しさに拍車がかかり、今では町の皆に厄介がられている。そんなある日、オーヴェは43年間も務めた鉄道局から解雇されてしまう。愛する妻も数年前に他界しており、孤独に耐え切れなくなった彼は首つり自殺を図るが、近所に引っ越してきたパルヴァネ一家の車がオーヴェの家の郵便受けにぶつかって、自殺どころではなくなってしまう。烈火のごとく一家を怒鳴り散らしたオーヴェだが、その日をきっかけにパルヴァネ一家との距離が縮んでいき、彼の心にも少しずつ変化が生まれていく…。
© Tre Vänner Produktion AB. All rights reserved.